古泉智浩の『オレは童貞じゃねえ!!』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

松永豊和さんの『邪宗まんが道』を読んだ

 ちょっと前の雷句先生事件の記事で木製さんがご紹介くださった、松永豊和さんの『邪宗まんが道』という自伝小説を読みました。松永さんがマンガを描き始めて、ここ3年前くらいまでの物語です。全く不勉強で申し訳ないのですが、松永さんの作品は『バグネヤング』を2巻までしか読んでいなくて、3巻が出ずに完全版として発売となり、買いそびれてそれっきりになっていました。小説のあまりの面白さに申し訳ない気分になり、他の作品も全部買おうと思い立ち書店をあちこち巡ったのですが、全然売っていません。亀田は大した書店がないから仕方がないと思い、古町のヴィレッジヴァンガードまで足を運んだのですが、そこでも見当たりませんでした。仕方がないのでアマゾンに発注しました。早く来ないかな! 『バグネヤング』完全版はアマゾンでプレミア価格になっているので買えません。増刷されたら買います。

・あの松永豊和は今『邪宗まんが道』

 この『邪宗まんが道』、けっこうな分量で、オレは文字を読むのが極めて遅いので6時間も掛かりましたが読み始めたら最後、一気に読んでしまいました。とてつもなく面白く、紛れもなく傑作です。しかもどうやらオレもお世話になっている編集者がクソミソに書かれていてそういうところでもドキドキしました。他の登場人物もほぼ全員クソミソに容赦なく描かれているので、デフォルメもあるのでしょうが、オレも「ずっと不幸でいてください」と「天才ですね」と言われた事があります。その編集者さんとはここ4〜5年の付き合いで、豊永さんのようにお互い若い時期ではなかったせいか、オレは全然嫌な印象はないんですよ。豊永さんも評価されている、原稿を読んだ時の素晴らしいリアクションが本当に嬉しくてネームを真っ先に見てもらいたい編集者です。オレは松永さんのように一作品だけで勝負をしているようなマンガ家ではないので、並列で相対化してお付き合いさせてもらえるというのもあると思います。

 松永さんの作品における強烈な自負、己が導き出した結果においての確信は本当に素晴らしいです。オレは『バグネヤング』の途中までしか読んでいないので、そこは申し訳ないのですが、そうおっしゃっても余りある強烈な原稿です。内容も去ることながら、作画に1枚2日か掛かるというその作業をほぼ一人でしていらっしゃるわけです。オレは最近どんどん仕事が早くなって、同じ一人の作業でも1枚2時間ちょっとくらいです。2日あったら7枚くらい描けます。おから建築みたいなもんですよ。一所懸命やっているつもりはあるのですが、豊永さんと比較するとやっつけと言われても仕方がありません。お恥ずかしいったらありません。

 松永さんは編集者の言動にひどく悩まされますが、アシスタント仲間や松永さんのところに来るアシスタントにも嫉妬やひがみで心穏やかでいられません。オレはけっこう無神経なので、後から、あの人意地悪言うなあなんて思い返すと嫉妬されていたのかと腑に落ちる経験があります。しかし、大抵の場合そういう人はオレのマンガを読んでいないです。ローカルのテレビに出てるとかマンガの本が出てるとか、そういう事実に対して僻むんですよね。オレのマンガ読んだら、どれだけ景気悪いか分かってもらえるんだと思います。浮かれて楽しい生活している人間のマンガじゃねえっつの。読者さんは大抵オレに優しいです。本当に読者さん大好き!

 また松永さんは編集者が「あのマンガはオレが考えた」という風評にひどく神経質ですが、オレはそういうの全くありません。そもそもそんなの聞いた事がないです。それと言うのも松永さんのマンガは過激でスケールがでかくてかっこいいからだと思います。オレの惨めったらしく生々しいマンガを「オレが考えた」なんて言うと、恥だと思っているんでしょ。

 この小説を読んで、松永さんのような優れた作家は己の狂気とまっすぐ向き合い、客観的に分析してそれを容赦なく作品に昇華するのだろうと思いました。それは非常につらく厳しい作業です。狂っていても客観視も相対化もできず、クソみたいな作品を毎年作って誰からも評価されない人も多いです。狂っていてもそれを臆病に取り扱って小出しにして物足りない作品を作るプロもいます。プロとしては正しい行為なのだろうけど、オレには食い足りないです。オレはどっちかというと常識人の商売人なので、大した狂気も抱えておらず、すかしっ屁みたいなマンガを描いていくより仕方がないです。松永さんの事を考えると脳が火照るので、一旦寝ました。

 さて、松永さんはこうして編集者との確執をすごい小説に仕上げましたが、その編集者とのだるいやりとりそのものをその編集者が担当するマンガ作品にしているすごい男がいます。福満しげゆきさんです。モーニングで編集者の発注ややりとりをこう思ったと、おどおどした気弱なキャラクターの主人公で描き、アメリカザリガニのように腰を引きつつも内容は過激な内部告発というすごいマンガです。『僕の小規模な生活』というマンガで第一巻発売中です。何を隠そうオレは福満さんとはガロ最後の新人として同期です。ニートやフリーターからの絶大なる支持を得て現在もモーニング、漫画アクションで大活躍していらっしゃいます。

 担当編集者がネームに対してあれこれ言うじゃないですか、それで手直ししてOKだとしますよね。ところが、その上司である副編集長や編集長がまた、直したのに対してあれこれ言い出したり、ボツにしたりするんですよ。担当と編集長の指定が食い違う場合もあります。その直しは一体なんだったのかという、こういうの凄く嫌なんですよね。松永さんや福満さんが頑張ってくれるとそういった状況が改善され、マンガ家はみんなすごく助かると思います。編集者さんと敵対したいわけではないですが、無駄な仕事はしたくないです。