古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

『崖の上のポニョ』と『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』を見ました

 仕事の休憩で、亀田のワーナーで深夜の11時45分からの上映で『崖の上のポニョ』を見ました。大ヒット中との事だし、せっかく深夜に上映しているというので、行ってみると20人くらいの客入りでした。期待が大きすぎたせいか感想の大部分は「なんだこりゃあ?」でした。そして、「ぬるい」とも思いました。

 シネウィンドで『実録連合赤軍 あさま山荘への道程』も見ました。これが非常に大変な激熱な映画でずっしり来ました。以前に連合赤軍幹部の坂口弘さんの手記を読んでいたので、空想が図解されていくような感覚がありました。そうは言っても読んだのはもう12〜3年前なので忘れている事も多く思い出さされもして面白かったです。

 坂口弘さんの本はどれも大変な名著です。無茶苦茶面白いです。映画では事件全体をざっと抑えていますが、情報が膨大なので、できれば映画を見る前に読んでいると映画にすんなり入れるんじゃないでしょうか。

 ここから先はネタバレを気にせず感想を述べようと思いますので、映画をこれから楽しみにしている人は絶対に見ないで下さいね。

○『崖の上のポニョ

 『千と千尋の神隠し』はすごく面白かったんですよね。劇場に2回見に行ってその後もレンタルで見たりもしました。まず千尋がかわいいじゃないですか。最初ちょっと悪い子で、ひどい目に会って頑張らないといけない状況に陥って、わずか2日か3日で成長なんかするか?とも思うのですが、すごい頑張っていたし、思いやりの気持ちもあるしいい子になってよかったなーなんてジンとしました。狂った世界でババアが金にも狂っていてシビアな現実みたいなのもよかったです。

 『ハウルの動く城』は色ボケした老婆が若返るという気持ち悪い話で全然好きじゃなかったです。ストーリーもあまり覚えてないですが、さっぱり面白くなかった記憶があります。

 『ハウル』で残念な結果を残した宮崎監督が『崖の上のポニョ』で、さてはリベンジを目論んでいるのだなとオレは読んだわけです。『トトロ』や『千』というこれまで得意として来た子供を主役にした作品で作家宮崎まだまだ健在であると示そうとしていると思いました。おおそうかと俄然期待が高まります。

 ところが、確かに宮崎アニメはこれまでも、天真爛漫で無邪気でイノセントな主人公が大冒険するという物語が大半なわけで、今回も幼稚園児の男の子が主役で、今までどおりといえば今までどおりなのですが、オレの見方が変わったんでしょうかね、心がすさんでしまったのでしょうか、無邪気な主役の男の子がどうにもつまんなかったです。

 魚であり、魔法が使える半漁人であり、女の子であるポニョも、そういう特性を抜きにすれば別にさっぱり面白い個性があるわけではなく、単に無邪気なだけと感じてしまいます。ポニョは魚の時が一番かわいくて、変化するたびにちょっとガッカリしました。

 イライラするのが主人公の男の子の母親で、子供に「お母さん」や「ママ」とは呼ばせず、お互いにファーストネームで呼び合ってます。松本小雪のような髪型で、ユニセックスなのでしょうか言葉遣いも自動車の運転が非常に荒っぽく、片側1車線の山道をサーキット感覚で走行します。交通法規などまるで眼中にありません。船乗りの夫が仕事の都合で帰宅できないと、ヒステリーを起こして酒を飲み始め、船の夫と電灯を使ったモールス信号で「バカ」を連発します。ロハス的な生活様式もこの女が恐らく強権を発動して無理強いしているのでしょう。恐ろしい女です。介護の仕事をしていますが、そのうち人身事故を起こすだろうし、多分喫煙もしています。そのうちヘソにピアスを入れて、タトゥにも躊躇しないと思います。夫も家に帰るのは苦痛だと思います。本当は帰宅できる日も残業だとウソをついていると思います。

 子供だけで親を訪ねていくというのは『トトロ』と同じストーリーラインですが、ポニョが寝てしまい、トンネルが怖いってだけで、あんまり起伏がなかったように思いました。

 ポニョが再び主人公に会いに行くために街が水没するほどの災害を巻き起こします。大変な被害です。5年くらい前に新潟の三条で河川が氾濫して大洪水が起こりました。その時は家のソファーが流されて、同じ場所によその家の仏壇が流れ着いていたなんてドリフのような出来事もありましたが、そんなのが洒落では済まないくらい大変な被害でした。何台もの車が水没して廃車になったりもして、どえらいことでした。高台にある主人公の自宅も床下浸水していましたが、特に気にするでもなかったです。以前から水没を経験している街なのでしょうか。

