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古泉智浩の『オレは童貞じゃねえ!!』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

『あんにょん由美香』を見た

 先日、松江哲明監督作品『あんにょん由美香』という映画の上映イベントで、トークイベントに出させていただきました。当日いいそびれた事や後から思いついた事など書かせていただきたいと思います。ご来場いただいた皆様、松江監督、プロデューサーの直井さん、ありがとうございました。パニックセブンゴールドの宣伝までさせていたき、本当にありがとうございました。

 この映画は亡くなったAV女優の林由美香さんが、人知れず日韓合作の変なAVとピンク映画の中間のような作品に出演されていて、果たして一体どんな経緯でそのような作品が作られたのかをレポートするとともに、林由美香さんの足跡をたどるといった内容でした。林さんの太いとしか言いようのない生き様や、謎の作品『東京の人妻・純子』を巡る人々の生き様が浮き彫りになっていき、不思議なドラマが展開します。

 ここから先はネタバレありあり進行なので、これから映画をお楽しみになりたいという皆さんは絶対に読まないでくださいね! 『あんにょん由美香』は毎日20時30分からポレポレ東中野で上映中です。大好評につき、8月1日からは6時15分からも合わせて一日2回上映となります。終電の早い人も大丈夫です!

 もちろん仕事として割り切っての事なのでしょうけど、林さんはほぼ二つ返事で仕事を引き受けていらっしゃるようでした。いまおかしんじさんが、『たまもの』でハードコアで撮影するのにも「いーよ」で済まし、『由美香』を撮った平野勝之さんの仕事の依頼も「いーよー」とのことで、そこには信頼があってのことだと思うのですが、謎の韓国映画での前貼りなしでの撮影に対してもなんらひるむことのない、自分に対して投げやりなのではないかとすら思えるほど、その座りきった根性に驚愕するのです。

 「仕事で忙しくて時間がないから」「風邪を引いたみたいで体調がわるいから」「お金がないから」「かっこわるいから」「わからないから」「こわいから」……そんな言い訳言う人ばっかじゃないですか。がっかりするんですよね。じゃあ、やんなきゃいいし、やめたらいいじゃないかと思います。仕事か仕事じゃないかって大きな問題ですが、何か面白いことしようって時にこんな言葉を聴くと本当にがっかりするわけです。誰もがオレと感覚が一緒だと思わないですし、本当に仕方がない事情があるかもしれないですよ、でもね結果どうだったのかと言いたいわけです。今しかなかったら、それこそアコムで借金してでもやった方がいい場合だってあるじゃないですか。そんなつまんない言葉をつむいできたこれまでの人生を振り返ってなんか面白いことあったのかよ!? あったんだったら別にいいですが! 別に人様の方針に口出しするのも、オレは保護者でも保証人でもなんでもないので本当はどうでもいいんですが、そういう言い訳は自分を下げるので簡単に言わない方がいいと思います。林さんを見習って、ちょっとぐらい嫌でも「いいよ」と安請け合い気味に突っ込んでいたいと思ったわけです。

 林さんのAVは実はそんなに見ていないんですよ。2〜3本ではないでしょうか。オレはレンタルのAVでオナニーする方ではなかったのです。高3から予備校、大学まで週刊プレイボーイを読んでいて、そのグラビアですよね。あとベストビデオなどAV系のエロ本で主に親しんでおりました。なのでカンパニー松尾さんのAVも見ていませんでした。なので本当に熱心な林さんやAVのファンの皆さんの前では偉そうに語れる立場でないです。『由美香』や『たまもの』はとても評判だったのでたまたま見ておりました。

 林さんはAV界のスーパーアイドルで始まって、だんだん人気が下がって、『由美香』では過酷な自転車旅行で泣いてうんこを食べなくてはならないところまで落ちぶれてしまったと思いました。気がつくとピンク映画で活躍されていて、日陰なメディアでありながらも現役のまま突然亡くなってしまい皆さん大変に驚かれたわけです。一方で、韓国の『東京の人妻・純子』に関係したスタッフや役者の皆さんは、韓国ではエロが汚れ扱いで忌避されていることが映画で描かれていました。「同じ金を払うなら、お前なんかじゃなくて学生を使う」と『純子』で林さんの夫を演じたキムさんは、映画の仕事を失ってしまいました。「演技には自信があるんだ」「映画は麻薬だよ」と泣くほどの無念をあらわにしておりました。

 今年上映される傑作映画に『レスラー』や『ウォッチメン』がありますが、どっちも過去の栄光が現在のパッとしない人生をむしろ余計に苛むという映画でした。主人公は過去を思い返してクヨクヨしたり悔やんだり、失敗を嘆きます。日本映画ではそんなのないなと思っていたら『あんにょん由美香』で韓国人のキムさんがそんなだったのでとても驚きました。それは過去に由美香さんが味わったであろう苦汁であり、人気商売の宿命でもあるわけです。生涯上りっぱなしで安定した人気の人も、ビートたけしさんや明石屋さんまさんみたいな人も中にはいますが、大体の人は浮き沈みがあります。何かつまづいたり、信用をなくしたらその場で終わりなんて例を本当にたくさん見ています。最近では北野誠さんなど頑張って欲しいです。ちょっと前では加護亜衣ちゃんなど復帰できて本当によかった。オレだって他人事ではなく、これでも作品を通じてですが、人気商売の片隅にいるわけです。「古泉のマンガなんかつまんねえ」「人格に問題があるから仕事させたくねえ」なんてことになったら終わりなんですよ。なので最低限、毎回60点くらいはクリアして時々80点以上のマンガを描いて、締め切りは厳守で、打ち合わせでは面白い話をなるべくして受けをいただき、面白そうなイベントなどはよっぽどの事がない限り上京するという方針です。これから先、どんどん仕事は出版業界として細くなっていくというのは自明です。そこでどうサバイバルすればいいのか、これで足りているとは思わず、でもまあマンガ面白いのを描くのが一番なので、そこを頑張りたいです。