古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

素晴らしいよ!文理高校

 新潟代表の日本文理高校が甲子園のベスト4に進むなんてどうかしている!と思ったらすごい緊張感あふれる大接戦を制して決勝にまで進出してしまったのが昨日でした。まったくどうかしている、今年は異常すぎる、相手に運がなかっただけ、なんて声も聞かれていたのですが、どうですか速球がないながらも低めにコントロールが決まる伊藤投手や、2番の高橋君の大変な好打者ぶり。なんという男たちだ!

 決勝の中京大中京高校との試合はコージィ城倉さんの『かんとく』というマンガのクライマックスを思い出させるびっくりの感動試合でした。

 6回裏に6点もの大量得点を許してしまい、その後ちょろちょろ得点するもののまた失点して得点差はそのままでとうとう最終回9回表の文理高校の攻撃になりました。その前の8回裏で、もうピッチャーの伊藤選手が、パワプロで言えば肩を激しく上下している状態に見えました。初戦からたったの一人でマウンドを守って来たわけです。中京の激烈な猛打を浴びながらも立ち続けいたんですよ。しかしそんなのはまるで表情には出さず、ずっとポーカーフェイスを続けていました。中京高校は5回の途中からピッチャーをエースの3年の選手から2年の控えの投手に交代していました。文理はその投手に打線を爆発させる事ができずにいました。ところが、最終回のマウンドはエースに立っていてもらおう、6点もあることだし優勝の喜びは彼に与えようとの意図なのかと、先発の3年生に戻したのです。

 2アウトまではすんなり取ったのですが、1番の選手が2-3からファーボールを選びました。するとこの大会でオレがもっとも信頼を寄せている2番の高橋選手に打席が回りました。パワフルプロ野球で言えば一番ニコニコしたマークが名前の横に輝いている感じです。途中にワイルドピッチがあって、1番の選手が2塁に親類すると高橋選手は粘り強くチャンスを待ってフルカウントから見事な二塁打を放ち、なんと得点を返したんですよ!

 次の選手も三塁打で、次がデッドボールで、最後の打者がどんどん続いて行きます。中京のエースはどんどん表情が青ざめてしまい、とうとう引きずりおろして控えの2年の投手がまた現れました。ところが次の4番の選手にファーボールで満塁で、なんとピッチャーの伊藤選手に打順が回ってきました。そこで伊藤選手が見事なヒットで2打点を上げて得点差を、2点にしました。次の選手も初球をライト前に打ち返して1点差にしました。

 このままどうかなるんじゃないか、新潟だったら6回に6点差をつけられたらそのままずるずるとなんの見せ場もなく終わるというが普通なんですよ! もしこのまま同点になったり逆転して優勝してしまったら、新潟がどうにかなってしまうんじゃないかと心配になりました。いや、そこまでじゃなくても、あんなに疲弊し切っている伊藤投手が9回裏にせっかく追いついたり逆転していても、抑えきれずに更に逆転されてしまったら気の毒だと思いました。

  9回裏にピッチャーの伊藤選手の出番は回ってきませんでした。結局のところ、伊藤投手が小学校からバッテリーを組んでいるという関川村出身の若林選手が凄まじい当たりを放ったのですが、三塁手の正面でがっちり捕球されて試合は終わりました。 

 文理打線は最終回マウンドに上がった中京のエースに対して引くほどの猛打を浴びせて、マウンドから引きずりおろして、優勝したのに泣かせる、それも悔しくて泣かせるという大変な見せ場を作りました。なんという決勝戦かと思いました。最高に盛り上げて歓喜の渦を巻き起こして負けるという、負けるにしてもあまりに理想的じゃないですか。むしろ簡単に勝って盛り上がらないよりずっと記憶に残る素晴らしい準優勝です。

 さて、コージィ城倉さんの大傑作野球マンガ『かんとく』のクライマックスは、主人公の監督率いる高校が超強い学校と対戦します。今手元にないのでうろ覚えなので違っていたら済みません。初回に大量得点されてしまい、どう考えても格が違いすぎるんだから仕方がない諦めよう、そんなムードだったのですが、監督は「でもさあんな強豪に1点でも返したら面白いよな」と選手を励まします。そうだね1点でも返したら面白いよねと、ちょっと卑怯な野次などを使って相手を動揺させて1点取り返します。すると「もう1点返したりしたらもっと面白いよな」と選手をその気にさせているうちに、萎縮していた選手が伸び伸びとプレイするようになり、どんどん得点を重ねてとうとう追いつきそうになるけど、結局負けるという場面でした。その負けたけどやり切った感みたいなのが、今回の日本文理の試合を見て強く心によみがえりました。

 モンスターハンターなんかやってないでオレも頑張ろう、そして途中で読むのを中断していた『オレはキャプテン』の続きも読もうと思いました。コージィ城倉さんの野球マンガは本当にどれも大傑作です。同時代を生きるものの喜びとしてもっと皆さん認識すべきです。『かんとく』『ぬーやん』『砂漠の野球部』などなど今あまり顧みられることのない状況はあんまりよくありません!絶対に面白い大傑作なのです!