古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

『トロン:レガシー』と『ソーシャル・ネットワーク』

 週末は『トロン:レガシー』を、本日は『ソーシャル・ネットワーク』を見ました。『トロン:レガシー』は3Dゲームみたいなアクション映画で、『ソーシャル・ネットワーク』はIT長者の立身出世物語なのですが、どっちもコンピューターをめぐって人々が争うという共通点があるんですよ。IT時代ってことですね。

 どっちも面白かったんですけど『トロン:レガシー』はもうちょっとなんとかなったんじゃないかと、そのヒントはずばり『ソーシャル・ネットワーク』に隠されていると気づいてしまったんですよ。それについてこれから書きたいと思うので、ネタバレしたくない人はくれぐれもここから先を読まないようにお願いします!

 『トロン:レガシー』は前作『トロン』の続編だと思うんですが『トロン』の事は、見たけどあんまり面白くなかったような印象があってでも実は見たかどうかすら定かでないというのが正直なところです。レースするんだけど結局陣地取りゲームみたいなので、あんまりレースの意味がないじゃないかと思ったんですが、それはゲームの『トロン』だったかもしれないです。要するに前作の事はとりあえず置いておきましょう。

 今回の『トロン:レガシー』のいいところは、そのバイクレースの描写で、バイクが走ると光の帯が伸びて、その帯が壁になって他のバイクが触れるとクラッシュしちゃうというのが意味があってよかったです。『デスレース』とか、レースの体裁をとってはいるものの結局、殺し合いなのか早いほうが勝ちなのかよく分からないっての多すぎるんですよ。『トロン:レガシー』は速く走ることで相手をクラッシュさせやすいというのがすっきりしていてよかったです。他のアクションも未来を感じさせてかっこよくてよかったです。

 ところが、このお話が変なんですよ。IT企業の創業者の息子が、リッチニート的な気ままな生活を送っていると、ある日行方不明の父が、閉店したゲーセンにいるらしいと、会いに行くと地下になぜかipadみたいなタッチパネル式のパソコンがあって、いじっているとパソコンの世界に紛れ込んでしまいます。その世界の王として君臨しているのがお父さんだと思ったら実は違っていて、お父さんの分身だったんですよ。

 お父さんが一人でその世界を創造するのがだるかったので、自分の分身をこしらえて一緒に仕事していたら、いつか本体のお父さんの気が変わってきて、仲悪くなってしまいました。それから分身の方が威張り出しちゃって、本体が隠遁してゲリラ的活動を強いられていたんですよ。息子と20年ぶりくらいに会って、協力して分身をやっつける、そんな話でした。

 はっきり言って、なんの意味もないじゃないですか! せっかくアクションがどんなにかっこよくてもこれじゃ乗れないですよ。パソコンの世界に現れる美女も特に意味がない存在です。その世界では人物がプログラムと呼ばれていて、全てデジタル情報なんですよ。なので分身が軍隊を集めてヒトラー張りに大演説をかます意味もさっぱり分からない。何歩か譲って、各々が意思を持っているとしても、テレパシー的なもので伝わるでしょ。

 一方『ソーシャル・ネットワーク』はフェイスブックというmixiみたいなサイトを作った人が、実は元々のアイディアは他の人が考えたもので、どこまでが本人のオリジナルなのか賠償金を取ったり取られたりと実に泥臭い話でした。その冒頭がすばらしいんですよ。主人公が彼女に振られた腹いせに、嫌味や誹謗中傷をネットで書いて、それでも飽き足らず、大学の女の写真を投票で勝ち負けを決めて誰が一番かわいいか決めるサイトを作ります。一方、主人公にフェイスブック的なサイトを開発させようとしたボート部員は同じ時間乱交パーティをしているんですよ。ヲタたちは、女の写真を見比べてビールを飲みながら、こっちだ!いやあっちがかわいい!と大騒ぎです。

 この映画スーパーフリーの和田さんが早稲田ネットっての作るともっと手っ取り早くナンパできるぞ!とパソコンの得意な友達にそういうの作ってくれよと依頼して、ところが社長はそんなダサいのよりもっと面白いmixiってのを勝手につくちゃって、和田さんが元々考えたのはオレじゃねえかと怒ってしまったと思えば分かりやすいと思います。

 実際パソコンやネットの問題って、著作権とかプライバシーの侵害とかファイル共有とか誹謗中傷とか生々しい話ですよ。それが現実というものです。『トロン:レガシー』では創業者のせがれが、会社が開発した新OSを無料配布して経営陣を悩ませますがそこをもっとするどくえぐればよかったんですよ。



○オレが考えた『トロン:レガシー

 IT長者のせがれとしてリッチニート生活を送る主人公はハッキングは得意でもリア充とは程遠い生活を送っていた。現実のかわい子ちゃんはみんなエグザイルみたいなオラオラ系が持っていってしまう。そんなある日、20年間音信不通で行方知れずの父がどうやら近くにいるらしいと聴きつけ、会いに行くことにした。シャッター通り商店街にある潰れたゲーセンの片隅にはipadがポツリとおかれていた。起動させて適当にアプリをいじってみると、パスワードを求められ、父の生年月日を入力してみたところ、一瞬にして別世界に進入してしまう。そこはまるでXBOXの3Dゲームの世界だった!
 
 強制的にゲームに参加させられる主人公は、これまでモンスターハンターでつちかった技能で勝ち抜き世界の王に拝謁するとそれはなんとスーフリの和田みたいな男だった。そこに初音ミクみたいな、見たこともないようなかわい子ちゃんが現れ自分を連れ去ってしまう。連れて行かれた先には実のお父さんがいたのだった。現実ではまったく女と口を聴いたこともない主人公は、モロ好みのど真ん中のミクとこの世界で生きていくことを決意する。しかし、父とミクの関係はどうなっているんだ。もしかして愛人なのか。そんな彼に父は目を覚ませと叱咤するのだった。お前が言うんじゃねえと暗くつぶやく主人公であった。

 実はその世界は、父が作ったmixiのプログラム世界だったのだ。ここではどんなに日記を友達限定にしてもいくらでも読み放題。父はmixiの開発者だったのに、全ての権利を和田さんに奪われてしまっていたのだった。その復讐のため、全てを奪い返すためにプログラム世界でゲリラ活動をしていたのだ。そんな事情で目が冷めた主人公は父とミクと3人でスーフリ軍と戦うことを決意する……。

 くだらない文章にお付き合いいただきまことにありがとうございました。くれぐれもフィクションなのでユーモアと思って受け止めてくださいね。