古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

4月にエロマンガ作品集が出ます

 短編集は全体をくくれるようなタイトルを考えるようにしていたのですが、上手い事思いつかなかったので『ピンクニップル』にしました。自費出版で作って、『エロ悲しい』(新風舎)に収録していただいたマンガと同じものです。自費出版で500冊、『エロ悲しい』では何冊刷ったのかよく分からないですが、既に多くの人からお金を頂戴したマンガでまた商売をする事に非常に気まずい思いがあります。普段は、雑誌掲載→単行本という流れで、雑誌は大抵そんなに高くないですし、他のマンガもたくさん収録しているのでそんな不都合は感じないのですが、今回ばかりは実に申し訳ない気分です。そんな皆さんにも他のマンガも面白いので是非とも読んでいただきたく、できれば値引き販売が一番いいんですが、書店さんに多大な迷惑が掛かる以前に、そんな事を言ったら販売してもらえなくなります。うちのお菓子を差し上げるか、何か楽しいイベントにご招待するか、いい方法がないかこれから考えるとします。

 単行本に収録する、『ピンクニップル』を描いていたのが5年前の2003年、『こころ』が2004年、『ともだちロボット』に至っては2002年!6年前です。その時間経過に度肝を抜かれる思いです。井上則人さんにまた装丁のデザインをお願いしております。4月の大体25日くらいの発売を目指して青林工藝舎の皆さんがあれこれ作業をしてくださっております。

 単行本に収録しようと思って書いたあとがきの作品解説を、今本当に文章にしないといけないのはこれではないとボツにしたものを他に発表する媒体もないので、ここに掲載する事にしました。これはこれで一所懸命書いたんですよ。

作品解説

・『友だちロボット Z-aya オブ・ジョイ・トイ』
 元々はと、あるの雑誌のドラえもんの道具特集で発想したマンガだった。編集担当さんとの意見が折り合わず、これでも精一杯の知恵と工夫で描いたつもりで、その手直しの意見が全くオレには他の誰でも描けばいいようなマンガにさせようとするものとしか思えず、オレの工夫は何にも伝わらなかったのかとひどくガッカリした。直す気は全く湧かずそのままボツにした。マンガの竹夫と同じでオレは認めてもらいたがりの意固地なマンガ家なのだ。直して掲載してもらうより自閉を選んだ。
 ところがビッグコミックスピリッツでの担当の菊池氏はそのままの形で即掲載してくださり、よそでボツにしたマンガなんかを掲載してくれた上に、高額な原稿料までくださるのでどこまで感謝してもし足りないのである。しかも菊池氏は何を描いても全部、溶ろけるほどベタベタに褒めてくれるので嬉しい事この上ないのだ。

・『こころ』
 サン出版エロマンガ雑誌で月刊連載をいただいた。一二枚というまとまった枚数の連載は初めての事で、毎月マンガでまとまった所得があるという経験も初めてで、ようやくプロとして認めてもらえたようで、これが継続すれば裕福でなくとも生活が成り立つと思うととても嬉しかった。園田編集長には「裸を大きく描いてください」「胸を強調してください」など非常に実利的なご指摘を頂戴し、とても勉強になった。またこの時、雑誌では毎号テーマが変わりそのため「女子アナ」「メガネの女」「ナース」「受付嬢」などなど普段の発想では扱う事のない題材でマンガを描く事ができ貴重な経験だった。
 そもそも以前に童貞として描いていた男を主人公に設定したため、セックスをする事が腹立たしく思え、どうにか主人公にセックスをさせない方向で物語を作るのが大変だった。

・『ピンクニップル
 当事付き合っていた女の子を粗末に扱っていたため交際を断られてしまい、そうなると恋しさ五倍くらいになり、別にまたそのうち機会も巡ってくるだろうと楽観していたらそうそう上手くいかないのもよくある話である。どうしてもセックスがしたくてしたくて、女の体に触りたい、ダメならせめて見るだけでもいい、夜中のビデオ屋でキャバクラか何かの仕事を終えた女を盗み見る毎日を送っていた。夜毎に猛る劣情に精神が蝕まれていくそんな時期に大島渚監督の『愛のコリーダ』という映画を見てビックリした。何しろ主演の藤達也がいい気なもんで、家庭を顧みず財産を食いつぶしながら愛人と好き放題セックスしているのにちっとも嬉しそうでも楽しそうでもなく、死んだような虚ろな目でニヤニヤするばかりで、そこには絶望以外何もないというような映画だった。精神の廃頽の極みのような凄まじいセックス映画で大変な衝撃を受けた。その少し前から自主映画を作り始めていて、なるほどオレが主演で『愛のコリーダ』みたいなエロ映画を作ればセックスができるぞと思いついた。しかし自主映画でハードコアポルノを作ろうとしても出てくれる女なんているわけもなく、よく考えたら普通にセックスをするより何倍も困難な方針だった。仕方がないのでマンガにした。
 このマンガは某青年誌での掲載を目指して描いたものだが、特に依頼があったわけでもなくラフでOKをいただいて掲載時期も未定のまま描き始め、描き終えて原稿データを送ったところ、この先半年以上掲載の予定はないとのお返事を頂戴し、それではにっちもさっちも行かないので他の雑誌を当たってみることにした。しかしそんな他所でボツになったものをホイホイ掲載してくれる都合のいい雑誌もなく、同人誌のような体裁で自費出版した。調子に乗って五〇〇冊も刷ったらコミケなどの即売会ではほんの数冊しか売れず在庫のダンボールの山を抱えて途方に暮れていたのであったが、中野ブロードウェイタコシェが扱って下さったところ三〇〇冊以上売れてどうにか在庫を一掃し、お陰さまで評判は悪くなく、しばらくして新風舎という出版社で『エロ悲しい』という本に収録していただたいた。
 南青山の超高層ビルに編集部を構えた、その出版社は自費出版や共同出版の事業を行っていたのだが、問題があったようで顧客に訴訟を起こされて倒産してしまった。よく考えるとあのオフィスはちょっと異常だった。
 自費出版、『エロ悲しい』と何度も同じ原稿で、それらでお読みの人がもしこの本をお買い上げいただいたとしたら非常に申し訳ありません。いずれ何らかの形でお詫びしたいと思います。