古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

空手の試合でした

 空手の試合を道場でやった。新人の大会で、トーナメント戦だった。オレは2試合目で、相手は始めて数ヶ月の34歳の人だった。

 この試合に向けてじゃないけど、本当は7月にあった試合に向けて筋トレと加圧とランニングとプロテインを始めて、その成果を試す機会がやっと訪れた。ブラジリアンキックもずっと練習していた(週1だけど)。何とか上段蹴りで技ありを取ってみたかったが、オレの最大の目標は「みっともない負け方をしない」であった。例えば2分の本戦が終わってポイントが無い場合は大抵延長戦になる。その際「もう気持ち悪いんで辞めていいですか」などと言わずに終わりたい。

 夕べは興奮と緊張で眠れず今日の11時くらいにやっと寝た。寝る前に『SASUKE』と新潟でも放送された『草野キッド』の特番を見た。長野さんが完全制覇に成功していた。すごい。寝る前じゃなくて出かける前に見ればよかった。

 4時半に道場に着いて、柔軟、サンドバックを1時間した。体が硬くて上段が蹴れないなんて事は絶対に避けたいと思っていたのだ。充分温まったが、試合が始まるのが8時だった。まだ2時間以上あった。赤道まで散歩してipod銀杏BOYZ岡村靖幸を聞いた。岡村靖幸が「オレのソング、ドラッグ、セックス!」と元気に歌っていた。そのドラッグは覚醒剤のことであったのだが、覚覚醒剤のテンションでオレも覚醒し、銀杏BOYZの『SEXTEEN』で峯田さんの狂獣のようなパワーを漲らせた(つもり)。

 散歩に出る前に、先生に蹴りを出すとスタミナが切れるから突きで攻めた方がいいと言われ、それも手段かと思ったのだが、峯田さんと岡村さんの歌を聞いていたらそんな消極的なことでどうする、これまでやってきたことを全部一気にぶちまけなくてどうするのだと思った。

 まずは、絶対にブラジリアンキックを出す。それから、攻撃を右反転身して、スイッチした状態からの逆突きと鍵突きをずっと練習していたのでそれは出したい。それから、踵をきちんと返しての中段、下段はばしばし打ちたい。
 すごく軽めに筋トレしたり、更にストレッチしたりしているうちに人が集まってきた。

 番号を背中に貼り付けたテープにマジックで書いた。オレは4番だった。番号順に並んで全員でウォーミングアップと柔軟をした。オレはその途中でどうしてもうんこがしたくなってトイレに行った。すごく気持ちよく出て、肛門もあんまり汚れなかった。ウォシュレットを普段使っているので、それがないと不安で仕方が無い。とにかくうんこを出せてよかった。我慢したままだったら絶対に、途中でうんこを漏らしたはずだった。
 
 1試合目は洋服店をやっている藤田さんが延長で勝った。藤田さんは稽古の後も青柳さんなんかと一緒にミット打ちしたりしていて股割りもしっかりできる。そのせいか自信たっぷりだった。また手数も多く、圧倒していた。

 オレの試合になった。
 相手がそんなに上手な人ではなく、前に詰めても来なかったので戦いやすかった。何度か上段を狙ったが全部よけられた。多分こっちも上手に蹴れてなかったと思う。その代わり下段を全然よけないので、バシバシ当たった。道場の人が「下段!下段!」とアドバイスをしてくれるので、それに従った。けっこうよろけていたので、転ばせてやろうとして蹴ったのだが、転ぶまではいかなかった。
 本戦では手数を温存したせいで、相手の方に旗は上がったが引き分けで延長となった。そのため完全にガス欠になるまでの疲れはなかった。延長も下段がよく当たった。相手の前蹴りがおなかに入って「ぐえっ」と声が出た。延長はこっちに旗があがったのだが、結局引き分けで、体重判定となった。オレが75キロで相手が61キロだったせいで、負けてしまった。
 相手は白帯で初心者、オレは青帯で体重も10キロ以上もあるのに負けてしまったのだ。かっこわる〜い。

 そんな結果だったのは胸を張れる事ではないのだが、とにかくさっき書いたみたいな最悪の結果にはならなかった。結局は失敗したけどやろうと思っていたことを試すこともできた。そして何より試合というものを経験できて、やっと道場の仲間になれたような気分がした。相手が初心者だったせいもあるかもしれないが、フェイスガードもあったせいか、恐怖心は全然なかった。初めてこんな風に人と争いごとをして、そこで逃げたり背中を向けたりしなかった。オレにとっては革命的な出来事なのだ。

 越道会の人は相当数1回戦で負けてしまった。藤田さんが4位、白井さんが2位だった。二人とも喧嘩殺法だった。積極果敢に闘争心溢れる試合をする人が勝っていた。オレと同じく1回戦で負けてしまった人と車座になって「オレたちには闘争心がない」と語り合った。池田さんはそんなふうに悲しげに語った。松原さんも優しい顔で悲しそうに笑った。オレとしてはそんな人たちとゆるく空手が続けられたらいいなーと思うのだった。

 1試合しかしなかったので、筋トレして帰ろうかと思ったが、興奮したせいか頭が痛く、下段を蹴った脛も痛かったのでストレッチだけして帰った。

 風呂に入って食事して、『親切なクムジャさん』を30分見て寝た。


 先ほど、動画を見てみたところ、オレは全然突きが出せてなくて、相手に攻め込まれるとすぐに手が出なくなって後ろにさがってしまっていた。これじゃあ判定で勝てるわけがない。もうちょっと積極的に動くように心がけないとダメだ。動きにもダイナミズムがない。3回放った上段蹴りは上からの軌道を全く描いていなかった。でも打つたびに「シュッ!」と息を吐く呼吸法はできていてそこはよかった。