古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

COCCOと三船敏郎

 先日ミュージックステーションCOCCOが出演しているのを見た。

 三船敏郎は子供の時にはもうすでに名優扱いされていて、こんなおじいさんのどこに魅力があるのか正直なところよく分からなかった。ところが、リバイバル上映で見た『七人の侍』やテレビで放映された『用心棒』などで見た三船敏郎は、野生のオーラというか画面から凄まじいエネルギーを放射していて、存在そのものが圧倒的な感じがした。とにかく無茶苦茶というか規則や法律と無関係なアナーキズムのようなものを感じた。黒澤映画が外国人に評価されている理由は物語や演出の素晴らしさだけではない事が分るような気がしたものだった。

 何年か前にCOCCOが音楽活動を辞めて絵本作家になると言って、これが最後の出演ですとミュージックステーションに出ているのを見た。その際のトークが既に精神を病んでいる人のようなただならぬ雰囲気で、こんなのテレビで流していいのかと思った。

 ところが『焼け野が原』という歌が始まった途端、それまでとは打って変わった堂々とカメラを見据え、全身全霊を振り絞るように歌い始めた。それはもうこの場で歌い終わったら死んでもいいと思っているかのような歌いぶりで、魂が爆発しているようなとにかく圧倒的だった。歌が終わると演奏はまだ続いているのに感極まった感じでお辞儀をしてカーテンの奥に走って行ってしまった。この日の放送はCOCCOが出番の最後でCMの後、出演者の挨拶では、司会の女は涙を流し、タモリさんも言葉少なになり、浜崎あゆみも顔色を失っていた。(うろ覚えですが……)

 曲もストリングスがひどく切ない感じとてもよかったので、翌日その曲が収録されていたアルバムを早速買って来たのだが、テレビで見たほどの印象がなく、ほとんど聴かなかった。去年くパソコンで、そのミュージックステーションの動画を入手したところ改めて素晴らしくやっぱり感動した。

 そんな規格外ものを感じを抱かせるところで、COCCOを通じて三船敏郎を思い出したので忘れないように記述したいと思ったのである。とは言え今回の出演は音楽活動の復帰作で、『焼け野が原』のような鬼気迫るものはなかったものの、それでも強い意志のようなものを発散して歌っていたのでやっぱり感動的であった。三船敏郎COCCOは神懸り的な天然な特別な何かを持っているのではないだろうか。近くに携帯やパソコンを置いたら壊れそうだし、それにエネルギーが漲りすぎて生きていくのがしんどそうだ。周囲とはスピードが合わないだろうし何かと齟齬が出来たりして、世界が窮屈そうだ。なので、憧れるなんて持っての他で、こうして時折圧倒され、心を掻き乱されるくらいで調度いい。

 余談だが、他にも数回音楽の映像で圧倒された事があるので触れておきたい。

・小学生の時に見た忌野清四郎と坂本龍一の『いけないルージュマジック』
 『ザ・ベストテン』での出演で見たのだが、世の中にはこんな恐ろしい人がいるのかととにかくビックリした。男なのに化粧をしていて怖くて気持ちが悪かった。曲もひどく廃頽的ですごく嫌いだった。しかし当時毎回ベストテンは録音していて、ラジカセで部屋を静かにして録っていたので物音も入っていたのだが、それで何度も取り憑かれたように繰り返し聴いて脳裏に焼きついた映像を反芻した。

・大学の時に見たボ・ガンボスの『ダイナマイトに火をつけろ』
 当時川崎の山の中に住んでいてTVKを室内アンテナのテレビで見た時にたまたま放送されていて、浜で焚き火をしながら演奏しているPVかなにかの映像があまりにかっこよく釘付けになった。録画したのだが、なにしろ室内アンテナの汚い映像だったが、魔術が掛かっていたかのように引き付けられて繰り返し何度も見た。改めてまた見たい。

・就職してからビデオで見たスライ&ザ・ファミリーストーン『I want take you heigher』
 映画『ウッドストック』をレンタルで見たのだが、暗くなって圧倒的な盛り上がりに度肝を抜かれた。曲がいつまでも終わらなければいいと思った。アルバムで同じ曲を聞いてもこれほどよくなかった。これを見てファンクが大好きになった。先日の『PRIDE武士道』でのオープニングで曲が使用されてたのだが、ヘビイメタル調のギターが被さっていて嫌だった。

 他にも思い出したらまた書きます。