古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

コミックビーム新連載『悪魔を憐れむ唄』

 コミックビーム今月号より『悪魔を憐れむ唄』という漫画の連載が始まっております。5年ぶりの長編連載なのでこの後はあるかないか分からない、というかこれがコケたら後がない、崖っぷちのつもりで取り組んでおります。なぜ長編を描かなかったのか言えば、描きたかったけど企画が通らなかったのです。初回ネームは5~6本描いたんじゃないかな。ただ、これまでの長編とはやり方を変えております。

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 『ワイルド・ナイツ』まではネームで最後まで全部描いてから連載を始めさせていただく方針でした。それはなんでかというと、映画みたいに描きたかったんですね。普通の漫画連載は人気があれば続いて、なくなると終わりです。なので作者でも漫画の内容をコントロールしきれない側面があります。大長編で超長期連載できれいに面白く終わる漫画、小林まこと先生の『柔道部物語』や『1・2の三四郎』みたいなのは奇跡的作品なんですよ。数で言えば数多くある感じもするけど、率で言えば数々の連載の中のほんの一握りと言っても過言ではありません。大体は人気がなくなったり長く続けすぎてグズグズになったり、編集部の方針転換などで終わりを迎えます。

 

 そんなネームで最後まで描いてこのサイズで描かせて欲しいといった方式は、人気競争に背中を向けるやり方で、逃げでもあるんです。実はアックスで描いていた長編は最後までネームを描くやり方ではありませんでした。でもアックスは隔月なので、かなりじっくり考える事ができて、しかも自由に描かせていただけて、そもそも単行本一冊サイズでの連載がデフォルトみたいなところがありました。ちゃんとアンケートで人気競争があって商売っ気のある雑誌での普通の長編連載は本当に初めてです。

 

 人気なんてどうでもよかったんですよ。人気があったら嬉しいですが、それよりとにかく自分の思い通りに完成させたかったんですね。その結果単行本はさっぱり売れず、残念なまま今ここに至っております。売れないとチャンスがなくなることが分かっていなかった。面白いとか言ってもらって喜んでいる場合じゃなかったんです。人気商売であることとちゃんと向き合う必要がありました。

 

 なので毎回毎回勝負じゃないですか。気合を入れて面白くしないといけない。5年間連載企画がボツになりつづけていた反省を活かして、完全に心を入れ替えて取り組んでおります。

 

・編集者さんの意見を全部聞く

 オレは面倒くさがりなのでネームの直しが本当に嫌いなんですよ。嫌で嫌でしかたがないのですが、本当に反省して、初回のネームは4回、第2話は3回直しました。とても面倒でしたが自分でもよくなったと実感できるのでよかった。ないわ~というような意見の編集者さんには距離を置く方針だったのですが、そんなのダメに決まっている。それがいかに自分の枠を小さくしていたかとても反省しております。

 

・ゆったりしたコマづかい

 漫画雑誌以外の雑誌でショートコミック描いていると10コマ12コマが当たり前になって、つい貧乏くさいコマ割りをしてしまいます。「このコマは見せ場だから大きくして」「めくりに持って来て」といった編集者さんの注文にも可能な限り応えます。オレとしては、こんな贅沢なコマで割って手抜きに見えないだろうかとハラハラします。

 

・顔を描きすぎない

 つい歯のすきまを線で描いたり、鼻の穴や小鼻を小さい絵にまで描いてしまったり、自分で失点を稼ぐような絵をこれまで描いておりました。目も瞼の淵を線で全部閉じないと嘘のような気がしていて、そこはまだできないですが、小さい絵からだんだん閉じない絵も描くようにしようと心がけております。元々へたくそなくせに自分でハードルを上げるような事は本当にダメです。

 

・先を考えずに描く

 結末の方針は決まっておりますが、内容って描いている間にどんどん変わるじゃないですか。どんな内容になっても流れに任せて変化できるように描いております。といってもまだ序盤なのでなんとも言えないところもあります。とにかく今まで以上に流れを重視して描こうと思っております。 

 

・舞台が東京

 ず~っとそれこそ初長編の『ジンバルロック』を描いてる途中に新潟に移ったため、それ以降漫画の発想が全部新潟が舞台になっておりました。3年前に中野にアパートを借りて半々の生活を始めて東京での活動もあるためか、東京を舞台にした漫画を着想できました。背景が田んぼや農道じゃないので建物描くのが面倒です。

 

 もっといろいろ心がける点がありますが、これだけでも相当な変化じゃないかと思うんですよ。それだけオレは必死なんです。アンケートが悪いと連載は終わるし、単行本が1巻は出してもらえると思うんですが、それが売れないと終わるし2巻も出してもらえない事だってあります。オレとしては4~5年続く連載にして、その頃には歳も歳だしそれで漫画家人生が終わってもいいかなと、悔いの残らない作品にしたいんですよね。そして売れたら車が買いたい。ヒットできればそれに越したことはないんだけど、まずはそこそこ単行本が売れて安心して続けられるような人気をキープしたいです。

チェリーボーイズ

チェリーボーイズ

僕の漫画はスターシステムを採用しております。今回の主人公は『チェリーボーイズ』のカウパーだよ。内容は関係ないですが、ないとは言い切れないよ!