古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

立川談志さんは面白い

 以前から上岡龍太郎さんや、それこそビートたけしさん、太田光さん、伊集院光さんといった一癖も二癖もある気難しい皆さんをうならせる存在として落語家の立川談志さんがありました。そんなに言うのならどうだろうと、談志さんのテレビ番組を見るのですが、どうにも面白さが理解できなくてオレにはセンスがないのかなと寂しい気分でありました。

 去年BSハイビジョンで7時間くらいぶっ通しで立川談志さんの特番をしてました。密着ドキュメントの部分や太田光さんをはじめとした著名な皆さんが談志さんについて語るところは面白く見ていたのですが、いざ落語が始まるとどうにも退屈で部屋の片づけをしてしまいました。

 そもそも落語自体親しみが全くなく、『深夜の馬鹿力』で伊集院さんがデビットリンチっぽい落語のネタコーナーがオレの中では一番面白い落語でした。純粋な落語をほとんど聞いたことがなかったわけです。落語音痴ですよ。ラジオと言えば、月曜日のオールナイトニッポン春風亭昇太さんが担当されていた時に、落語を披露されてましたが全く面白いと思えず聴くのが苦痛でした。

 しかし、『爆笑問題カーボーイ』でリスナーの人が談志さんの独演会に行ったら衝撃的に面白かったというハガキを投稿していました。それなのかな?とちょっと心に残りました。とにかく、一流の皆さんが認める談志さんの落語をオレは全く理解できないこのセンスのなさを非常に情けなく思っていました。

 談志さんは小出に田んぼを持っていらっしゃり、田植えや収穫の季節になると新潟を度々訪れるそうです。そこで、小出の商工会議所が主催している立川一門会の公演チケットを購入してみました。東京だったらきっと入手がすごく大変なんじゃないですか?

 小出はうちから100キロくらいの距離の場所です。インターチェンジを降りるとすぐの会場でした。小出は中越地震で足止めを食った場所なので実に印象深くあります。小出から先に戻れなくてとても困りました。

 若手の前座の人が終わったと思ったら談志さんが登場したので驚きました。どんな落語をするのかと思っていたら、食道ガンで咳が出るので落語が大変だというお話から始まり、いつのまにかジョーク100連発みたいな感じで、話をどんどんされてました。この内容がシモネタや足の不自由な人や老人を物笑いのネタにするような内容が非常に多く生じゃないと分からないというのはこういうことかと魂消ました。あまりにブラックなネタばかり! 確か談志さん、テレビでは「オレはシモネタが嫌いだ」と言っていたような気がするのですが……それもネタだったとは!

 ブラックな冗談はオレも大好物なので、とても面白かったです。それをド田舎の歩くのもやっとなお年寄りに聞かせて笑わす談志師匠は素晴らしくかっこよかったです。また、そんなテレビでは到底受け入れられない内容を受け止める落語というジャンルも懐が大きくて素晴らしいと思いました。

 これまで談志さんがもしガンで亡くなったら、いろいろな人があの人は面白かったと語るとして、そしたらオレは取り残された気分になるんだろうな〜と考えていました。こんかいの公演を見たお陰でオレも「面白い人だったのに残念です」と実感を持って言うことができます。

 談志さんが苦手だった事による反動ですごく好きになってしまい、早速古典落語のDVDを借りました。談志さんが好きという気持ちのお陰か落語がすんなり入ってくるようになって、非常に面白く見る事ができました。古典に親しむなんてちょっと通っぽくてなんかいいじゃないですか。