古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

佐藤秀峰さんのHPを見ました

・佐藤秀峰 on web

 佐藤秀峰さんのプロフィールマンガがすごいです。凄まじいマンガ家人生を送っていらっしゃり、我が身を振り返ると一体オレはなんなのだと恥ずかしくなります。人間としてのポテンシャルがまず全く違いすぎる。大体オレはそこまで情熱を持って仕事に取り組んでいるだろうかと自分に問えば、全く取り組んでおりません。一日18時間とか24時間とか作画なんてしていたらそもそもマンガを嫌いになってしまいます。佐藤さんは出版社や編集部との衝突をこのHPで告白されています。それもこれも全てマンガに対して溢れる情熱と誇りと大変な実績の裏づけがあるので胸を張ってできるわけです。オレだったら「あ、いえ済みません、ちょっと思っちゃっただけなので、いえいえもう全然気にしないでください。はいはい取り消します!」なんて事になってしまいます。

 WBCのピッチャーの球数制限のように、オレは一日の作画時間は7時間までと制限を設けております。じゃないと他にもいろいろやりたいことが全然できなくなるじゃないですか。そりゃあテレビも見たいし車でそこら辺をブラブラしたいし、アピタの食堂で読書したりもしたいんです。映画も見たいしトレーニングもしたいし2日か3日に一回はお風呂も入りたいです。今は忙しいのでできないですがモンスターハンターもしたいです。そんな男と佐藤秀峰さんを比較するのも失礼な話ですが、でもちょっと気になるのが、マンガ家がどんな絵を描こうとそれは出版社や編集部が強制しているわけではないんですよね。

 オレみたいに、手抜きに見えないギリギリのラインで描いたマンガと、佐藤さんの圧倒的なクオリティの絵(しかも演出もすごい!)もどっちも自分で選んだものなのです。佐藤さんは寝る時間以外ほぼマンガに費やしてスタッフも何人も雇って一日2枚ですが、オレは7時間の作業を一人でやって2〜3枚です。オレは一枚2〜3時間で描きますからね。商売上手? 最終的な収益は圧倒的に佐藤さんの方がすごいので、オレのコストパフォーマンスなんて鼻水みたいなもんですが。

 マンガという媒体が非常に柔軟すぎるせいでこのような齟齬が生じてしまっているんだと思います。佐藤さんは原稿料だけでは赤字になってしまうという問題を出版社に投げかけますが、オレは原稿料が収入の大半なのでいっぱいもらえたら嬉しいですが、原稿料が出るだけでとても嬉しいです。佐藤さんだったら本当に1枚5万円くらいの原稿料でも全く問題ないと思います。オレはなるべく1万2千円くらいいただきたいです。恐ろしいことに佐藤さんのような圧倒的クオリティの原稿で、しかもとてつもなく面白くても、無名の新人でヒットしなかったら多分1万2千円くらいです。

 しかし、あり得ない事ですがオレのマンガが佐藤さん並に大ヒットしたらオレも大層な原稿料をもらえるんですよ多分マンガ界の慣例として。そしたらオレも佐藤さんみたいなクオリティでマンガを描くかと言えば、そんな事はしないわけです。しないというかできないです。まず、腕がない。そして根性も気合もない。背景と人物の絵が合わない。スタッフに来ていただいてもうちょっと背景のクオリティが上がるくらいじゃないでしょうか。

 佐藤さんはあの素晴らしい絵で演出で構成で、圧倒的に面白いマンガを製作していらっしゃいます。マンガ家の中にはそのような、言わばハリウッド映画のような体制で作られている人が何人もいらっしゃいます。『ジパング』とか『GANTZ』とかオレなんかとは誌面の輝きが違う! それこそまさしくメジャーです。それに比べたらオレみたいなのは言わば町工場で自主映画で白黒テレビみたいなものです。でも時には確変が起こって町工場レベルがメジャー雑誌に掲載される事もあるので、そこがマンガの面白さでもありますね。佐藤さんみたいには描けないけど佐藤さんみたいなヒットは何かの奇跡や手違いで生まれる可能性があります。みんな頑張ろうぜ!