古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

マンガ道

 ここのところしばらく、まとまった枚数の原稿作業はやってなくて、いくばくかの不安が芽生えて来て、それは何かと言うと経済面や社会人としてぶらぶら過ごす毎日のへの後ろめたさであったりするのです。

 そうは言っても、去年も今年も長編が売れて原稿料がもらえるという実に恵まれた状況です。ここで売れるという意味は単行本が大量に売れるという意味ではなく、一般的な額の原稿料の出る出版社に売れたという意味であります。

 振り返ると一昨年、『死んだ目をした少年』と『ピンクニップル』を描いていた時期はひどかったわけです。どっちも原稿料0! 『死んだ目をした少年』は青林工藝舎から書籍にしていただいて印税をもらうことができたのですが、『ピンクニップル』はものは試しということで自費出版して500冊刷りました。どうにか1年で完売することができましたが、当初は不良在庫化するのではと思い、途方に暮れました。それで回収した額は原稿料の1/3くらいでしょうか。普通にざくっと計算して、両方で原稿料がもらえていたら、300万〜400万くらいで、回収したのは70万前後です。その一昨年は金にもならない原稿をそれまでに無いほどの勢いで描いていたのです。なんだこりゃという気持ちもないわけではないのですが、その時期にしか描けないし描きたいという気持ちで、とにかく後先考えずに描いてました。一昨年は後から計算したら365枚描きました。当時、ウォーA組とウラBUBKAにショートの連載があったお陰で、180万くらいの所得がありました。

 そう考えると今年はこれまで仕事したのが売れているので経済面で不安に思う必要はありません。でも、次に描こうと思っているマンガはこれがまた、一般誌では買ってもらえる可能性がそんなに高くない題材なので、自分なりには精一杯サービス精神旺盛に描くつもりでもちろんあるんですよ、でもオレのサービスは小泉劇場のように歯切れがよくないですから、ダメな予感がひしひしとあるわけです。

 これを徐々に準備している最中で、経済を逼迫する予感があることが、不安を増幅しているわけです。今書いてて気づいたんですけどね。

 これは何かと言うと、道でないかと思ったのです。剣道や柔道でいうところの道(どう)で、マンガ道(まんがどう)と捕らえて自分なりにすっきりして落ち着かせたい。剣道なんてやっても健康管理や護身術にはなるかもしれませんが、別に金になるわけでもなく、大会で勝った負けたと言っても励みになるくらいなものですよね。アマチュアイズムかと言うと、オレにはそういう面がある。あります。プロ意識がもっと強くあったら、より売れる方向で物事を進めると思うのですが、やっぱり嫌ですね。好きなことをしたければいろんな意味で実力を付ければいいと言う意見も確かにあって、それは正論で、でもオレは単に好きに描くだけならお世話になっているアックスさんが、よっぽどひどかったらボツですが、多分そこまでじゃないと思うので掲載してくださる状況なので、現状に不満がないわけです。むしろ完全に幸福で、何が原稿料欲しいだと、東京で暮らしていた時代を考えて見ろと、誰か思い上がるんじゃねえ!とオレに言ってください。環境は完全に整っています。

 確かにもっと売れれば、単行本の単価も下げることができて、より多くの人に見てもらえる可能性が上がるのですが、そのために分かりやすくしないといけないとなると、そこで失われるオレなりの面白さを、救い上げるそこまでの腕がない。結局は実力や器の問題となるのかもしれません。

 ここから先、半年以上掛かる仕事に対して、経済面は追及しない方針をあらかじめ言い訳しました。その代わり次が最後のマンガになっても悔いが残らないように好き勝手極まりなくやりたいと思います。