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古泉智浩の『オレは童貞じゃねえ!!』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

映画『スーパー8』はとてもいい映画

映画・テレビ

 とても公開を楽しみにしていた『スーパー8』を見て来ました。オレは8ミリは難しすぎるしお金も掛かるので取り組む前に諦めてマンガはお金が掛からなくていいなあなんて思っていた口で、友達では何人も愛好している人がいました。オレもデジタルビデオカメラとパソコンでのノンリニア編集の時代を迎えて自主映画を始めたので、自主映画を愛好している子供が主人公なんて特に胸をざわつかせるモチーフなんですよ。

 そんな彼らが大事件に巻き込まれてしまうんですが、ここから先はネタバレになるので絶対に見る前には読まないでいただきたいです。ただ、本当に丁寧に作りこまれ、オリジナリティあふれる表現に満ち満ちている素晴らしい映画でしたよ。主人公を含め子供のお芝居もとても上手で、お話もとても面白いです。

 ただオレはどうしても好きになれないところがあってそれが根幹の重要な部分なだけに残念でしかたがないんですよ。でもそれもオレの個人の問題でしかないので、皆さんはぜひ見に行って胸を熱くしてこの映画を愛していただきたい!

 さて、本当にここからネタバレ!


 大丈夫ですか、ネタバレしますよ!

 ちょっと話は脱線しますがせっかくなのでお付き合いください。『青春★金属バット』に収録されている『路地裏のバッター』という中篇マンガがあって映画にしていただいた際の物語も概ね、このお話でした。実は『路地裏のバッター』は2回描いています。1回目は祖父が死ぬかどうかという時に、泊まり番を他の従兄弟としていた時にも道具を持って作画していた記憶があるので、95年です。40ページくらいで描いていて、お話は単行本に入っているのとほぼ同じ内容です。

 ところが、描き終えてちょっとした時に北野武監督の『ソナチネ』だったか何かの映画評を読んだんですよ。その映画評がどの作品だったか、誰がお書きになったのかすらもきちんと覚えていないのですが、とにかく「北野映画は主人公が常に加害者であり言い訳しないところが素晴らしい」というような指摘でした。

 オレが描いた最初の『路地裏のバッター』は主人公が止むに止まれぬ理由でバット強盗になるという組み立て方でドラマを構成していました。そのどなたが書いたかも分からない映画評を読んだ途端、それがとても恥ずかしい事に思えました。昔も今も一貫してあるんですが、主人公を読者さんに好かれさせようとすると、犯罪者を描くにしても被害者面させてしかたなく犯罪に手を染めてしまう、という表現に陥りがちです。それがとてもダサいと思いました。それなら、主人公がキチガイだからとか、性格が悪いから、バカだから犯罪を犯してしまう方が断然潔くてかっこいいじゃないかと思ったんですよ。実際犯罪を犯すような人やケースも、こっちの方が当てはまると思いました。すると描き上げたマンガがとても嫌いになってしまって困りました。

 2回目の『路地裏のバッター』はバカで、変なキチガイの女とセックスがしたいという理由で連続バット強盗犯になる現在単行本に入っている形で、2002年に描き直しました。そんな北野映画の評論を読んで以降、オレのマンガはとにかく被害者の立場で描く事はやめました。人様の作品を鑑賞する際にもその目線で、被害者面した作品には冷ややかな目線を送るようになり、今もそうなんですよね。

 それがオレのマンガが売れない原因でもあるのは事実!!! 単純に共感しづらいですもんね。他にも不都合があって論争やケンカになった場合、相手が被害者としての立場を振り回したら「そうですよ、こちらが加害者ですよ」と認めざるを得ないので大抵の場合負けます。とても残念! 世の中被害者面して加害しているケースがかなり多く、世間は被害者に優しく加害者に冷たいです。被害者面だっせ〜とか言ってなくて、被害者の立場で加害できるくらいの剛力があればまたよかった。

 やっと『スーパー8』に戻りますが、この映画は本当に素晴らしいですが登場人物がほぼ全員イノセントなんですよ。それが気持ち悪くてね!! 悪者がいないんです。ちょっと性格の悪い人もいるけど、根はいい人ばっかり。心底憎たらしくなるような登場人物がいないんですよ。強いて言えば主人公がカワイ子ちゃんにもててムカつくくらいです。でもその彼女も18歳になったらロサンゼルスに上京して変なバンドマンと付き合ったり、タバコ吸ったりタトゥーを入れてオレをドン引きさせそう。イノセントな登場人物では『アイアンジャイアント』やピクサーなどのCGアニメが大体面白く感じられないんですよ。子供向けや子供も楽しめる作品で加害者やキチガイに共感を抱けるような表現がある方がおかしいので全く仕方がないんですよ。

 『スーパー8』の宇宙人ですら怪物じみた外観なのに、理性的で気の毒な存在でした。せめて、それくらい凶悪な怪獣であって欲しかったです。主人公が仲間の手作り爆弾で宇宙人をぶっ殺して終わりだったらオレももうちょっとこの映画好きになれましたよ。なんでそこまで言い訳しなきゃいけないんだよと思いました。

 「いい」か「悪い」かで言えば圧倒的に「いい」映画で、もし三平映画館だったらステーキ定食くらい食べてもいいくらいの映画でしたが、「好き」か「嫌い」かで言えば残念だけど、あんまり好きとは胸を張って言えない映画でした。面白くないという批判には真っ向から反論します! 確実に面白い映画でしたよ!