古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

特別な映画

 うちに初めてビデオデッキが来たのは高1の時で、1985年くらいの事で、それは嬉しくて嬉しくて、ナショナルのVHSでしたが、録画した番組を繰り返し繰り返し見ていました。それはプロレスだったり月曜ドラマランドだったりの他に、当時まだレンタルビデオが高額だったため、テレビ放映した映画も録画して見ていました。なにしろ、当初は持ち玉が少ないですから、学校から帰ると同じ映画を何度も何度も見ました。剣道部でしたが、よく「歯医者に行く」「耳鼻科に行く」とウソをついて帰宅してました。テープも当時は高額でそう何本も持っていませんでした。標準で録画する事がその録画行為に対する何か気合を問われている気分でした。映画は標準で録るものという自分の中でルール設定がありました。好むとかそういう意味ではなく、ハード的な側面が強い理由で特別な映画がオレにはあります。そんな中の1本が『風の谷のナウシカ』でした。

 先週テレビで放映していました。皆さん御覧になりましたか? そういう訳で何回も見ているオレはすっかり『ナウシカ』の事なんて全部分かっているというか、もう飽き飽きだくらいに思っていました。ところが、チャンネルを変えている途中でもう終盤の方ですが、ナウシカがペジテの難民に監禁される辺りで、ああなるほどねなんて見ていたら、ペジテの船がトルメキアの船に襲われて、船と言っても飛行機なので、重々しく迫力に満ちた空中戦ですっかり釘付けになってしまいました。子どもの王蟲を宙吊りにしたペジテの飛行瓶みたいなのにナウシカがメーヴェで突っ込むところとか、機関銃で撃たれているのに両手を広げて無抵抗を訴える姿!なんて勇敢なんだと本当にハラハラしました。おじいさんの3人組がトルメキアの戦車を強奪する場面も素晴らしくコミカルでありつつもやっぱり勇敢で感動します。トルメキアのクシャナも美女なのに、サイボーグですもんね。そんな彼女が巨神兵を連れてくる場面は分かっていても度肝を抜かれます。そうしてハラハラドキドキしているうちに最後まで見てしまい、深い感動に包まれたような気分になっていました。なんという隙のない面白さ!! 始めから改めて見ようと思いました。

 そういうハードや環境のせいで特別な作品となっている映画は他にも何本かあって、水谷豊さん主演工藤栄一監督作品の『逃れの街』、森田芳光監督の『ときめきに死す』、『時をかける少女』などがそうです。『さびしんぼう』も何度も見ました。洋画にもそういうのがあったと思うのですが思い出せません。強いて言えば『バックトゥザフューチャー』でしょうか。どれも何度見ても面白いんですよね。

 『逃れの街』なんて一体なぜという映画なのですが、たまたま録画して見たらあまりに面白く、消せなくなって何度も見る事になりました。甲斐智恵美さんの峻烈な裸や、水谷さんのやる瀬ない、居場所のない感じが忘れられないです。エンディングで掛かる歌もすごく感動的だったような気がするのですが、それはちょっと思い出せないです。

 森田芳光監督だったら『家族ゲーム』の方が代表作じゃないですか。しかし森田監督はテレビサイズにカットする事を不服として一番の見せ場を丸々カットしてしまったというので、『家族ゲーム』は一回見て消しました。替わりに『ときめきに死す』を何度も見ました。主演のテロリストを演じる沢田研二がすごくかっこよかったです。最後まで沢田研二さんが何をしようとしているのか分からず、なんかだらだらユニークな生活感のない生活をしていると思ったら、えらい急展開で飛んでもない事になりすごくびっくりします(うろ覚え)。全体的にアートっぽい演出もまた背伸びしたい年頃のオレにはすごくよかったです。背伸びしたがっている割に『ナウシカ』にも熱狂しているのは今思うとおかしいですね。

 当時は友達もそんな感じで、小池という友達はブルースリーが大好きで遊びに行くとカンフーの場面だけを見させられました。オレは映画は頭から見ないといけないという考えだったので邪道だなと思いました。それにもう高校生ともなるとブルースリーは子供が見るものだというか、小6の時に熱中したものではないかとちょっとバカにしていました。高校生ともなるとジャッキーもギャグが寒いと感じてあまり好きじゃなかったです。

 『ナウシカ』は劇場公開で見たのがちょっと自慢ですなのですが、『ルパン3世カリオストロの城』は劇場で見てませんでした。『カリオストロ』がテレビ放映された当時はまだ、うちにビデオデッキが来る前で、ラジカセでテレビの音声を録音したのを何度も聴いてました。しかもラインなんてなかったですから、2階の両親の寝室のテレビで部屋を静かにして録りました。自分も身動きをなるべくしないように息を殺して録音しました。120分テープを裏返すのがすごく嫌で、かつ緊張を強いられる作業でした。セリフもドラマ構成も相当覚えています。そういうわけで『崖の上のポニョ』が楽しみでしかたがありません!