古泉智浩の『オレは童貞じゃねえ!!』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

カナザワ映画祭2

 サウナに泊まったんですが、リクライニングシートをぐっと下げて寝ると幅が狭いので強制的に仰向けで、しかも腰にいい具合の出っ張りがあって、背骨が見事にS字になっているような感覚がありました。普段、仰向けで寝ようとしても寝付けず、うつむせになったり横向けになったりなんですよ。仰向けで寝ると、睡眠が5割増しくらいに効果があるような感じがするんです。いつものようにショートスリープで寝て起きて、夜中にサウナに入ってまた寝たりで、しかも仰向けで眠れてよかったです。隣の人はいびきも歯軋りもなくて快適でした。読者のHamaさんが教えてくださったサウナ・オーロラで、宿なんかむしろいらないなあと思うほどでした。毎日だときつくなるのかな。

 それで、翌日のカナザワ映画祭は朝から『エッセネ派』を見ました。キリスト教のエッセネ派という宗派のドキュメンタリー映画で、同じフレデリックワイズマン監督作品は去年、海兵隊のドキュメンタリーを見ていました。『エッセネ派』では熱心にキリスト教の信仰を送っている人たちが、スーパーで買い物をしたり、名前を呼び捨てにされるのは軽蔑された感じがして嫌だ、なんて言ったり、会話の途中で蝿を叩いたりしてました。映像も白黒で正直なところ退屈だったのですが、一人の信者が告白する場面がありました。「私は子供のころ、父が酒飲みで暴れて自分は無力で、部屋にこもって泣くことしかできませんでした。私はみんなに認めて欲しかった」そんな話をしながら床にうずくまって泣き出して、すると周りの信者たちが彼の背中に手を当てて、賛美歌のような唸りを上げて彼を癒していました。これが宗教の癒しとかきっとそんな感じのものなのかと感心しました。さぞ彼も心を安らかにすることができただろうと思いました。

 次に見たのが『ツァイトガイスト』という世界の陰謀を暴くという告発映画で、それによるとキリスト教は、それ以前のエジプトやいろいろな宗教の教義をあれこれぱくったものでキリストの存在自体も怪しい、9・11テロはアメリカ政府による自作自演の陰謀である、ドルを中心とした世界経済もロスチャイルドやロックフェラーが牛耳っていて貧しい人々から搾取しまくっているという衝撃的な内容でした。9・11テロは確かベンジャミン・ベルフォードさんもそんな事を言っていたからやっぱり本当だったのか!とビックリしました。また、『Dr.野口』という野口英世の伝記マンガで、野口英世にあんなに親身だったロックフェラーさんが、まさかそんなに悪い奴だったなんてとショックを受けたわけです。

 ところが、休憩で外でクレープを食べていたら宇多丸さんと高橋ヨシキさんがいらっしゃって、初対面だったので挨拶して「さっきの映画すごかったですね!」なんて言うと、あんなのはデタラメだよと話していらっしゃったので、更にびっくりしたわけです。完全に全部信じてしまっていたのでとても恥ずかしい気持ちになりました。9・11テロは飛行機の残骸がないという写真が使われていて、「ほれ見たことか」と語っていたのに、高橋さんによると、そのフレームの外側にはたっぷり残骸が映っている写真があるとの事でした。映画ではプロパガンダにだまされるなと語っているのに、この映画自体がプロパガンダなのでひどいとおっしゃっていました。ロックフェラーさんは親切な人なのか悪人なのか、どっちなの? 次の上映が『ツアイトガイスト』の続編で、そんな事を言われたらあんまり見たくなくなったのですが、せっかくなので見ました。

 その続編『ツアイトガイスト・アデンダム』はこんな陰謀渦巻く世界はもうすぐ終わりを迎え、新しい世界が始まると語っていました。宇多丸さんと高橋さんの話を聞いたおかげで批判的に見ていたら、確かに新しい世界が始まるからと言って、それがどんな世界なのかさっぱり語られていなかったです。作品としてもあんまり面白くなくて、ウトウトしました。

