古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

箆棒な人

 昨日のにいがた映画塾はシナリオの回だった。以前にシナリオ講座を受講した司先生がいらして、班に分かれ、最近感じたことを各々述べ合った。すると同じ班のXさんの奇妙な生活があらわになって行った。

 同じ班のXさんの生活が凄まじく、一家は離散し、住んでいる家は抵当物件となっているて、専住屋に入られないように自分で壁をボコボコにしているという。しかしその家には化学物質過敏症で住めず、海岸で寝袋で暮らしていると言うのだ。お金はどうしているの?と聴くと生活保護だった。化学物質過敏症がひどくで仕事がやりにくいそうで、12万円くらいもらえるそうだ。そのくせボクシングで体を鍛え、いつもお酒に酔っていた。昨日も朝から酒臭く、お酒は体に悪くないの?と聴くと「滅茶苦茶悪いっす、でも飲まないとやってらんないっす」と言い、昼休みにカバンから出した小瓶のウィスキーをぐいぐいと呷っていた。

 朝からの講座で、手の甲がだんだんはれて皮膚が裂けて血が滲んでいるのが、夕方にはどんどん大きくなった。絆創膏はればと言うと、粘着剤で皮膚が余計にただれるのだそうであった。体は弱いのにベンチプレスで100キロを上げるほど力は強く、ちなみに、女の人の香水や化粧品の匂いで気持ち悪くなるので29歳にして童貞なのであった。

 Xさんの父はノミ行為で生計を立てて、一家を養い家を建て、二人の子供を私立大学に進学させたほどの人なのだが、どこかに行ってしまったそうだ。Xさんは大学で法律を学び司法試験を目指して勉強をしていたのだが中座しているところであった。

 うちは隣に使っていない古い民家があるので、科学物質が大丈夫なら使ってもらってもいいかと思うのだが、軽い気持ちで下手に手を差し伸べるのは良くないのだろうか。調べると彼はオレと同じく土星マイナスだった。今年から三年間大殺界という恐ろしく不振な期間で、正しくそれを体現している。三年の間に死んでしまうのではないだろうか。彼とは元は道場で出会って、先生との折り合いが悪くすぐに辞めてしまった。ライトスパーなのに本気で入れてくるお行儀の悪いところもあったが、確かに強かった。今回の映画塾で再会し、大した縁でもないと思うのだが、同じ孤独な土星人としてのシンパシーもあり、また、ユニークな人生に興味があるし、何より格闘技が強い人に対する尊敬の気持ちも強い。

 こんなにも凄まじく深刻な生活ぶりで、オレが同じ立場だったらさぞ心細く、ふさいでしまいそうなところを、Xさんは酒に逃げつつも明るく元気に生きているのが不思議かつ素晴らしい。立派だ。ホームレス生活をしているのに、二日に一回は風呂に入らないと具合が悪くなるそうで、いつも身奇麗にしていて、気がつくと同じロンTを1週間着ているオレよりキレイ。

 いくらかでも縁のある人が死んでしまったら、やっぱり悲しいし、手を差し伸べる余裕があるのにそれをしないというのは罪なような気もする。悪人ではないと思うので、まずは母に相談してみよう。それに、手が足りないときは店の手伝いをしてもらえばいいかな。