古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

マンガ家はお薦めしません

 新潟はマンガ家の輩出が異常に多く、みんな東京に行ってしまうので在住は極めて少ないですが、市をあげて新潟マンガ大賞を設けて、マンガ家の育成に努めています。実行委員の会長である土田さんには、マンガの背景でパチンコ屋や歯医者などなど取材先を紹介していただき、オレのマンガなんかも読んでいただいて、多大なる恩を賜っております。

 それで、新潟マンガ大賞では、新潟県出身のマンガ家さんに毎年応援イラストを募って、展示したり冊子に掲載したりしています。高橋留美子先生や小林まこと先生などそうそうたる面子です。オレなんかもそんな末席を汚させていただいて、非常に恐縮至極なのですが、例年どうにも釈然としない思いがあるのであります。

 それは、マンガ家になろうと言う若い人をあんまり応援する気持ちがないからです。そこで、去年なんてゾンビのマンガ描いていたのをいい事にゾンビの絵を描きました。応援でもなんでもないです。他の先生が余白に「頑張ってね★」なんて描いてるところに「ゾンビだぞー」って描きました。KY極まりないです。Kが「空気」、Yが「読めない」じゃないですか。「空気読める」はなんて略すんですかね。そもそも用語として必要ないんでしょうか。

 それも全部オレが景気の悪いげんなりするようなマンガばっかり描いているせいだとは思うんですよ。夢いっぱいのマンガを描いていれば多分、「そうだね!みんなマンガ家なろうぜ」なんて胸を張って言えると思います。オレにとってマンガ家は嫌な自分と向き合うようなしんどい仕事です。どこかに勤めたりしなくていい事やラジオ聴きながら作業ができる事と、読んで気に入ってくれた人が時々褒めてくれるくらいしかいい事が思いつきません。オレに野球の才能があったら野球選手の方がずっといいって言います。ホームラン打ったりして商売したいです。ものすごい才能があって、大して努力しなくてもいいくらいじゃないと嫌ですけどね。

 嫌な事があっても、ネタになる場合はこの商売でよかったなと思います。その反面、いい事があってもネタにならないという側面が気になるので、ハッピーな気持ちに水を差します。敢えて苦い思いするために、アホな買い物をしたり、つまんない映画見たり、しなくてもいい苦いセックスをしたり、人を泣かすこともあります。読んだら嫌な気分になる人もいるだろうそんなマンガを描いたり、本当にごめんなさいです。そんな種類じゃなくても面白いマンガが描ければいいだけなんでしょうけど、オレの実力の至らなさですよね。

 とにかく、自分の実感からしか本音の部分ではものが言えないので、マンガ家は強くはお薦めしません。

 ここまで書いてきて、そんなに喜びがないかと言うとやっぱりそうでもないです。受けると単純に嬉しいです。その受けるまでがまた大変で、ここ最近の単行本はそんなに売れてないですし、ジャンジャン売れててお褒めの言葉の大合唱が聞こえてくれば気持ちも全然違うと思います。あー受けたい。最近ふと気づいたんですが、オレのマンガを読んで下さっていたり、褒めてくれる作家さんがすごい勢いで出世して行きますよ。ちょっと前まで「うん、頑張ってね!」なんてちょっと下に見て軽口を叩いていた連中が、一瞬にしてオレを追い抜いて行きますもんね。今じゃ「へへー○○先生、ご立派になられて、大ヒットおめでとうございます!!」です。オレはさっぱり出世しませんが、オレの読者さんは出世しますよ! アゲチン作家としてやっていけないですかね。やった女の人がみんな幸せになるとかそういう評判が立つといいな。