 なんだかとても眠くなったのでマンガ喫茶に行って昼寝しました。

 今回の映画祭で一番楽しみにしていたのが『FRAG』というゲームのプロのドキュメンタリーでした。アメリカではゲームの大会で高額の賞金が設けられていて、優勝して賞金を稼いだり、スポンサーがついたり、プロゲーマー集団に所属して給料をもらったりする人がいるのです。ところが、大会での賞金の支払いが滞ったり、所属チームにピンはねされたりとトラブルが絶えないそうした。また、ゲーマーたちは覚醒剤でドーピングするのはけっこう当たり前で、そこから更にコカインなど危険なドラッグに手を出すものがいるとの事で、日本では覚醒剤が一番危険なドラッグとされているのに、あれ?と思いました。コカインの方がやばいの? アメリカのプロゲーマーには女子もいてみんな可愛かったです。ゲーマーたちは悩みとして「あんまりゲームをすると親が怒るんだ」と親の理解のなさを語っていたんですが、むしろ親が案外まともだったのでビックリしました。そんな感じでこの映画はゲーマーをめぐるしみったれた話ばかりでした。オレが期待していたプロゲーマーの超絶テクやかっこいいゲームの場面は皆無でした。そういう場面を作品で使うとお金が掛かるんだと思います。唯一プレイシーンがあったのが、ギターの音ゲーだったので、そんなの得意気に演奏されてもまったく困りました。ギター音ゲーの名人はジーンシモンズにテクを教えると言っていました。どう考えても本物のギターが上手な方がいいだろ!

 そういうわけで、『FRAG』と同じ時間に上映していた『恐怖女子高校 女暴力教室』の方を見るべきでした。

 その後、宇多丸さんと高橋ヨシキさんのトークショーを見ました。朝からこの日に見た映画を振り返っていらっしゃったのですが『エッセネ派』でオレが感動した場面は、嫌われ者の信者が告白した途端、みんな彼に手を当てて適当に音外れの歌を適当に唸っただけ、と語っていらっしゃっいました。オレは登場人物の把握もしていなければ、音程が外れているかどうかも分からなかった事に気づかされ、残念な気持ちになりました。『ツアイトガイスト・アデンダム』は宇多丸さんがご覧になって高橋さんは見ていなくて、宇多丸さんが内容を説明していました。その説明がたった一回見ただけなのに微に入り際をうがち、オレが見た途端忘れているものを思い出させてくれました。なんという記憶力、再現力! オレも花くまさんとよるひるで去年一年の映画を振り返るトークイベントをしたのですが、何も語れていなかった事を思い出してとても恥ずかしい気持ちになりました。今年ももしあるとしたら、誰か一人きちんと批評する人を迎えてそれなりのものにしないといけない、でもそんな人がいたらオレなんかいる必要もないから困るなあと思いました。高橋さんがご用意した、インディ映画の予告で、ナチスが敗戦直前に開発していたUFOを使って月に逃げてナチスを再建するという映像がとてもかっこよかったです。完成すると『スカイキャプテン・ワールドトゥモロー』みたいになりそうな雰囲気もなくはなかったですが、興奮しました。

 結局この日一番面白かったのはトークショーでした。映画ではいろいろ複雑な気持ちもありますが『ツァイトガイスト』が面白かったです。前の日は一人で見て感想を伝える相手もいなくてつまらなかったですが、山形から小説家の深町秋生さんがいらしてくださって、東京からも堀道広さんが実家が富山ということもあってご来場して、深町さんが知り合いの方を紹介してくださって、何か見るたびに「ああでした、こうでしたね」と話すことができてとても楽しかったです。また、オレの本当に厚かましいところなのですが、ラジオを聴いていると勝手に知り合いみたいな気分になってしまうんですよ。しまおまほさんも出ているせいで宇多丸さんを前から知っている人みたいな気分になって本当に気軽に話しかけて、トイレの前とかでオレのつまんない感想をまくし立てるという行為に及んでいるのでした。思い返すと底の浅い話をだらだらとして、本当に恥ずかしい。

 そういうわけで今回は見る機会のなさそうな映画ばかりを見ました。せっかく爆音上映での『宇宙戦争』や『2001年宇宙の旅』『地獄の黙示録』などには背中を向けていて、で結局あんまり面白くなかったりウトウトしたりしてしまったわけです。

○次回に向けて気づいたこと
・友達と行った方が楽しい
・宿はサウナで問題なし
・映画は面白そうなのを選んだ方がいい
・おにぎりなどを持参した方がいい