古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

『大日本人』見ました

 松本人志監督作品『大日本人』については、大変なプロモーションの割りに「北野監督に慰められる」「映画ではない」「淡々として山がない」など、まるで滑っているかのような不穏な評価が聞こえて来ており、果たして大丈夫なのかと心配になりながら月曜メンズデーでユナイテッドシネマに行って来ました。

 分かっている人ヅラするようで恐縮ですが、大変面白い映画でした。爆笑するような場面はあまりないもののどの場面も面白く描かれていて、声を出して笑うところもたくさんありました。でも平日の昼間のユナイテッドでは滅多に無くお客さんが入っていたのに、笑ってるのオレだけでした。新潟の県民性の問題なんでしょうか。『グエムル』の時もオレと一緒に行った永島くんと、もう一人離れて座っていたおじさんだけがゲラゲラ笑ってました。

 以下、ネタばれ大有りで感想を述べます。これから楽しみに見ようとしている方は絶対に続きを読まないでください。絶対に読まないで見た方が面白いですよ。

 そうは言っても、松本さんの映画だからと期待に胸をパンパンに膨らませて見に行くと、爆笑映画ではないので、気持ちのやり場に困るというのも頷けます。そもそも、浜田さんの突っ込みも、スタッフの誘い笑いもないので、笑いポイントをテレビのようにガイドしてくれない。

 巨大化して怪獣と戦うヒーローとして存在する大日本人である大佐藤へのインタビューのドキュメント形式で構成された、リアリズムの怪獣映画です。現実にそんな人がいたら果たしてどのような日常を送り、どのように怪獣と戦い、どのようなメンタリティなのかを実に上手に丹念にシュミレートしています。しかも、大日本人に変身し、巨大化した大佐藤は全然かっこよくなく、また怪獣もふざけているので、そこでもお客さんを困惑させます。淡々とした場面が多いですが、面白くする工夫が凝らされているので全く退屈はしませんでした。

 『エヴァンゲリオン』に端を発する、謎の巨大怪獣や生物が分けの分からないまま人類に襲い掛かるという謎を、伝統と歴史に位置づける事で、納得させるという回答を導き出しているのは見事です。歴史映像に歴代の大佐藤が映っているのも面白かったです。でも笑っているのはオレだけでした。

 お金と技術と時間と労力をつぎ込んだビジュアルバムと言えば、言えるような気もしますが、だったらオレには上等です。次回作にも期待が高まります。今回は不安と心配で見に行ったので、逆にひどく面白く感じる部分もあったのでその点がまた心配です。『トゥモローワールド』以来でパンフレット買いました。

 好みの問題ですが、ラストが着ぐるみコントになってしまったのは嫌でした。世界観を壊さないCGバージョンをDVD特典で付けて欲しいです。外国で受けなかったというのは、何しろ我々は松本さんの顔に20年くらい親しんでいるわけで、冷静になって見ると、そんなに慣れてない人々に受ける見てくれではないですよね。果たしてそういう人らに、松本さんの顔面で画面が持つのだろうかという疑問はあります。それからラスト近くの場面で自衛隊特殊部隊みたいな人たちが大佐藤宅を急襲するのですが、それが必要以上にものものしく演出が過剰でちょっと白けました。ロープを伝って降下する必要は全くありません。大絶賛も気持ち悪いので敢えて苦言を呈してみました。本当はすごく満足なんですよ。

 それから去年あらゆる賞を総なめにした『フラガール』をDVDで見ました。ベタベタのベタドラマでストーリー至上主義者としては全く評価できないのですが、演技と演出がいいので感動的な場面で泣いてしまいました。なんだかなー。泣けるのと面白いのは全く次元の違う問題です。