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古泉智浩の『オレは童貞じゃねえ!!』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

18日山形新聞『ピストルズ』

 山形県の皆様、18日(日)の山形新聞の書評欄で阿部和重さんの最新刊『ピストルズ』の書評を書かせていただきました。オレのヘボで長い文章を随分と丁寧に修正いただいたお陰でなんだかすごくいい文章をオレが書いたみたいになっております。作品の位置づけのような文章を書いて、あんまり作品そのものの魅力を語っていないような感じがしたので、書き直したのですが、書き直す前の方を採用していただきました。せっかく書いたのでボツにした方をこっちに掲載します。こっちは誰も直してくれないのでヘボなままです。

 先月の末から今月の頭にかけて『シンセミア』から読み直していたんですよ。こんな名誉なせっかくの機会はまたとないわけですが、新聞はブログと違って文字数に制限があって、840字前後にまとめないといけないので、書きたい事がちっとも入らないですね。ちょっとした脱線もできない感じです。





 それから18日は午後3時から阿佐ヶ谷のよるのひるね岸川真さんとのイベントもあるので、東京の皆さんはこちらもぜひお願いいたします。

書評 阿部和重著『ピストルズ』
  この作品はマインドコントロールの秘術を持つ菖蒲家の三代に及ぶ伝記物語となっている。特に先代の継承者・菖蒲水樹とその娘みずきに多くの章が割り当てられている。菖蒲家とその秘術には1200年の歴史があり、物語りは主に1970年代から2006年までが描かれている。70年代には菖蒲家がヒッピームーブメントのコミューンのようになり、80年代にはバブル期が背景となり、菖蒲水樹は四人の女性とそれぞれに子供をもうける。それは秘術が男系男子の一子相伝の掟を持っているためである。ところが女の子ばかりが生まれてしまうため、最終的に四女のみずきを伝承者とする。みずきは小学校に入ると虐待以上とも言える凄まじい特訓を課せられ秘術の習得に至る。まるで忍者家一族の物語のようであるが、大きく違っているわけではないのだ。
 著者の小説には度々「諜報」といえる題材が取り上げられている。この小説でもマインドコントロールの秘術とその行使が大きく扱われている。この作品の前作に当たる『シンセミア』で描かれた事件も影で菖蒲家の秘術が大きく関わっていたという秘密が暴露される。
 著者は出身地である神町を舞台とした小説を数多く手がけている。著者の手によってこれまで神町は下劣な住民によるおかしな事件の多発地帯として散々もてあそばれてきた。ところが、この小説ではまるで違って異常に上品な匂い立つような雰囲気に包まれている。この小説が阿部作品として異常に上品でエレガントな雰囲気なのは一人称による語り手が上品な事によるようだ。著者がこのような作品を描くとは正直驚いた。
 驚くのは雰囲気だけではない。著者の描く登場人物は頭がおかしな人がとても多く、そんな人物がおかしな事件を起こして最終的に残念な結果がおとずれるという傾向が多かった。物語後半の主人公・菖蒲みずきは秘術を用いて町にはびこる事件を次々に解決する。その様子が実にスリリングに描写される。しかしその活躍は秘術によって人々の記憶から消され決して歴史の表舞台に出る事はないのだ。なんという奥ゆかしさだ。みずきの英雄的な佇まいや活躍はこれまでの阿部作品の登場人物と大きく隔たっており、このような作品を手がけるとは、驚いてしまった。


 以上なんですが、お粗末でした。

 『ピストルズ』は『シンセミア』の続編ですが、『グランドフィナーレ』にも深くリンクしていて、両方読むとより面白い小説です。特に『グランドフィナーレ』の結末の直後の様子も丹念に描かれていて、それが『ピストルズ』の中でもすごくいい場面なんですよ。更にもっと余力や興味があったら『ニッポニア・ニッポン』と『ミステリアス・セッティング』も読むと、これまた味わい深い場面に遭遇します。

 オレ独自の阿部指数というのを去年トークショーの時に分析して計算できるようにしたのですが、『シンセミア』が185に対して『ピストルズ』は140で、660ページという膨大な枚数にしてはあんまり高くないんですよ。長編小説全体としてみれば普通で、これまで最低だったのは『プラスチックソウル』の55で、それに比べれば断然高いですが、170くらいはあっても良さそうなものなので、オレにはすごく意外でした。

 オレの勝手な想像なのですが、この小説で阿部さんはもがいて頑張って書いたんじゃないかなと想像しました。挑戦して結果を出そうと苦しんだんじゃないかな。敢えてノリで書かないように務めていたような、得意とするところを封印しているような感じがしました。その思い、しかと受け取りましたよ。でも違っていたらごめんなさい。とにかく、オレと同級生で現代を代表する小説家で、お隣の県出身である阿部さんの作品をこうして書評などさせていただけることなど読者冥利に尽きるわけです。