古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

第一回 古泉文学賞

 オレが本当に感動した文芸作品に僭越ながら賞を認定して、その素晴らしさを讃えようと思います。

 以前に読んだ時にあまりに素晴らしかったのでブログの記事にしようと思いながら、部屋があまりに汚くていつのまにか、その存在をすっかり埋もれさせてしまっていたために、随分時間が経ってしまったのですが、改めて読んでもその素晴らしさは全く色褪せていませんでした。

『ホテルと部屋』 六年X組 U村H輝

 佐渡に着いていろいろ見た。そしてやっとホテルに着いた。
 部屋の中を見てみると、合宿とは、まるっきりちがった、大きな部屋。ちゃんといすもついていた。
 まどから、海が見えた。この景色は、他のホテルと比べてとても、きれいだった。
 下に降りてみても、おみやげを買う所もあるし、ぼく達は、使わなかったが、フロントがあった。その辺には、赤いじゅうたんがしいてあり、ロビーまであった。
 夕食もすごいものだった。ぼくの兄の福島の時は、ごはんにかめ虫が入っていたと聞いたが、佐渡では、そんなことはないようだ。
 出し物が終わって部屋に帰ると、ふとんがきれいにしいてあった。
 部屋の中にはテーブルがあり、テーブルの上にはお茶とおかしがならべてあった。
 夜、S野先生が話したことだと、そこの洗面所で人が死んだそうだ。後からうそだと言ったが、ぼくは、寝ているときに、洗面所を見れなかった。
 ぼくは整理係なので、スリッパをきれいにしているのだが、何回やってもきれいにならなかったし、リュックサックもばらばらだった。こんな部屋の中でも帰る時になるときちんとなった。
 この部屋に一番長くいたので、だれもがこの場所に慣れただろう。
 他の班の部屋も見たが、自分の部屋が一番安心した。なぜかというとおみやげがあったからだ。
 今度佐渡に来た時には、この旅館のこの部屋に泊まろう。


 とある小学校の『佐渡旅行文集』より、U村くんの『ホテルと部屋』、原文のままお送りいたしました。U村君の泊まった部屋に対する愛着が伝わる素晴らしい作文なのですが、その根拠が、部屋に椅子があることや、夕食のご飯にカメムシが入っていなかったこと! 先生のお茶目な嘘も楽しさが伝わります。また佐渡を訪れた際には同じ部屋に泊まろうと決意するほど気に入っていたのに、最後にホテルなのか旅館だったのか混乱させてくれるところも素晴らしいです。

 それから最近、ちあきなおみさんの『喝采』今月入ってほぼ毎日聴いています。CDでのオリジナル音源もいいのですが、こちらのレコード大賞を受賞した際の映像もすごくいいです。ちあきさんはおばちゃんのイメージでしたが、72年当時はまだ25歳で大変かわいらしく、川谷拓三さんみたいなヒモ亭主に場末のキャバレーで働かせられてそうな薄幸そうな雰囲気がまたいいですね。緊張感溢れる歌唱風景と、合唱付きの荘厳なアレンジも素晴らしいです。