古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

祖母の手紙作法は規格外

 祖母は昔から酒屋を自分で営み、祖父の給料を当てにせずに二人の子供を育て上げた。そんな祖母の酒屋でアルバイトをしていた女の人から祖母に封書で手紙が届いた。

 祖母は脳梗塞を患ってから右手が不自由になっていたのだが、頑張って下書きをして、それを母が代書して返事を書いていた。ところが、その下書きが非常に読みにくい文字でしたためられていて、母が補って書いた文章が本当と違って不本意であると書き直しを要求した。母はせっかく丁寧に書いたのですごく嫌がったが結局書き直しをした。

 ここまではまっとうな何の問題もないところであった。

 祖母が返事の下書きを頑張って書いた紙を見たら、それは送られてきた手紙であった。

 「おばあちゃん、送られて来た手紙に書いたんかね?」と聞いてみたところ大して気にするでもなく「そらね」と応えた。
  更に母が言うには、送られてきた手紙のもう一枚の紙に返事を書かせようとしていたというのだ。
 「自分が送った手紙を送り返されたら、おもっしょねえろがね」と言うと別になんとも答えなかったので、それまた別に気にしていないようであった。紙のない貧しい国の人でもない限りそんな風習はあまりないことだろう。

 そんな祖母は氷川きよしが好きで『旅の香り』を毎週見ている。なぜ好きなのかと尋ねると「自分の孫みたいら」と本当の孫であるオレになんの遠慮もなく言うのであった。