古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

血で描かれたマンガ『鈴木先生』

 今回の連載を漫画アクションにお願いしようと思った理由の一つは武富健治さんの『鈴木先生』というマンガの連載があったからでした。このマンガは映画秘宝大西祥平さんの連載で紹介されていたのがすごく面白そうで気になって、連載の途中から読んでみました。
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鈴木先生

 中学校の若手教師である鈴木先生が、教室や生徒に起こる問題を反吐が出るくらいに悩んで悩んで悩みぬいて、問題の核心が一体なんなのかを解明するというマンガです。学園ものでありながら、問題を解決するに当たってはミステリーのような味わいもあります。とにかく鈴木先生の苦悩っぷりが凄まじく、その問題への回答が読者であるオレの想像を二段も三段も上回っており、その問題にオレが直面した場合を考えると、鈴木先生の回答以上のものはまるで想像できません。

 オレが初めて読んだ回は、単行本の最後のエピソードで、中学2年のイケメンの生徒が、同級生の妹を強姦してしまい、しかもその妹が小4だったという回でした。学校に怒鳴り込む母親に対してまず鈴木先生は「あなたも大人として教育者として加害者である彼と向き合って下さい」と述べます。ここでまず、さすが!鈴木先生と思うわけです。

 結局強姦というのは妹が母親に問い詰められて苦し紛れについた嘘であったことが判明するのですが、問題は、子供がセックスをしてなぜいけないのか、何が罪で誰が裁かれなくてはいけないのかという問題の核心が浮き彫りになって来ます。これ以上はネタバレになってしまうので触れませんが、鈴木先生の解決ぶりがとにかく凄まじいわけであります。

 この度、目出度く第一巻が発売となり、気になっていた前半のエピソードも読むことができました。そこでは実にデリケートな問題がデリケートに描かれていて、一つの問題がありとあらゆる角度から検証されていたりと、追求度の高さと言ったらありません。

 世の中には薄めて薄めてカルピスだかほんのり白っぽい水だか分らないようなマンガが溢れているわけでありますが、武富先生のマンガはカルピスの原液を煮詰めてタール状にしたかのような過剰な濃さであります。こんなマンガを描いていたら10年持つのが1年で終わるのではないかというくらいの強烈なマンガです。

 これからも『鈴木先生』は漫画アクション誌にて不定期連載中でありまして、『ライフ・イズ・デッド』も合わせてお読みいただきたく思います!