古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

普段接しているだけでは分からない

 一緒に自主映画作ったり、映画を一緒に見たり、講座の運営をしたりしているUくんという友達がいるんですよ。Uくんとはそんな関係で話す機会も多く、映画を見た後は感想を述べ合ったりもしていて、Uくんの作る自主映画も面白くて人柄も誠実で真面目に仕事もしているし、乗っている車もエコカーだったりと、まあとにかくナイスガイなわけです。

 そんなUくんはロックを愛好している面もあって、この度ロッキンオンジャパンに投稿した文章が見開き2ページものサイズで採用されるという快挙をなしとげました。その文章がまた本当に素晴らしい文章で胸をえぐられるような内容でした。本人にさっそく電話をしたら随分と照れくさそうだったので、ここではイニシャルにさせていただいております。今発売中のジャパンの二百八十何ページだかに掲載されている、『ジョゼと虎と魚たち』と上松秀実さんの『トラウマ』という曲について考察した文章です。

 Uくんの文章は人の痛みについて鋭い角度から深く突き刺すような指摘で、オレはびっくりしたわけです。Uくんには友達がいて、オレも彼とは空手道場でまず知り合っていて、後にUくんとも知り合いになりました。その男はアル中に近い状態で当時、生活保護で暮らしていて後にホームレス生活を送るようになって、最近は消息が不明になってしまいました。そんな男を最後までバックアップしていたのがUくんでオレなんかはごくごくたまに気が向いた時だけ連絡して食事をおごったくらいでした。「あんなアル中ほっといた方がいい、Uくんはもう充分すぎるほどやってるよ」とオレや共通の友達は言ったわけですが、それでもUくんはずっと胸を痛めていて、お金も渡したりしていました。なにしろその消息不明の男は常に酒の匂いをただよわせていて、そんな状態の男に何を言っても何をしても無駄ではないかと思っていました。

 Uくんとその男は高校時代の同級生で、当時の存在がいかにすごかったかとUくんは語り、「今はこうだけど、あいつはそんなもんじゃない」と言ってました。オレと友達は、お金を渡してもどうせ酒を買うし、もうどうしようもないんじゃないかと言い聞かせていたのですが、Uくんの信念は揺るぎませんでした。

 それはそれとして、ずっと映画作ったり見たり、坂本龍一さんのコンサートに行って接していたわけですが、そんなUくんがこんな素晴らしい文章を書くとは、それ以前にこんな鋭い考えを持っていたとはと驚きました。接していても、飲み会で一緒になってもそんなに考えを述べたりするわけではないじゃないですか。オレの眼力のなさでもあるわけで恥ずかしいです。オレも人を選んで話題を決めたり、どこまで話すのか段階を意識してか、無意識でか決定しているところがあります。言わないからと言って何も考えていないわけじゃないですが、言われないと何を考えているか分からないですし、オレはむしろ鈍い方なので言われてもすぐには理解できないくらいですらあるのです。だったらこんな反省に意味があるのかとすら思われる人もいますでしょう。でも一旦立ち止まって考えてみただけでも何か後につながるものがあったらいいなと願いを込めて書いております。これからもオレは積極的に他の人が何を考えているかなんて気にしないと思います。

 それこそ本やマンガやインターネットのブログを読めば、みんな何かしら伝えようと頑張っているじゃないですか。そうでもないところからオレが何か読み取れるのか、せめて感じることができるのか、そうすべきであるようには思うのですが、正直なところ億劫です。そんなオレみたいな人間が山田花子さんのような繊細な人を死に向かわせるんじゃないかという恐怖もうっすら感じます。その一方、気づいてあげれば、何か関心を持ってあげれば死なせずに済むと考えるもの思い上がりなのでは?などとも同時に考えます。現実のオレは、消息不明になった友達を気にするよりもモンスターハンターでラージャンにどうすれば勝てるかなどの方に熱中してしまうわけです。あの物凄い素早い動きと破壊力にどうすれば対処できるのかとそんな事で頭がいっぱいなんです。オレが人に何かしてあげるなんて事は滅多になく、せいぜい友達にサイゼリヤでドリンクをおごるくらいのものなんです。『ジョゼと虎と魚たち』も植松秀実さんも知らなかったので、Uくんの文章を本当に理解したかというとそうでもないので、これからしっかり勉強して改めて読んでみたいです。