古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

殿堂入り『バッド・ルーテナント』

 新潟では土曜日から公開中の映画『バッド・ルーテナント』が大傑作なので、ぜひ皆さんにお伝えしたいです! こんな映画好きじゃないっていう人もいるというか、道徳的には大間違いな映画なのは間違いないですが、でも素晴らしいんですよ、主人公はヤク中の刑事で、そんな彼をはじめとしてヤク中はヤク中として、黒人の売人は売人として、ヤクザはヤクザとして、童貞の子供は童貞として、売春婦は売春婦として精一杯生きていると、ここにいるぜ!とどうしようもなく感じてしまう映画です。言い訳や誤魔化しや嘘臭さが微塵もない美しい映画です。新潟は一週間限定で今週の金曜日までなので、新潟の映画野郎どもはぜひとも駆けつけてください!

 これまでもオレの中ではこの映画を見れて良かった、生きていてよかったと思えるダメ男映画あって、オレの中での殿堂入りを果たしてきた映画が3本ありました。『マイアミブルース』『蜘蛛女』『リービングラスベガス』の3つで前にもブログに書いたことあったと思うんですが、この2010年4月に4本目が現れて、スクリーンで見る事ができた喜びに大いに浸っております。殿堂とかいいながらテレビやVHSでの体験でしかなかったですからね!

 ネタバレするので、まだ見ていない人は読まないでね!

 『マイアミブルース』はアレック・ボールドウィンがケチな犯罪者で売春婦の彼女ができて更正しようと思うんだけど、どうしようもなくケチな性格が災いしてケチな犯罪者に戻って次第に追い込まれるという映画です。『蜘蛛女』は汚職警官のゲイリー・オールドマンが、情報をヤクザに流す替わりに大金をもらって売春婦の彼女に貢いだり蓄財に励んでいるうちに、警察からもヤクザからも追い込まれてどうしようもなくなる映画です。『リービングラスベガス』はアル中のニコラスケイジが死ぬまで酒を飲んでやろうとラスベガスにたどり着いて売春婦の彼女ができるけど、それでも死ぬまで酒を飲み続ける映画です。

 『バッド・ルーテナント』はヤク中の刑事のニコラス・ケイジがヤクをカツアゲしながら殺人事件を捜査する映画で、彼女がやっぱり売春婦。

 ニコラス・ケイジ2本目! オレの好きな映画は彼女が売春婦ばっかりだったことに気づきました。調べたら今回のヒロインのエヴァ・メンデスさんは麻薬の更正施設に入っていた過去を持つ本格派でした。ニコラス・ケイジに、いちゃつきながら44マグナムを突きつけて「私を愛しなさい」と凄むという本当に可愛い場面がありました。このダメ男映画のヒロインは揃いも揃ってみんな本当に魅力的なんですよ。オレはけっこう映画のヒロインが大体苦手なんです。ギャンギャン文句を言えばいいと思っている女が本当に多い。簡単に不機嫌になりすぎだろと、よくそんな女好きで入られるよなと感心します。というか、そんな女に甘い男が多いせいで気軽に不機嫌にする女が増えるんじゃないですか? いい女だからって調子に乗るんじゃねえ。女のご機嫌を取るのなんかもうたくさんなので、オレはげんなりした気分にしかならないです。売春くらいする方が世にこなれてメンタルの強い、いい女になるってことですか。ファンタジーですか?

 この映画でコカインを決めたニコラスケイジが証人の童貞の子供、売春婦の彼女、父親から預かった犬を乗せて車を走らす場面があります。それがなんとも言えない面白い絵で、とくに会話もないし、なんてことない場面なんですが凄く好きな場面なんですよ。ヤク中の男、童貞、売春婦、犬ですよ。なんだこの組み合わせは?世界の縮図か!

 あんまり面白かったので、土曜日に見て、今日も見てきました。2回目ともなるとミステリーとしての引きの場面がちょっとたるいと感じてしまうのですが、ニコラスケイジが監査で悪さがばれて、資料保管室に異動になって、売人の元締めのファットの仲間になるところから結末までの構成が本当に素晴らしいんです。完璧じゃないかな。


 ここから本当にネタバレです!

 ヤクのカツアゲをするニコラスケイジで、常に何らかのヤクが決まっているわけですが、一貫して人命を尊重しているし、手ひどい暴力も振るわけでありませんでした。お婆ちゃんの酸素チューブを取るとかチンピラを壁に押し付けるくらいでした。そんなところもこの映画の可愛らしいところじゃないでしょうか。

 他の3本のダメ男映画は最終的には主人公が破滅して終わるんですけど、『バッド・ルーテナント』は妙な出来すぎなハッピーエンドで、でも来月には破滅していても不思議ではない感じで終わりました。

 言い訳がましい登場人物がいないとか、うそ臭い登場人物がいないとか、そういうのは現実の写し絵のドラマとしてはリアルじゃないかもしれないですが、ヘルツォーク監督の美意識や人柄の写し絵として実に美しいわけです。オレは作品はその人以上にその人であると思っているので、ヘルツォークさんのこと、オレは大好きですよ。先日WOWOWで何も知らずに見た『戦場からの脱出』という映画も凄かったです。パイロットのクリスチャンベイルが、ベトナムかどこかのジャングルで捕虜になって命からがら脱走するという映画ですが、壮絶極まりなかったです。去年カナザワ映画祭で『フィッツカラルド』見たんですけど、コンディション調整に失敗して途中で寝てしまった……他の映画も見なくてはいけない焦燥感でいっぱいです。

 
『マイアミブルース』(1990)98点
『蜘蛛女』(1994)95点
『リービングラスベガス』(1995)97点
『バッドルーテナント』(2010)98点

 ダメ男映画の殿堂作品を100点満点で採点するとこうです。最高点が98点ですが、残りの2点は更に凄いのが現れた時のために引いてあるだけ。『マイアミブルース』から20年、『リービングラスベガス』からも15年、『犬走る』からも12年、やっと素晴らしいダメ男映画が現れてくれたと感涙にむせいでおります。当然今年のベストであり10年代の1位かもしれないですし、過去この10年で見てもオレの中でベスト1と言わせていただきたいと思います! ここ何年もそれこそ10年以上も殿堂級のダメ男映画が現れていない事による希望が目を曇らせて、無理矢理傑作だったと自己暗示をかけているのではないかという危惧もあって、二回見たわけですが、紛れもなく素晴らしい映画でした。

 こんな調子で言ってますが、オレがどんなに『マイアミブルース』が素晴らしいと主張しても「普通だった」「まあまあだった」と言われるのが常なので、ハードル上げないで見てくださいね。