古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

小説は賞で盛り上がっている

 『文学賞メッタ斬り2008年版』を仕事の傍ら読みました。小説には文学賞がたくさんあって例えば直木賞芥川賞なんて、えらいニュースになるわけです。新聞やテレビのニュースで報道されるくらい盛り上がります。候補になるだけでも話題になって、選考会に著名な作家が名を連ね、大賞に選ばれると本がバカ売れします。すごくいいじゃないですか。賞には、新人やあんまり脚光を浴びていない作家を発掘する意味と、これまで頑張ってきた作家を改めて評価する意味があるようです。ざっと数えたら48もの賞がありました。SFやらホラーやらミステリーやらジャンルも多種多様にあります。

 それに比べてマンガの賞は随分数が少ないです。講談社マンガ賞や小学館漫画賞などはその時点ですごく流行っているマンガを改めて評価して箔をつけて更に売り出すシステムの賞だと思います。各々の出版社で発行されているマンガ作品が多く受賞する傾向にあります。文化庁メディア芸術祭マンガ部門や手塚治虫マンガ賞はいい作品を評価しようという位置づけなのかなと思います。武富健治さんの『鈴木先生』がそのうちどでかい賞を受賞すると思います。あと何かありましたっけ? 新人賞は各雑誌ごとにやってますが、本になるわけではないので本当に新人発掘で、雑誌の読者以外は読むことがなくて、本の売り上げは関係ありません。

 マンガの賞が今ひとつ腑に落ちないのは、連載中なのに評価を下すところです。小説は大抵の場合1冊で完結しています。直木賞は連作の中の1篇で受賞する事もあるそうですが、でもとりあえずそれ一冊で、起承転結になっています。やっぱり物語作品で重要なのは結末でじゃないですか。マンガ家はそこに向かって血道を開けるわけなのに、そこに至っていない時点で、その後ガッカリ作品に転落するかもしれないのに評価を下すのは随分な博打です。連載マンガは途中途中で盛り上がればそれで充分と言う見方もあるので、いいのかもしれないですけどね。オレのマンガは割りとコンパクトで結末もしっかりしていると思うので、連載中で盛り上がっている作品もいいですが、完結している作品としてボチボチご評価いただいてもいいのではないでしょうか。

 オレのマンガが売れない理由がちょっと分かってきました。単行本が発売されながら雑誌連載がずっと続いているのは、自動的に宣伝されているようなものです。たまたま雑誌をめくって、これはちょっと面白そうだぞと興味を持った人がいたら、はいはい出てますよ!なんて勢いを逃さず単行本を買っていただけます。オレのマンガは1巻ものなので、単行本が出た時点で雑誌連載が終わっていて、宣伝が全然ないんですよ。絵柄がダメとか、内容が地味とかもちろんそういう理由は大いにありますよ。雑誌連載の長いのをやって、途中で本が発売されて売れなかったら、いよいよ条件が問題じゃない事が明らかになるので、やっぱり一巻ものでいいかな……。

 実際小説は一巻ものでもばんばんベストセラーが生まれているので、連載とか一巻ものとか関係ないかもしれないですね。それから、マンガ雑誌がこれからどんどん潰れていくと言われていますが、そうなると単行本の売り上げもどんどん縮小して行くと思われます。原稿料がもらえなくなったら商売にならないからとてもつらいですが、単行本の売り上げはオレには多分そんなに影響がないと思います。