古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

カナザワ映画祭2015

 カナザワ映画祭には開催日程の内、2泊3日くらいで都合に合う映画を見ていたのだけど、今年は5連休で北陸新幹線開通でホテルが高騰し、3泊しようと思っていたら4連泊の方が安いプランがあったため思い切って4泊5日で臨んでみました。4連泊のプランは清掃が一日おきで、それでも1泊7千円もした。例年は3300円で宿泊していたので目玉が飛び出そうだった。しかも会場である都ホテルからは2キロくらいの距離の片町という繁華街で、用がないのに繁華街にいるのもしんどかったです。直前になると安い宿もあったそうなので、来年はもし高かったら予約せずに行きたいと思いました。それか高かったら都ホテルで2泊にするとか、もうちょっとやりようはあったな~。4泊は長くて途中で帰りたくなりました。

 

 見た映画の感想は映画.comやフィルマークスに書いたのですが、ここではそこでの扱いがない映画について記録をしておこうと思います。2日目9月20日に上映された最新のアジア映画が素晴らしい作品でどっちも日本公開の予定がなく、これぞカナザワ映画祭ならではであると非常に貴重な機会でした。カナザワ映画祭に初めて行った時に見た映画が『It is fine,everything is fine』という車椅子の身障者で非モテのおじさんが連続殺人鬼になってしまうというとんでもない映画で、しかもファンタジックで感動的な結末で度肝を抜く傑作でした。それが監督のクリスピン・グローヴァーが自分立会いの下でご自身のスライドショーとセットじゃないと上映しないという方針であるためか、それ以降日本で上映されたという話を聞きません。何の気なしに見たんだけど、見ておいて本当によかった。もう一回見たい。ブルーレイ欲しい。

 

 今回のアジア映画は、そのような厄介な条件がないので、そのうちシネマカリテやヒューマントラストシネマといった熱心な映画館で上映されるんじゃないでしょうか。

 

○『無人区』(中国映画)

 橋下徹大阪市長の弁護士時代みたいな、若手弁護士が主人公。この人は勝てばなんでもありみたいな冷徹な人物で、ハヤブサ密漁をしている兄弟の弁護を引き受ける。裁判に勝ったけど報酬が払えないため、代わりに車を担保に都会に帰ろうとしていると、その道中トラックの運転手といざこざがあり、途中に立ち寄ったドライブインでぼられたり、密漁の兄弟が追いかけて来たりと、そのみんながみんなで争い合うような展開となる。弁護士がとにかく負けん気が強くてトラブルを招くのだが、全員が全員負けん気が強く、キャラクターとして性格の描きわけがあまりできていないのではないかと思う。おそらく脚本家か監督がそんな負けん気の強い性格なのだろう。

 最初見た時は、ごちゃごちゃしすぎてお腹いっぱいだな~と、面白かったけどそれほど傑作であるとは思わなかった。しかし後から反芻しているとやっぱり凄かったぞと改めて思いました。カーアクションも素晴らしかったし、殺し合いも生々しくてよかった。特にドライブインの一家の生活感がすごくて、何もないし警察が滅多に来ないことをいいことに好き放題やっている。ちょっとした帝国を築いているような、メンバーは家族だけだけで、貧しくとも誰が来ても恫喝してぼったくってやればいいと思っているような感覚が完全に自由でいいじゃないですか。最高だなと思いました。

 あと、銃もどんな仕組みかよく分からなかったけどかっこよかった。劇場公開されたらまた見に行こうと思います。中国映画は去年からちょっとずつ見ていて『罪の手ざわり』『薄氷の殺人』かっこよくて面白い作品ばかり。『無人区』もそうなんだけど、心にべっとり貼りつくような何か印象深いものがある。

 

○『印度国道10号線』(インド映画)

 インド映画の楽しければなんでもありみたいな、時にリアリティを度外視するトーンが好きじゃなくて、この映画はスルーする予定だったのですが、カセット館の後藤さんがすごく推していたので見ました。すると、すごく面白かったです。完全にリアリズムで描いていて好きなトーンでした。

 都会の大会社で働くエリートサラリーマンの夫婦が、奥さんの実家に里帰りする途中のドライブインでカップルが拉致される現場を目撃する。後を追いかけて行くと、殺人現場を目撃してしまい、夫婦が殺人集団に追いかけられてしまう。奥さんが助けを求めて警察に行ったり、村長の自宅に駆け込んだりすると思わず田舎の闇に触れることになる。

 構成が見事で最後までどうなるの?どうなるの!とハラハラし通しでした。映像がくっくりはっきりしていて、見やすいのはよかったんだけど、奥さんがどことなく松坂慶子みたいな雰囲気があって映像の雰囲気も含めて火曜サスペンス劇場みたいな感じがありました。

 

 

 今年は映画17本、トークショー2本見て、完全に寝てしまった映画4本、ウトウトした映画5本という残念な側面もありました。以前に見ていたり、あまり好きじゃなくて、見なくてもよかった映画が2本あった。せっかくスクリーンだからとか爆音上映だからと言って無理矢理見るのではなく、冷静にチョイスして見るべきであると思いました。

 

 映画祭のサポーターに申し込んでいたら、パンフレットで入会順で3番目に名前が掲載されていて嬉しかったです。来年は1番を目指します! ちなみにスペックスさんが5番、カセット館後藤さんが7番です。サポーターになると入場の列に並ばずに済んで、席を取ってからゆっくりと1階のサンクスに買い物に行くことができます。上映までの時間でサポーター用の椅子で弁当を食べるというのが食事の大半でした。上映時間前に弁当をかっこんでいる男がいたと思いますが、それがオレです。

 

 今年もカセット館の後藤さんとラジオを録ったので、そのうち三平映画館特別編で配信しますね! 来年も楽しみです。