古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

鈴木詩子『女ヒエラルキー底辺少女』

 アックスで活躍中の鈴木詩子さんの単行本『女ヒエラルキー底辺少女』の発売を記念して発売中のアックス73号で対談させていただきました。彼女とは以前よりつきあいがあって、ネームを見たり感想を言ってやったりハロプロの情報を交換したりしていました。キャリアは長くて、スピリッツの増刊号や四コマ雑誌などで時々掲載になっていたのですが、数年前にアックスでデビューしてそしてとうとう初の単行本を出版するという快挙をなしとげました。こうして単行本が出て、アックスの表紙になって巻頭で特集してもらえ、大西祥平さんや島田虎之介さんにコメントまで寄せていただけるなんて本当に素晴らしいことです。

 ところが対談ではオレが鈴木さんの絵の下手さを散々コケにしてしまって全く申し訳ない形となっております。今やヘタウマとか流行ってないし、オレもそのくくりに入れられることがままありますが、自分ではまったくそうではないと、これでも一所懸命描いているんだと思っているわけですが、鈴木さんの絵の不具合は相当なもので、女性としての繊細さみたいなものは全くないけど、違う意味での女っぽさは何かあって、でもそれが何かはオレにも分からないです。雰囲気かな。

 でもマンガは魂がこもっていてとても面白いです。この絵じゃよっぽど内容が面白くないとどうしようもないぞとアドバイスしているんですが、内容がかなり面白いので大丈夫かな。

 内容は高校生の女の子が友達が欲しくて欲しくて辛いというテーマで一貫しています。友達が欲しい、人気者になりたい、男子もそういう希望はあるけど、男子はなんとなく野球がんばったりすると自動的に後からついてきたりするじゃないですか。ダメならそれで諦めるといったすっきりしたところがあります。女子は基準があいまいな分、空気で決定してしまうところが大きいので余計に切実なんだと想像します。そんな空気でまるで勝ち目のない主人公・桃子がひたすら滑稽に足掻いています。また、実話に基づくというお父さんの狂気に満ちたエピソードが素晴らしいです。

 悲惨な毎日を送る桃子ですが、決してくじけたり、自殺したがったりすることもなく、むしろ厚かましいくらいにアグレッシブにバレンタインのチョコを作ったり、お別れ会の歌を練習したりしていて読んでいると元気が出ます。年間の自殺者が3万人だとか、毎日100人の人が自殺しているこの日本じゃないですか。GReeeeNとか聴こえてくると、知るかよとむしろ居場所がなくなって死にたくなる気持ちも分かります。でも映画の『パピヨン』みたいに壮絶なサバイバルを見ると「あんなの嫌だ、あんなじゃなくて本当によかった」と命や平穏な生活のありがたみが胸にしみます。桃子みたいな悲惨な女も頑張ってサバイバルしているんだと元気が出るので、死にたいなんて考えている人もぜひ読んでみるといいと思います。

 でも同じ立場の女の子がこのマンガを読んで果たしてどう思うのか、あまりにリアルに等身大でむしろ嫌いになるんじゃないかという心配もあります。女の子がどんな感想を持つのかブログ検索などで調査してみたいですね。

 このマンガ売れるといいなと思うんですが、売れるかどうか分からないですよね。でもガロ系ってタフじゃないですか。立場もそうですが、それ以上にそんなタフネスを内容でも感じさせるマンガです。鈴木さんもこうしてガロ系として単行本デビューを果たした以上、サバイバルの条件は整ったと思って大丈夫だと思います。お金がもらえなくてもマンガを描く根性が身に付いている事がなによりの武器ではないでしょうか。