 最終的にポニョは人間になるのですが、主人公の家族が当然のように引き取るような雰囲気でした。戸籍は?生活費は?船乗りは高級取りなのか? 雰囲気が悪いのは母親の仕事先の不機嫌な老婆だけで、全体的にみんな非常に物分りがよく、欲をかいている人間もおらず、街の人たちも大災害に見舞われたにもかかわらず全く怒っても悲しんでもおらず、いい塩梅でした。なんだこりゃあ。

でもこんなのはつまらないあら探しで、そういった気になる部分がクリアされていたら面白いかと言うと絶対にそうではないと思います。そんなあらがあったとしても、すごいドラマが面白く展開されていたら満足して帰宅して面白かったと言いふらすに決まってます。やっぱり期待しすぎで不満が募った部分も大きいと思いますし、やっぱり宮崎監督には一掃奮起してまだまだ映画を作っていただきたいです。どうしたらこの題材で面白くドラマを構成できるのか見終わってから考えているのですが、何一つ思いつきません。企画が生煮えのまま見切り発車しちゃったんじゃないでしょうか。児童向けアニメ映画にカッカしているのも、そもそもの間違いなんですよね。



○『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』

 『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』は坂口さんの手記で読んでいたリンチ殺人にも、相当引いたのですが、映画ではそんな文章に一歩も引かないどころか2歩も3歩も前進するようなあまりに凄惨な描写に、ぐったりしました。

 坂口さんの手記を読んでいて大嫌いだった森恒夫が、本当に嫌な役で作られていてとてもよかったです。薄っぺらい人間こそああして人の上に立ちたがって、精一杯虚勢を張るんだなという見本みたいでした。意味のよく分からない共産主義や革命の演説に酔いしれている感じがまた本当に嫌で素晴らしかったです。何ができる人物なのかよく分からないけど、人前で偉そうに振舞う事だけが妙に得意な人っていますよね。普通は何かあって偉いからそう見えると思っているので、まさか一般人より劣っているのに偉そうにしていると思わないじゃないですか。魂消ますよ。

 永田弘子の役の人があまりにそっくり過ぎる上、芝居が上手すぎて、本人としか思えませんでした。本人の映像なんて見たことがないのにそう思ってしまいました。本当にイライラするブスでした。

 みんなすごく真面目なのに、真面目すぎるせいか、「卑怯な事はいけない」「弱い者いじめはよくない」「貴重な人材を大切にする」という観点が抜けていて残念でした。

 山荘を取り囲む機動隊や鉄球の描写が皆無でした。山荘の外観すらなかったです。なんとか制作費を捻出して今からでも撮影してカットを付け足して欲しいです。映画『突入せよ!あさま山荘事件』から映像を借りるわけにはいかないでしょうか。せっかくの時代背景を表現するための音楽が残念な事に岡林信康さんくらいしか使われていませんでした。ヒット曲を散りばめたらさぞいい雰囲気になったのではないかと思うと残念です。ジャスラックの営利主義的な音楽管理の弊害です。

 坂口さんの手記であった、羽田空港の管制塔を襲う顛末やM作戦の間抜けさなどは、描かれていなくて残念でした。連合赤軍になる前の、活動を始めたばかりの高揚感がオレは特に好きなんですよね。『グッドフェローズ』の冒頭のようなワクワク感があります。

 オレが連合赤軍にもし参加するようなことがあったらと考えてしまうのですが、軍事訓練は他の面子もひょろっちいのばっかりですからね、そこそこ頑張ると思うのですが、耐えられないのが山岳ベースでの暮らしです。基本的に雑魚寝です。団体行動の最たるものです。「訓練は真面目にやるんで、一人で穴掘って暮らしますけどいいですかね」なんて言って森や永田に「共産主義化できてない、総括しろ」と自己批判させられて、まずリンチでしょうね。その前に誰かがリンチされている時にオレは森を殴ってやろうと思います。あんなやつタイマンでフルボッコですよ。オレは格闘技経験がない相手ならこそこやれます。20代のオレだったらやっぱり無理ですけどね。

 なんと言っても坂井真紀さんの熱演が凄まじい事になってます。目を疑うような入浴シーンもありますよ。