古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

『となりのトトロ』は変だ

 大学の時に当時住んでいた町田の映画館で見て以来だったのですが、子どもが2歳になってそろそろ映画でも一緒に見たいと思って輸入版のブルーレイが安かったので買いました。毎年1枚ずつ誕生日にお勧め映画を買っていて2歳のが『となりのトトロ』で、1歳用は『おまえうまそうだな』で、まだ見せていません。そうして見せてみたところ、おおはまりで毎晩多い時は3回も見させられる羽目になってしまいました。最初は感動していたんだけどもう飽きてつらい。そろそろ次の映画に行って欲しい。こんなに見るなら設定をいちいちしないといけない輸入版じゃなくて国内版にすればよかった。 

となりのトトロ [DVD]

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  ただ、そうして何度も繰り返し見ているといろいろ気づくことがありました。

 

・トトロの出番は少ない

 ホラー映画や怪獣映画で実はモンスターの出番は少なく、出ていないのに存在感を発揮するところは作家の腕のみせどころです。ただ、子どもはトトロや猫バスが見たいにも関わらずなかなか出てこなくて、特に病院から電報が届いてめいちゃんが迷子になって探し回る場面が延々長い。トトロが出るまで早送りしてあげたい気持ちはあるものの、映画はそういうものではない、楽な方法を覚えるとよくないのでじっくり再生していますが、ここで寝てしまうことが多いです。この映画のすごいところは日常からはみださないのに、不思議な出来事がいい具合に混ざり合っているところです。特にいいのが、その電報をもらって、お父さんの勤める大学にさつきちゃんが電話を掛けに、かんたくんの本家に電話を借りに行って連絡するところです。その時、待ってなさいと言われためいちゃんは言うことを聴かず、本家に向かうさつきちゃんとかんたくんを追いかけます。ところが途中で見失って軽く道に迷うのですが、うまい具合のタイミングで再開して事なきを得ます。お父さんに連絡して、お父さんが病院に電話して、またお父さんからの結果を待つのとめいちゃんが迷子になっているのかどうか、二つの不安が同時進行します。しかもこれが後のめいちゃん迷子事件の振りになっていて、構成と演出のすごさを見せ付けられます。

 

・トトロはおばけ?

 さつきちゃんが住む家は実際にまっくろくろすけが住んでいたり、トトロが出没したりして、家主の子どものかんたくんにも「お前のいえ、おーばけやーしき」と言われる。また、主人公のさつきちゃんもおかあさんに「お化け好き?」と問うなど、トトロがお化けだと認識されています。主題歌でも「ずぶぬれおばけ」という歌詞があります。妖怪みたいな、猫みたいな狸みたいなののへんげだと思っていたけど、実は死んだ人のへんげなのかもしれません。子どもの白いトトロと中くらいの青いトトロもいて、親子なのかどうかも不明です。猫バスも謎の存在です。

 

・さつきちゃんが変

 さつきちゃんの声がとても大人っぽくて、実際小学3年生なのにお弁当を作るなど自炊までこなします。妹のめいが5歳で、お母さんが長期療養中のため、お母さん代わりに頑張っているうちに大人びてしまったのかもしれません。なので子どもらしくはしゃぎまわる場面が妙に、頑張って子どもらしい素振りをしているような違和感があります。声だけ聴いていると高校生くらいな感じがします。そして更に、それだけ成熟した精神を持っている割に、パンチラに対して無防備すぎる。やたらと短いスカートを好むだけでなくカメラワークもローアングルで、僕はロリコンでないためパンツが見える度に複雑な気分になります。精神年齢を鑑みると、無防備であるとは言い切れず、意図的に短いスカートで飛び回っている可能性もあります。この映画の中で、その対象となるのは家主の息子のかんたくんくらいのもので、彼に対しての挑発行為なのでしょうか。童貞丸出しの同級生のかんたくんは女子に対して意地悪をしてからかったりする割りに、雨宿りをしているさつきちゃんに、傘を貸して自分はずぶぬれになって帰宅したり、また、めいちゃんがいなくなった時には自転車を三角乗りでさつきちゃんの元に駆けつけるなど非常に男らしい側面があります。家の手伝いの野良仕事もします。そんなかんたくんを挑発して精神をもてあそんでいるのかもしれません。女の子はどんなに幼くても意地悪なところがあると水道橋博士の『はかせのはなし』にも描いていました。利発なさつきちゃんの秘めた部分がパンチラに現れているのかもしれません。 

はかせのはなし

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・子どもは毎回同じところで同じ事を言う

 僕が乗っている車が日産マーチであるため、冒頭で引越しの車を見るたびに「マーチかな」と言うので「トラックだよ」と言います。学帽をかぶっているかんたくんを見ると「おまわりさん」と言い、引越し先の家の庭が広いため、さつきちゃんとめいちゃんが走り回り、さつきちゃんは倒立前転をすると「さつきちゃん何してんのかな」と言うので「走り回ってるんだよ」と言います。バス停に猫バスが来ると「トトロが乗るかな?」と言うので、何度も見て知ってるはずなのでからかって「さつきちゃんが乗るよ」と言うと「ちがうよ、トトロが乗るんだよ」と言います。「めいちゃんどこにいるのかな?」「おじぞうさんのところだよ」など、本当に何度も何度も毎晩毎晩繰り返しております。

 

・宮崎監督の投影はトトロか

 町山智浩さんなどがよく宮崎駿監督はロリコン説をとなえていて、どうかな~?と思っていたのですが、何度も繰り返し見ていると確かにそんな気がしてきました。この映画で宮崎監督ご自身をどこに投影して描いているのだろうと考えて、それがトトロだとしたら非常に腑に落ちます。昼寝していると困り果てた少女が頼ってきて、猫バスを呼んで問題を解決してあげます。その際、抱きついてきたさつきちゃんに大興奮して、目を見開いて大声で叫んで、宙に舞い上がり、木に駆け上ります。心拍数や血圧が異常な数値を出していそう。本当に嬉しそうで、宮崎監督も困っている少女を喜ばせてあげたくてしかたがないのかもしれません。

 

・都市伝説について

 実はさつきちゃんとめいちゃんは死んでいるという都市伝説があります。くだらないと思っていたのですが、見れば見るたびに不気味な感じがしてあながちないこともないと思うようになりました。特にトトロや猫バスまっくろくろすけがお化けだとしたら、この世とあの世を行き来するような物語です。また、お母さんもまだ医療が今ほど進歩していない時代で、長期入院していたらあの後、どうかなってしまっても不思議ではありません。かわいい盛りの子どもと離れて暮らすのも断腸の思いであることでしょう。エンディングでは、さつきちゃんがズボンをはいて年相応のこどもらしい表情を見せています。お母さんも退院してそれで楽しそうに暮らしています。ただ、それが実際の未来の事なのかさつきちゃんが夢見たことであるのかは不明です。

d.hatena.ne.jp

 

 そういうわけで、散々『となりのトトロ』は味わいつくしてつらくなっているのでそろそろ『崖の上のポニョ』か『LEGOムービー』か『おまえうまそうだな』を見せてみたいです。 

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おまえうまそうだな [DVD]

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