古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

4月5月に見た映画

 こんな報告をして意味があるのか分からないですが、自分で後から一年を振り返る時などにとても役に立ちます。テレビドラマを見るのを止めてから映画を見る本数が飛躍的に増えて、DVDも毎週2枚ずつレンタルして、最新作以外で興味のあって目ぼしいところは大体見終わって来た様な感じです。明らかに評判の悪い失敗映画とかそういうのはあんまり見たくないんですよ。見るべきかもしれないですが、そういうのテレビドラマ研究で散々見ました。

 最近は新作映画を見るに当たってその関連作品を見て点と点が線になるようなそういう見方ができないだろうかと実験しています。例えばいよいよ来週から『レスラー』が公開されるじゃないですか。ダーレンアルロフスキー監督作品の『レクイエムフォードリーム』を見て、ミッキーローク主演の『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』を見て、それで『レスラー』に臨むと、そういう具合です。映画に詳しい人はみんなとっくにやっていると思いますが、そうやって見るととても感慨深いものがあるわけです。先日は『グラントリノ』を見て感激して『許されざる者』を見たら、『許されざる者』で馬にも上手に乗れないお爺ちゃん役のクリント・イーストウッドが、それでも『グラントリノ』よりずっと若々しかったので驚きました。そういう具合で面白いのです。

・4月5月に見た映画

ハイランダー』(★★)
善き人のためのソナタ』(★★★★)
戦場のピアニスト』(★★★★)
『鴨とアヒルとコインロッカー』(★★★)
『未来は今』(★★)
『バーンアフターリーディング』(★★)
『グラントリノ』(★★★★)
『チェイサー』(★★★★)
許されざる者』(★★★★)
『イヤーオブザドラゴン』(★★★)
王立宇宙軍オネアミスの翼』(★★★★★)

 振り返ってみるとさっぱり見ていなかったので自分でもびっくりしました。忘れているのもあるのかな。

 『ノーカントリー』があまりに面白かったので期待して見たコーエン兄弟の『バーン・アフター・リーディング』は熟年夫婦が不倫するとか本当にどうでもいい内容でまるっきり面白くなくてビックリしました。以前に見たコーエン兄弟のコメディで『未来は今』は随分面白かったような記憶があって、見直してみたら、これまたさっぱり面白くなくて「なんだこりゃあ」と思いました。映像や演出がとてもカッチリしていて、そういうのが以前は好きだったのかもしれないです。今は逆に気持ちが悪いです。こんな事なら『ノーカントリー』をもう一回見たほうがよかったと思いました。コーエン兄弟作品はいつも評判になるので話題に乗りたいがために見に行くんですが、根っこの部分ではあんまり好きなセンスじゃないんだなと確信しました。これからは『ノーカントリー』みたいな抜群に面白いのだけ見よう。

 80年代の映画を見ると、どれもこれも記憶と違って異常にテンポが良くて面食らいます。『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』のクライマックスなんて息の詰まる銃撃戦がじっくりと描かれていたような記憶があったのですが、やけにあっさりしていてビックリしました。『王立宇宙軍オネアミスの翼』もダレた感じがいい味わいを出していたように思ったのですが、ダレた場面の味わいもありながら、場面が異常に盛り込まれていて展開がやけに速いです。ここ最近の映画がやたらと2時間半とか3時間とか長尺化しているのを見ているせいで、早く感じるんでしょうか。

 そんな80年代の東ドイツで盗聴をしていた人が主人公の『善き人のためのソナタ』が、これがまた、震える程面白かったです。わずか20年前にはそんなマンガみたいな統制された社会で生活していた人がいたのかとビックリするんですが、今も隣の北朝鮮なんてもっとひどいマンガみたいな現実を生きている人々がいるわけですよね! ヒトラーとかナチスとかアウシュビッツなんかも現実感がないくらいマンガみたいな感じなんですが、実際にあったわけですよね。不思議な感じがするんですが、それはオレに想像力がないからか、なんというかテレビや何かの情報や、目の前の現実に捕らわれすぎているせいなんでしょうか。

 今月ですが『スラムドッグ$ミリオネア』がようやく新潟公開となって見てきました。これが!大変な!傑作ですよ!!皆さん!!! クイズに答えながら、いちいち人生の悲しい思い出を回想するというとても面白い構成で、これはそのうち何かマンガでパクってやりたい構成です。『ネプリーグ』や『Qさま』をつかってパクれるんじゃないかなと、思ったんですが、どう考えてもやっぱり『クイズミリオネア』ってところが抜群にいいんですよね。しかも日本とルールが違って、毎日帯番組で放送していて、しかも生放送だったり、最高賞金が1千万ルピーじゃなくて、2千万ルピーだったりそういうのは説明なしに見ていてびっくりするところです。そんなちょっとズルしているところもあるんですが、すごく作り込んであって『グラントリノ』も大傑作でしたが、「すごい映画を作ってやるぞ」という意気込みでは『スラムドッグ$ミリオネア』の方がずっと漲っていました。アカデミー賞も納得です。みんなも見たほうがいいよ!