古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

『悪魔を憐れむ唄』3巻は電子書籍のみ

 2013年くらいから2年間コミックビームで連載していて、2巻まで発売となった『悪魔を憐れむ唄』の3巻の電子書籍を作りました。2巻までは紙の書籍と、電子書籍で出していただいていたのですが、売れ行きがさっぱりで、完結の3巻が出ずじまいでした。電子書籍では出してもらえるとのことだったのですが、なかなか発売にならず、それも採算の見込みのない本をわざわざ作るのもモチベーションが上がらないのだろうと思って、「3巻は自分で作ります」と伝えると、3巻のみ発行元が違うのは都合がよろしくないようで、電子書籍全体の契約が解除となりました。なので、本当は1巻と2巻も自分で作らないといけないのですが、文字を打ち直したり、表紙を作ったりするのはけっこうな手間ですぐにというわけには行きません。 

悪魔を憐れむ唄 3 (日本海わくわくコミック)

悪魔を憐れむ唄 3 (日本海わくわくコミック)

 

 

 とりあえず、ここでは1巻と2巻をお読みいただいている方、もしくは1巻と2巻を紙で入手していただいて電子書籍の3巻を読んでいただくしかない状態です。

 

 

 

 しかし、自分で作ると言ったのですが、この通りモノグサであるため、3年くらい掛かってしまいました。同時期に単行本が紙で出なかった連載はとっくに電子書籍になっている。変な事言わなきゃよかった。そうなら、今も電子書籍の1巻と2巻は存在していて、こんな歪な状況に陥ることもなかったのです。

 

 ただ、改めて作業しながら読み返したら、ピン芸人のとーごさんと阿佐ヶ谷のカーボーイで作った劇中の漫才がけっこうおもしろかったし、当初の予定ではもっとダラダラした展開だったのが、打ち切りが決まったたため、ホラーの側面が強くなってストーリーがタイトになって、けっこうスリリングで面白かったです。

 

 この連載より後に始まったのにずっと売れている似たタイトルの漫画も存在して、そっちの読者さんが間違って買ったら申し訳ない状況なので、タイトルを変更しようとも思いましたが、そうすると3巻のみ違ったタイトルでますます混乱が生じてしまいそうで、そのままにしました。実は初めからあまりしっくり来てなくて別のタイトル案があります。もし、奇特な出版社さんが改訂版を出してくれることがあったら変更しようと思っています。

 

 描いている当時、地下芸人さんと親しくしていて、とても楽しかったのが思い出されます。ちょうどこの連載の最終回のあたりで、初めて里子を引き取ってそれから上京してもすぐ帰らないといけなくなってしまいました。それから更に下の子も引き取って、結果的に僕は今とても幸せなので、何ら不満はないのですが、もしこの漫画がもっと売れて続いていたらどうだったのだろうと考えることはあります。

 

 もっと売れたかったら売れている芸人の話にすべきだったのではないか、しかし負け惜しみみたいだけどそんな漫画は全然描きたくない。中野大喜利皇子という地下芸人の大喜利イベントに漫画家で出てそこで知り合った皆さん、ヨージさんとかすごい論とか、阿久津大集合さんとか、たけいともひろさんとか虹岡誠くんとか、きみえちゃんとか二階堂旅人くんの様子を描きたかった。阿佐ヶ谷プロットライブとか、客がオレ一人だったモストデンジャラスピンという中野TWLのイベントの感じを描きたかった。誰に頼まれて芸人になったわけでもなく、「辞める」と言えば惜しまれることもない、存在するのか存在しないのか気にもとめる人もあまりいない、だけど確かに存在する、存在していた、今も存在する、そんな地下芸人の世界を、そういう意味ではけっこう描けました。ホラー要素は、ホラーを求めて読んだ人には物足りないかもしれない。しかし、類を見ない形になっていると思います。

 

 そしてオレがお笑いに求めている、わるふざけや狂っている感じも描けたと思います。お笑いブームが長く続いて、お笑い芸人さん達のスキルの高さや、そつのなさ、空気の読解力、ありとあらゆる能力の高さが広く伝わり、バカであることもきちんと計算した上でなければならない感じ、特に高い同調圧力に順応しなければやっていけないところがもう嫌になってしまいました。芸人さんだけが出ているバラエティ番組は見なくなっているうちに、どんどん芸能に対する関心までもが薄れてしまいました。ネタバレになりますが、芸人として派手に失敗していく主人公を描けたのは、今読み返しても気持ちがいいです。破天荒な行為を描けてよかったです。

 

 売れる気がないのか、と言われると、非常にあります。しかし、自分の絵柄ではもはや売れないであろうことが薄々分かってきた。これまで手を変え品を変えやって来たけどダメだった。売れている芸人の漫画を描いたとしてもダメだと思う。これまで売れるつもりで描いてダメだった。これから先は売れないことを覚悟して描かなければならない。とてもつらい。そんな漫画を採用してくれる漫画雑誌はあるわけがない。ということは原稿料をもらわないで描かなければならない。でもまあ、もう50だし、これから先は老後ということで、ライフワークとして採算度外視でやればいいのか。いやでも、まだ下の子は1歳だし、そういうわけにもいかない。例えばnoteなどで自分で販売しながら描いてどのくらいの所得になるのだろう。ネットの漫画なんてお金払って読む人どのくらいいるのだろう。

 

 ……そういうわけで、長編漫画では最長の分量の作品となりました。まだまだ描いてみたい長編の企画はあるのですが、実際描けるかどうか分からないし、せいぜい1巻か2巻分ではないでしょうか。自分としては、なかなかの、かなりうまく描けた自信作であります。

 

 

悪魔を憐れむ歌 1巻 (バンチコミックス)

悪魔を憐れむ歌 1巻 (バンチコミックス)

 

 こちらの読者さんが間違って買ったら申し訳ありません。

 

暗黒映画入門 悪魔が憐れむ歌

暗黒映画入門 悪魔が憐れむ歌

 

お世話になっている高橋ヨシキさんの映画本。