古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

苦しいのはスタミナ切れだ

 何が怖いと言って暴力が怖くて仕方がなかったのだが、空手を始めて1年半を過ぎて印象が随分変わった。

 格闘技の観戦は大好きで、普通にテレビで見ていてKOシーンを見ると「痛そうだ」と想像し震え上がる事もしばしばであった。痛いのは怖い。

 高校時代に剣道をやっていて、剣道は本当に痛かった。脳天や脇の下を竹刀で叩かれるのは本当に痛い。血液が逆流するような痛みを味わったものである。また、冬場の板張りの道場は足の裏が冷たすぎて痛さを感じた。

 ところが、空手を始めて、始めて強くお腹を叩かれた時は「ぐえっ」となり気持ち悪い感覚はあるものの、痛さとは違う感覚であった。顔を蹴られるのはむしろ何か覚醒するような気持ちよさがあった。流れで顔に拳が入る事もあるが、その場では痛さは感じなかった。その後しばらく顎が痛いというのはあった。下段を防御して脛で受けるのは痛い。サポーターをしていても痛い。ムエタイの選手などはサポーターもせずに生足でバンバン蹴り合っていて、信じられない。金的は薄くもらっただけでもすごく痛い。

 「痛い」と「苦しい」、「怖い」は似たカテゴリーに属すると思うが、次元が違う問題なので、混同しないように気をつけたい。

 空手の組み手などで苦しいのは痛さではなく、息が上がって動けなくなってもなお動かないといけない状態だ。下段蹴りを貰うと足が動かなくなって苦しいし、お腹に突きをもらうと一気にスタミナゲージが下がる感じがして苦しい。なので、スタミナが目一杯あればいくらか有効打をもらっても平気なのかもしれない。本格的に超強烈な打撃をきれいにもらったことがないので迂闊な事は言えないが、もしかして、打撃では怪我でもしない限り、イメージするような痛さは感じることはないのではないだろうか。

 関節技は痛そうだ。試合中という興奮状態にあってなおプロ格闘家が、叫んだりタップしたりする関節技は本当に痛いのだろう。恐ろしい。しかし、普通のストリートファイトなどでは関節技を掛けられることはまずないだろうから、普通の暴力に対する恐怖心は随分薄らいだ。

 刃物で刺されたりするのは痛いのだろうか。お腹を刺されると、痛いというより熱いという話も聴くが、本当なのだろうか。こればっかりは試したくないものだ。それから、拷問は嫌だ。爪を剥がすとか、そういうのは一生味合わずに済ませたい。