古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

大島弓子先生の最新作

 大島弓子先生はそれこそ60年代から活動されていた大ベテランなのですが、オレは87年の月刊ASUKAで掲載されていた読みきり作品に衝撃を受けたという、にわかファンであります。

 初めて読んだ作品は『秋日子かく語りき』です。近所の石沢書店で、それこそ毎日立ち読みしていて少年マンガで目ぼしいものは読み終えて、少女マンガでも読んでみようかという気持ちで手にとったその初めての雑誌、月刊ASUKAに掲載されていたのがこの作品です。月刊ASUKAの読みきりシリーズでも初めて掲載になったものであると思います。自動車事故に合った女子高生が涅槃で知り合ったおばさんに一週間肉体を貸して現代に蘇らせてあげるという話でした。体は女子高生なのに、精神や行動がおばさんで、おばさんは女子高生の生活を尊重しながらも自分の人生の残務処理に励むという物語でした。奇想天外な発想でありながら、日常性に根ざしたドラマで、何よりも登場人物の感情の機微を丹念に描いた作品でした。

 文芸的な味わいのマンガに触れた最初であったかもしれません。とにかくあまりの面白さと味わいにビックリして、こんな世界があったのかとドアが開いたような感覚を味わいました。月刊誌だったので、その次の号が出るまで何度も何度も立ち読みしました。高2か高3で、暇だったというのもありますけどね。それに続く『夏の夜の獏』『つるばらつるばら』『ロングロングケーキ』『毎日が夏休み』などなどすごい切れ味の傑作マンガで、どれも何度読んだか数え切れません。


 こちらの作品集はNHKドラマ「ちょっと待って、神様」原作として再発されたもので、現在あすかコミックは絶版で、この作品集以外は文庫本で出ています。文庫本はアマゾンに画像がなくて面白くないです。

 それで、角川のあすかコミックからその後出版される、一連の短編集がどれもこれも素晴らしく、大学時代は実家用とアパート用と2冊ずつ完備してました。当時、出ていた『大島弓子選集』が1冊千円以上したのですが、それも全部買いました。でも、あんまり好みじゃなかったです。名作の誉れ高い『バナナブレッドのプディング』もあまりよく分かりませんでした。

 当初は大変な大傑作読み切りマンガだけだったのに、さすがの大島先生もしばらくすると息切れがするのか、猫エッセイマンガが単行本に入るようになり、その比率が増加して行きました。サバという猫を擬人化した表現によるマンガで、確かに素晴らしく面白いのですが、こっちは大島先生の空想が天高く飛躍するすごい読みきりが読みたくて仕方がない状態だったので、少々がっかりしていました。刊行ペースも次第に落ちて行き、最後の創作の読みきりである『雑草物語』は、通常の一冊分の原稿がまとまらなかったせいか、偉くペラペラな本として刊行されました。後に、この時期サバが死んでしまったり、ご病気をされていたことが分かりました。

 それで、ここ数年は猫エッセイマンガしか描かなくなっていらっしゃいました。『グーグーだって猫である』というマンガですが、オレは申し訳ない事に「なんだ猫エッセイか」と非常によろしくない態度で、単行本を買いませんでした。しかし、オレがマンガを描けるようになるために最大級の影響を与えて下さった大恩人である大島先生が本をご出版されているのに、一体なんだと改めてアマゾンで発注して拝読しました。すごくよかったです。特に「オレは大島弓子ヲタである」という観点から見るとたまらない作品でありました。ご病気されたり、かわいい猫ちゃんがどんどん増えて、それに夢中な大島先生の可愛らしさ! そして今月第3巻が発売となっており、絶対に買わないといけないわけであります。