古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

写真家・丸田祥三さんのUstreamに衝撃を受けた

 廃墟写真を先輩の写真家の小林という男にパクられて、裁判をしていらっしゃる丸田祥三さんを支援しようと、歌人の枡野浩一さんと切通理作さんがイベントを開催していらっしゃいました。オレはすっかり忘れていてNHKのアリエッティの特番を見終えて感想をツイッターに書こうとしたら、町山さんがツイートしていてリンクから行って見るとイベントの真っ最中でした。

 ツイッターで町山さんが進行を指令したり、枡野さんが小林になりきって丸田さんに詰め寄ったりととても面白いイベントでした。しかし、単に面白いで済ますわけにはいかない大問題がいろいろと語られていました。しかも問題は単に作品をパクったパクられただけに留まらないのです。

・枡野さんのブログ記事
・丸田祥三さんのイベント『盗作かもしれない』
・町山智浩さんのブログの廃墟写真パクリ検証

 丸田さんは相手の誠意を信じて10年間、訴訟を起こさずに堪えていたそうですが、その間に自体は悪化するばかりで、何らかの圧力で写真展への出品が急遽キャンセルされたり、アマゾンの高評価のレビューが消されたり、業界で干されたりと、悲惨な思いをされています。パクり写真を掲載するなとクレームを入れた『アサヒカメラ』では謝罪記事を載せたと思ったら、丸田さんが問題にした写真じゃない、全然似ていない写真を敢えて載せて、あたかも丸田さんがおかしなクレームを入れているかのような印象操作を行ったりもしているとの事でした。

 イベントでは丸田さんの人間性が、あんまり人に可愛がられないせいで損をしている、面倒な人であるとされ、丸田さんが何か言うたびに、ツイッターでも「この人は面倒」と大合唱されていました。そうやって味方を減らすので丸田さんはますます孤立して仕事や物事を有利に運ぶ事ができないのだとの事でした。

 しかし、オレには丸田さんが全く面倒な人とは思えなかったんです。真っ当で普通の発言しかしていないとしか思えないかったです。いちいち反論するし、頑固で融通が利かない面があるとは感じましたが、それって面倒か? そういう人には勝手にやってもらえばいいだけだから全然面倒じゃないじゃないですか。頑固で融通が利かない人が面倒とされてしまう世論に愕然としました。人々は他人の自由を面倒だと感じてしまうのか。顔色をうかがって適当に合わせる人こそが面倒じゃないというのか。

 オレは、そっちの方がむしろ面倒ですよ。「あの時はこうだったけど今は違う」と結論が出た後から意見がコロコロ変わる人の方がよっぽど面倒じゃないですか。決断がいつまでも決まらないとか、変なゴリ押しする人とかの方が面倒です。

 そんな風に考えていたんですが、丸田さんを面倒だと言う人は、そんな頑固な丸田さんの面倒を見ようとするから面倒だと感じるのかなと、一晩たって思い当たった。親身になって考えてあげているのに、頑固で言う事を全然聞かないから面倒くさいなとそういう事なんでしょうか。それは確かに面倒だ。オレは突き放せばいいとしか考えていなかった。オレは全然優しくないし親身でもないから面倒だと感じないだけなのかと思い至って、恥ずかしくなってしまいました。枡野さんも切通さんも町山さんも優しい人だなあ。

 イベントは、終盤に至って丸田さんが「自分の事はどうでもいい、作品がこの世の中から無い事にされてしまいそうな事がたまらないのだ」と泣きだして、あれ?と思っているうちに慟哭になり、大変な衝撃を受けました。オレは果たして、丸田さんほどの真剣さを持って創作に取り組んでいただろうか、少なくともここ最近は全くそうじゃないとずっしり来てしまいました。

 そもそもオレは大島弓子先生のマンガをパクってデビューしたという情けない経歴の持ち主なので、本当に胸を張ってパクりは良くないなんて言える立場ではないんですよ。少なくとも同業者からのパクりはよくないと思ったのでマンガからはなるべくパクらないように心がけています。でも映画や小説ならちょっとくらいいいかなと思っています。大林監督の『転校生』のアイデアをちょっと変えたマンガも描きました。0からオリジナルでなんて実際作れないです。なのでなるべく実体験をモチーフにしたいとは思っていますが、それだけで乗り切れるほど体験豊富でもないです。最低限パクったら「パクりましたごめんなさい、○○先生ありがとうございました!」と申し述べる事にしているし、そういう方針が一般的にありになったらいいと痛切に願います。発売中のアックスでも『長谷川くんの恋人』というマンガを描いてますがこれは内田春菊先生の大傑作『南くんの恋人』から、女の子が小さくなるというアイデアを下敷きにしています。欄外にその旨を申告しています。

 だから、オレのマンガもパクってもらっていいんですよ。パクりパクられて、その都度「古泉さん、ご馳走様でした」と一言書いてくれるとオレのマンガもちょっと注目してもらえるじゃないですか。そうしましょうよ、皆さん。オレのなんかパクってもしょうがない?そうですか、済みません。

 でも写真のパクりはやりすぎだぞ。小林、さっさと丸田さんに謝っちゃえよ!