古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

祖母に千円もらう

 昨日は、母が所用で帰宅が遅くなっていた。
 うちは母と、母方の祖母と三人暮らしなのだ。祖母は母方の祖母で、祖父の介護をしながら伯父と同居していた。昨年二月に脳梗塞を起こして入院し、退院してから、うちで一緒に暮らすことになった。伯父が祖父を担当し、うちは祖母を担当するような形となっている。
 脳梗塞を起こしたと言っても寝たきりではなく、ふらふらしながら時々買い物をして来ることもある。体はいくらか不自由だが、気持ちは至って元気で、耳も遠くないので、何を話しかけても元気に返事をしてくれる。祖母が来る前は母と二人暮らしで、大した会話もなくテレビの音だけがする食卓であったのが、明るいものになった。
 祖母は週に二回養護施設のデイサービスに出かけていく。いつも嬉しそうに行って帰ってくる。「老人ホームなんて行くの嫌じゃないんかね?」と聞くと、家では自分は体が満足に動かなくて、オレや母が活発に動くのを惨めな気分で見ているのだが、施設に行くと自分より弱っている人が多くて優越感に浸れると老人らしいのからしくないのかよく分からない答えをした。
 先日『うたばん』を自室のテレビで見て笑っていた。祖母はチャンネルを自分で変える事があまりなく、固定されたチャンネルをずっと見ている。他にも『笑いの金メダル』を見て笑っている事もあった。意味が分かって笑っているのか聞いてみたいのだが、気を悪くすると申し訳ないので聞けないでいる。
 今はホリエモンの報道にすっかり夢中で、見ているといつまでも飽きないと言った。しかし、祖母の中ではホリエモンが、耐震偽装マンションも売っていた事になっていた。
 ある時祖母が、「幸せなのも退屈なものだね」とローマの貴族階級の人のようなことを言った。うちに来た当初は店で使う、箱を折ったりもしていたので、またそういうのをやったらと提案したら、それは嫌だと言った。
 昨日は母が外出して、帰宅が遅くなっていた。自室で仕事をしていたら、ドアを祖母がノックした。ドアを開けると祖母が立っていて、「ご飯がいつになるか分かんねすけ、これで外で食べて来なさい」と千円を握り締めていた。「祖母ちゃんはどうすんね」と聞くと「私はもう食べた」と言った。しかし、まだ食事するには早い時間で、まだお腹が空いてないからいいよと断ったのだが、いいからと言ってお金をくれるのであった。
 また仕事に戻ってしばらくすると母が帰ってきて、食事になった。母によると祖母は一人で台所で立ったまま適当に食べたそうであった。祖母はそうやって勝手に一人でやるのが嫌いではなく、むしろ時々やりたいのではないかと母は言った。母に千円貰った事を話すと笑っていた。