古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

ネームのアイディア

 お盆進行だというのに仕事もさっぱりないので、新しいマンガを考えていました。前から考えていたアイディアがあって、先日の110歳の老人がとっくに死んでいたという事件で、これはまずい、さっさと描かなければと思って構成しようとしたら全くまとまらなくて途方に暮れました。アイディアとしてはけっこう面白いと思うんですよ。

 でも問題点もあって、どうにもならないので、いい感じで描けるって人にアイディアあげます。一言「古泉さんありがとう」と描いてくれたらいいです。元のアイディアはオレなので、逆にまたパクり返す事があってもそれは見逃してください!

○近未来SFマンガ、老人のレプリカント
 『ブレードランナー』のレプリカントってあるじゃないですか、アンドロイドとか人造人間で、超絶に精巧にできていて、人間と見分けが付かないんですよ。
 オリエント工業とホンダとインテルとかマイクロソフトが合体したような企業が、そういうの開発して、老人のレプリカントを作るんだけど、その使い道が年金の詐取というアイディアです。
 ブレードランナーみたいな捜査官がいて、彼らは行政に依頼された民間業者で、固定給が9万8千円くらいで、歩合で摘発したら10万円くらいもらえるという、彼らもワーキングプアです。老人のいる怪しげな家々を訪問して、面接をしてレプリカントかどうか見抜くわけですが、間違って寝たきり老人に暴力を振るったりしたら大問題になります。

問題点
・SF的な設定や世界観の構築、デザインが難しい。
・敵が老人と貧しい家族なので、アクションが地味というか無しに等しく見せ場が弱いし、老人虐待や弱い者いじめのような絵になって痛快感が全く無い。
・老人だと思っていたらいきなり凶暴になって暴れ狂うというのも無しではないけど荒唐無稽すぎ。
・ドタバタのギャグマンガだったら成立するかもしれないけど、そんなの描いた事がなく、それはそれでセンスが必要なので難しい。
・面接でカウンセリングをして、そこを丹念に描写することでサスペンス性を描く事ができるかもしれないけど、それもまた難しい。

 改めて『ブレードランナー』はあらゆる意味でよく出来ているなと痛感しました。老人のレプリカントじゃなくて、ゾンビにして、家族がゾンビになったけど、かくまっているのを摘発するような話で『ライフ・イズ・デッド』の続編にしたら、全くこっちの方がすっきり収まりがいいと気づきました。業者がゾンビを駆除するマンガは福満さんの『日本のアルバイト』にあったので、ちょっと似ていて心苦しいです。



○死亡遊戯
 ブルースリーの『死亡遊戯』って、お話は全く面白くない変な後付のミステリーじゃないですか。でもあの五重塔のアイディアは素晴らしいと思うんですよ。なんでもシナリオが完成する前に撮影を始めていて、完成されたシナリオも存在しないそうです。
 だったらオレがあの話を完成させてやる!と思ったんですが、かっこいいヒーローものなんてオレの手には余るんですよ。なので、『ワイルド・ナイツ』の世界観で、例えば5階建てのビルの1フロアずつ格闘家がいて、一人ずつ倒して最上階へ進んでいくなんて話を、どうしたら成立させることができるだろうかと考えていました。素手ゴロでタイマンをしようなんて大人が、この現代にまずいないですよね。そこから問題なんですよ。
 カンフー映画では、悪者の組織があって、格闘家を雇っていて、ジャッキーが攻め込んでいくと対決してくれます。しかし、そんな忠誠心がこの現代社会であるでしょうか? よっぽど恩義があるとか好待遇で雇われているとか、暴力団ならありなのかな。オレのマンガでヤクザってわけにはいかないですよね。麻薬で洗脳された格闘家というのも変だし、そんなのまず本来のポテンシャルが発揮されないでしょう。
 そんなわけで中々難しいと思っていたんですが、ビルの側は成立しそうなアイディアが思いつきました。それはここでは内緒です。

 でも攻め込む方の理屈やキャラクターが難しい。『ワイルド・ナイツ』の国森ってわけにはいかないんですよ。あいつは一般人に毛が生えた程度の強さなので、最低でも新潟の空手大会で準優勝するくらいの強さじゃないとダメで、さらに攻めて行く理屈がないとダメじゃないですか。そこが全然思いつかないんですよ。なんとか成立させて『ワイルド・ナイツ』死亡遊戯編として描きたいです。


 そんなこんなでネームを頑張ろうと思っているんですが、今年になって立て続けにショートの連載が終わってしまい、改めて福満さんが指摘するようにオレの仕事がいかにグラグラなのか痛感しております。頑張らないとなあ。