古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

8月9月に見た映画

 ほぼ引きこもり生活で、外出は夜中にコンビニとビデオ1に行くのと週に1回かそこら映画を見に行くだけのような毎日で、月末は連載のネタを考えないといけないのでファミレスに行ったり月刊誌を買ったりするのに蔦屋に行きたいのに昼夜逆転生活で行けなかったり、そんな毎日です。毎週2本DVDをレンタルしていると、2ヶ月で16本くらいで、週一で映画館で見ると月8本合計24本ですが、8月9月合計すると25本だったので、大体その計算でぴったりでした。

 例えばお正月のかくし芸大会なんかだと、良いが9点、すごく良いが10点、普通が8点、ダメが7点だったりじゃないですか。それでは10点満点評価の意味がないですよね。1点とか0点ってないことになっています。何のための10点満点なのか意味が分からない。オレは自分のマンガには甘いですが、他人の作品には評価が厳しい男です。ここでの★3つは相当面白いって事なので、ぜひ自分の好きな映画が星つだからって気を悪くしないで下さいね。オレとしても充分お薦め映画です。

 例えば井口昇監督の『片腕マシンガール』なんて、女の子が素晴らしく活き活きと可愛らしく描かれていて面白く描こうという工夫もたっぷりでとても面白い映画でした。ロバート・ロドリゲス監督の『プラネットテラー』に比べて、肉体を改造されてまで戦う人間の情念が激しく描かれているところなんかずっと素晴らしいです。でも残念なのは予算的に特撮が厳しいとこはあり、そんな井口監督がもしロドリゲス監督並に予算を使うことができ、思う存分に力を発揮した場合当然評価を上げないといけなくなるじゃないですか。なのでやっぱりここは★三つが妥当なのだと判断するわけです。

 ★5つは5段階評価であるため、これ以上の評価をつけられないため、おいそれと認定するわけにはいかないのです。8月9月期ではクリスピングローヴァー監督の『It is Fine! Everything is Fine.』という超歴史的大傑作を目撃する事ができたため、出す事ができましたが、本来1年に1本あるかないかでないといけないわけです。でないと評価の基準そのものがぐずぐずになってしまいます。なので、オレの★評価制度は★4つがほぼ最高位であるとみなしていただきたいです。

『続・激突カージャック』(★)
『バッドマン・ビギンズ』(★★★)
甲殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』(★★★★)
イノセンス』(★★★)
片腕マシンガール』(★★★)
ダークナイト』(★★★★)
八つ墓村』(★★★)
鉄人28号 白昼の残月』(★★★)
『ゼアウィルビーブラッド』(★★★★)
『河童のクゥの物語』(★★★★)
『スタウォーズ』(★★★★)
『スリザー』(★★★)
『くれよんシンちゃん 嵐を呼ぶアッパレ戦国大合戦』(★★★★)
『クローンウォーズ』(★)
スターウォーズ帝国の逆襲』(★★)
グーグーだって猫である』(★)
イースタンプロミス』(★★★★)
『日本の霧と夜』(★★)
『消えた少女たち』(★★★)
『It is Fine! Everything is Fine.』(★★★★★)
『天皇伝説』(★★)
スターウォーズ・ジェダイの復讐』(★★)
『リトルミスサンシャイン』(★★★★)
恋する幼虫』(★★★)
『ヒルズハブアイズ』(★★★)

 押井監督の『甲殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』はこれまで3回くらい見ていたのですが、映像的にかっこいいけど話はなんだか唐突に始まって途中で終わっているような印象でした。『スカイクロラ』に合わせてちょっと見ておくかと思って見ました。去年『ビューティフルドリーマー』を見ていたお陰で初めてすっきり理解できたような気がしました。ある意味『ビューティフルドリーマー』と『ロボコップ』だ!と思いました。お話も実にきれいにまとまっているとこれまでの不理解を恥ずかしく思いました。また、『マトリックス』への影響が取りざたされていて、映像的な事かと思っていたのですが、テーマも丸々パクっている事がやっと分かりました。理解力もないのに分かったような事を言うものじゃないなと改めて自戒します。『イノセンス』は映画館で見て、さっぱり面白くなかった印象だったのですが、『甲殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』に続けてみたらとても面白かったです。

 去年の映画秘宝のベストをフォローしているのですが、『河童のクゥの物語』がファンタジーに甘えのないハードボイルドな作りで大変な素晴らしさでした。現代人が失った日本人の気高さを河童で描くなんて、なんという意地悪なのだ!と思いながらも泣けて泣けて大変な思いをさせられました。原監督の前作である『くれよんシンちゃん 嵐を呼ぶアッパレ戦国大合戦』を続けて借りたら、こっちもまたクライマックスでバカバカしさに腹をよじりながら涙が止まらないという感情を強姦されるような状態にさせられました。こんなとてつもない表現を見せ付けられると、オレもマンガという物語表現に携わる者として恥ずかしくなります。今思い返してもため息しか出ません。

 『クローンウォーズ』を見るに当たって『スターウォーズ』の旧三部作を見返しました。『スターウォーズ』が断然面白くて、ルークがジェダイとして立派になってしまうともう全然面白くないですね。実質的に無敵でピンチがないですもんね。超然とすればするほど主人公としての魅力がなくなります。『クローンウォーズ』なんてアナキンがジェダイとして完了しているので、そういう意味でかけらも面白く無かったです。ダースベイダーと暗黒卿がルークをダークサイドに誘って「怒るのだ、それが心の暗黒面なのだ」という感じで言うじゃないですか。怒り=ダークサイドってあんまり幼稚で、ガッカリです。『スピードレーサー』では敵を、資本主義の経済システムそのものが悪であると描いていて、映画はまあまあ面白かったのですが、そこはびっくりしながらもひどく腑に落ちて、また途方に暮れさせるものがありました。

 カナザワ映画祭渡辺文雄監督の超問題作『天皇伝説』をオールナイト上映で見ました。天皇が途中で何代も血統が入れ替わっているとか、橋本元総理があれこれ関わっているなど非常に刺激的な内容がナレーションで語られているようだったのですが、音声が割れに割れていてさっぱり聞き取れませんでした。この映画の上映で渡辺監督は公安に逮捕されたりと大変な思いをされているのですが、でも公安の皆さんは映画を御覧になったのでしょうか。見れば何を言っているのか全然聞き取れないから、問題にしなくて大丈夫だし、むしろ不当逮捕じゃないでしょうか。終戦の玉音放送が、国民は音声が悪くて全然聞き取れなかったという話で、オレには『天皇伝説』もそんな調子で残念でした。そのナレーションのような内容が詳しく書かれているパンフレットを買ったのですが、これがまた読むのが大変で、未だ途中までしか読んでいません。もうちょっと分かりやすく、理解力の乏しい者にご配慮いただきたいです。