古泉智浩の『オレは童貞じゃねえ!!』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

『シャイニング』の本当の怖さ

 今年もカナザワ映画祭に行って来ました。今年は過去の大傑作映画を爆音上映で見返してみようというコンセプトで、特に90年代後半は、映画館に行くことを控えていた時期で、ついレンタルビデオで済ましてしまったことを後悔していた作品、『スターシップ・トゥルーパーズ』や『ワイルド・アット・ハート』などを改めてスクリーンで見ることができて大感激しました。昨年末を締めくくる映画で『マッドマックス2』をDVDで見たのですが、ついでにそんなことしなきゃフレッシュな感覚でスクリーンで見れたのに!と更に後悔した。

 

 さて、そんな素晴らしいラインナップの中で、オレが映画館で初めて見たキューブリック作品『シャイニング』もあって、これは何度も見ているので、見なくてもいいかな、しかもその日は5本連続で見て、その5本目でもあってとても疲れてもいた。今回は映画のチケットを事前に指定で買っており、もし指定の券じゃなかったらパスしているところでした。

 

 しかも日本での公開バージョンと違って20分長いロングバージョンでした。多分、冒頭のホテルでの面接場面と、ホテル内を案内してもらうところが長くなっているんじゃないかな。近々見比べてみたいです。もしかしたら断酒会の場面と、子供に医者が往診する場面も増えているかもしれない。そんな場面のせいか、これまで見た『シャイニング』と若干違った印象を持ちました。

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 『シャイニング』について、ネタバレしますよ!!

 

 『シャイニング』は作家のジャック・ニコルソンが、雪山に閉ざされたホテルの管理人として奥さんと6歳くらいの息子と3人だけで5か月間暮らし、小説の執筆に専念しようとするけど、そういうしているうちに悪霊に取りつかれて狂って家族を殺そうとする話です。

 

 ジャック・ニコルソンは「本業は小説家で、でも食っていくために教師をしていた。作家に専念するために教師は辞めた。だからその仕事はオレに実にうってつけなんだ」と面接でホテルの人事の人に語ります。また、断酒会でも「本業は作家だけど、教師の片手間でやっている」というように言ってました。とにかく作家であると言いたくて仕方がないんですよ。でも、本を出してはいなさそうでした。当時はまだインターネットも全くなくて、自費出版という手段はあるものの、小説家を名乗るには出版社に認めてもらって出版してもらうしかない時代です。

 

 そして、山での暮らしが始まります。ジャック・ニコルソンは広いロビーのど真ん中の机にタイプライターを置き、バチバチとタイプライターを打って作業をします。時には2階の壁にボールを当てて一人キャッチボールで息抜きをします。タイプをバチバチ打っている時に妻が食事に呼ぶと、血相を変えて怒り狂う。

「オレが集中しているのが分からないのか!一回集中力が途切れると戻すのに大変な時間が掛かるんだぞ、アホが!」

「ごめんなさい!」

「いいか分かったらオレが、作業をしてる風の空気だったら絶対に声を掛けるな。分かったな」

「分かったわ、できたところまででいいからそのうち読ませてね」

 あまりの怒りように妻は怯えきっておりました。ジャック・ニコルソンの気持ちはオレも分かるんですよ。漫画の特にネームの作業は0から1を生み出すような苦しみがあって、その0から1にするために自分の創作の世界に没入しないといけなくて、そこに入るまではいろいろ迂回します。はっきり言うと嫌なんですよ。それでダラダラと寝たり起きたり、テレビを見たり、ネットを見たり、人の不幸を検索したりします。他者から見ると怠けているようにしか見えないことでしょう、それやその自覚がまたしんどさを増量する。だらけている最中も作品世界の事は常に意識しているので、何をやっても全然楽しくない。ジャック・ニコルソンも一人キャッチボールで全然楽しくなかったことでしょう。そうしてやっとの思いで孤独と向き合って創作世界に入れたと思ったとたん、どうでもいい用事で妻に邪魔されると頭に来るどころではないわけです。オレはネーム中は「精神病患者だと思って腫れもの扱いしてください」と常々お願いしています。ところがうちの妻は平常と変わらない調子で邪魔してくれるので、遠慮なくブチ切れてやるんですが!

 

 今回の上映、さすがに一日5本目と言うので、疲れて途中ウトウトしました。息子が熟女の悪霊に脅かされたり、ジャック・ニコルソンが狂っていく過程で、ホテルの悪霊とバーで酒をおごってもらったりする辺りウトウトしました。でもその辺は何度も見ているので大丈夫です。

 

 そうしてとうとうジャック・ニコルソンが本格的に狂って斧で本気で殺そうと家族を追いかけまわします。この演出が、爆音上映も相まって、まー怖い怖い!調子こいてはしゃいでいる時に、『バットマン』のジョーカーになっている時がありました。

 

 妻が逃げた先にロビーのタイプ机があって、これまで執筆していた紙束を見ます。するとそこには「仕事ばかりで遊びがない、ジャックはそのうち気が狂う」という一文を延々、段の組み方を変えて何枚も何枚も打っていた。小説など全く書いてなかった。

 

 ジャック・ニコルソンはこれまで作家を名乗っていたにもかかわらず一冊も出したことがない。もしかしたら1本も書き上げたことすらなかったかもしれない。今回こそ、本気で小説を書こうとしていたのでしょう。書きたい気持ちは存分にあった。5か月雪山で集中して書き上げる作品は傑作である事は間違いない、と自信満々だったはずで、ところが、実際に書き進めようとした途端、書けると思った小説は全く書けなかった。何を書いたらいいか分からず、書き方も分からなかった。書きたいものもなかったのかもしれない。しかし、妻には、オレは本当は作家だと言い続けていた。書けないことがばれるわけにはいかない。だから今日もタイプを打ち続けるしかない。もしそれがばれるくらいなら殺した方がましだ、と考えるに至ってしまったのではないでしょうか。

 

 しかも「仕事ばかりで遊びがない、ジャックはそのうち気が狂う」と打っていたはいいけど、実際小説なんかまったく書いてもおらず、仕事なんか0で100%遊びでしかないんですよ。全く楽しくない孤独で苦しいだけの作家ごっこです。それはもう狂っても仕方がない。悪霊にとっては付け入るスキがありありだし、悪霊なんかいなくても家族を殺しても仕方がない状況です。

 

 今はオレも漫画の仕事をさせてもらっているんだけど、そのうち出版社との取引がなくなり、描きたいものもなくなり、描けなくなる。しかし妻や家族にはそんなことを打ち明けられず、「オレは今とんでもなくすごい漫画を描いているところだ。これが完成したらみんなびっくりするんだぞ」と言い張って描いている振りをし続けるとしたら、それは相当きつい地獄です。

 

 ジャック・ニコルソンが家族を斧で追い回す時に、ジョーカーのように陽気にはしゃいでいる場面があったけど、それはもう隠す必要がないという開放感だったに違いない。

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 奥さんのシェリー・デュバル、目や口が大きくて怖がる顔がまた怖さを掻き立てます。まさに怖がるために生まれてきた顔!

 

 『シャイニング』は悪霊の描写もとても怖いけど、悪霊がいなくても恐ろしすぎる映画であることが分かりました。

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