古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

お世話になりました

 にいがた映画塾という自主映画の製作や自主映画講座の運営をしている団体に所属しています。そこでお世話になった花岡さんが故郷の長野に帰ることになりました。

 前回お会いしたときに、そいういう話を聞いて「それじゃあ、盛大に送別会しましょうよ」などと調子のいい事を言っていたのに、送別会の日程は東京に出かけていて不参加だった。何の連絡もなしに不参加で、オレはそういった無精なことがとても多い。
 先週友達とミュンヘンを見た際に、送別会に出れなかったから花岡さん誘って飲もうと話していた。
 作画中の原稿が一段落したので、映画塾でお世話になってる基村監督の映画の上映会に顔を出した。それも上映時間に遅れて行った。基村監督は以前から『イレイザーヘッド』を髣髴とさせる難解な作品を量産しつづけていて、その彼が初めてストーリーのある作品を作ったとのことだった。『主食兎』というタイトルのフィルム撮影による40分くらいの自主映画にしては大作であった。途中から見たのであんまり言えることはないのだが、期待していた兎を食べる場面はなく、30分を5時間に感じさせる映像の魔術師ぶりであった。
 上映会の運営に花岡さんが携わっており、「今度飲み行きましょうよ、いつまでいるんですか」と軽い調子で尋ねると、「明日まで」とのことであった。送別会にも無断欠席であったせいかちょっとむっとしていたような気がした。
 これはまずい。怒ってるのがまずいし、何よりオレが無礼極まりないのがまずい。

 映画だけ見てさっさと帰って作業の続きをしようと思っていたのだが、上映会の打ち上げにちょっと顔を出す事にした。打ち上げ会場に行く前に蔦屋に寄って餞別に『チームアメリカ』のDVDでも買おうかと思ったが、高いので止めて本にした。映画を通しての付き合いだったので、去年発売してすぐ買って読んで面白かった町山智浩さんの『ブレードランナーの未来世紀』が目に付いたのでそれにしようと思い、しかし既読であったら困るので携帯に電話を掛けたが通じなかった。そのまま買って会場に向かった。蔦屋の袋に『ブレードランナーの未来世紀』と自費出版した『ピンクニップル』を入れた。
 花岡さんに「町山智浩さんの本って読みましたか?」と聞くと、まだ読んでない読みたいとのことだった。早速手渡すと、ちょっとチューバッカに似た顔をほころばせて嬉しそうにしてくれた。よかった。

 あのまま上映会に行かなかったら会わずに終わってしまうところだった。
 花岡さんはずっと新潟の市民映画館シネウィンドで働き、にいがた映画塾のスタッフとして尽力して40歳になってしまった。去年シネウィンドを退職して長野で就職することになったそうである。数々の自主映画にもカメラとして参加し、初心者にもカメラの貸し出しも惜しみなくした。新潟の映画を製作から上映まで底辺から支えた人であった。オレの映画でも何度かカメラを回してもらった。一人っ子のオレも、ちょっと兄貴と言いたくなる気さくで暖かな人だった。ブログのことなんて話してもいないので、こんな文章は多分読まないだろうけど、本当にお世話になりました。