古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

村上賢司監督が新潟に来た

 村上賢司監督に、にいがた映画塾14期講座日曜日コースのゲスト講師にいらしていただきました。村上監督は大学の時のゼミの一年後輩で、当時から8ミリカメラをしょっちゅう回していて、映画研究会の人かと思っていました。そしたら、実は映研には所属していなかったという事実が発覚してビックリしました。村上君の計算によるとなんと15年ぶりの再会でした。多分、村上君がイメージフォーラムの卒業制作の上映会で、オレがそれを見に行って以来だと思うのです。その時、「村上くんのが一番面白くて、他のは全然面白くないね!」と言ったら、村上君が血相を変えて「しっ!」と口に指を立てて言っていたのが記憶に鮮明です。しばらくして村上君の作品がイメージフォーラム大賞を受賞していました。とにかくそれ以来だったと思います。

 どっちが先か分からないのですが、新宿御苑に住んでいた村上君のアパートを訪ねた事があります。素敵なボロアパートで天井から8ミリフィルムが何本もぶら下がっていました。そのあまりのコマの小ささに、オレにはこれは絶対にも無理だと思いました。お金も掛かるし、オレはマンガがでよかったなあと思いました。それから何年も経って、デジタルビデオカメラがとても安くなってパソコンでの編集が一般化して、やっとオレの出番が来たと思ったわけです。村上君は、当時と比較して「今はタダで映画が作れる」と言っていました。極端かもしれないですが、当時と比べたら本当にタダみたいな感じだと思います。それはね、高い機材を欲しがったら切りがないですが、オレが使っているような粗末な機材だったらタダみたいなものです。当時は何十分かの作品を作ろうとしたら、それこそ何十万円も掛ける必要があったのです。一本の制作費がそれですもんね。

 村上監督とは同じゼミだったのですが、その教育学のゼミでは、テーマがジェンダーで、女性に大して非常にリベラルな思想に、洗脳されるようなところがあって、一言で簡単に言うと乱暴ですが、男女には違いなんてないとする考えになってしまったのです。村上君もそれで今もとても苦労していると言っていました。オレはそのせいで、女の子に奢ったりするのがとても嫌いで、守ってあげるという発想もまるでなくなり、男が強くあらねばならないという考えもなかったのです。それで20代はとても、やたらと女の子にすぐ嫌われて苦労しました。ジェンダーを強く意識する女性もいますが、女の子扱いされたがっている女性も相当な数で存在します。確かにお金が全然なかったせいもあって、そんな20代で30をすぎて実家に戻ってからは経済に余裕ができて女の子に奢ったりするのもあんまり嫌じゃなくなって、男子たるもの強くありたいと発想するようになって、大分マシになりました。それでもやっぱりしっかり自立心の旺盛な女の子の方が好きだという気持ちがあります。いい大人が依存とか気持ち悪いですよね。依存していいのは子供だけ。村上監督とそんな話をして、オレだけじゃなかったんだと、洗脳はそれほど強烈だったのだと改めて振り返りました。

 講座は、初日に受講生の南君が撮影した40秒くらいの作品を、村上監督にリメイクしてもらって、その場で編集まで行うというのをしました。受講生の皆さんには、監督が現場でどういった段取りで作業をして、役者にはどのように意図を伝えて指示をするのかというのを見てもらいたかったのです。撮影はサクサク進んで、編集もPCをプロジェクターに接続して、どういう手順で進むのかその場で実演してもらいました。事前に南君が作った作品を見ていたので、そこで村上監督が撮影したものがどのように仕上がっていくのか、頭の中で比較しながら見れて、なんだかすごかったです。こうすればよかったのか!と目から鱗が落ちるような技法や手段もありました。そのうち上映会して、両方の作品を見てもらえるようにしたいです。南君のもとても面白かったのですが、プロのセンスでどうなるのか、プロの凄さが如実に伝わるのではないかと思いました。

 その後、『ドキュメンタリーは嘘をつく』の生音声解説をして、撮影裏話などたっぷり聞かせていただきました。まず、オレはこの作品をすごく面白いと思って食いついたわけです。オチとか全然分からなくて、まあビックリしました。でもそこに至る以前の、作品作りで四苦八苦している様も面白いですし、親子の再会ドキュメントに立ち会うという異常な状況のドラマも面白いんですよ。とにかく面白かったなと思ったのですが、実はこの作品には安倍信三の「ドキュメンタリーは公正でないといけない」という発言がもたらした状況に対する強烈な反発から発想されたものだったそうです。よくよく考えると、そういうような発言が作品には度々打ち出されていたのですが、オレはそれにはあんまり気づいていなかったです。ああそうなんだと普通に受け止めていたというか、それ以上に作品の面白さに夢中でした。編集が松江哲明さんで、村上監督は「ドキュメンタリーの編集では世界一」と言ってましたが、編集のリズムや何か本当にかっこいいし、面白くするために機能していると思います。

 村上監督は引く程の海外映画祭での受賞歴もあって、「ウディアレンと今村正平の血のつながらない末裔」とまで高く評価されているのに、映画監督に裕福な人はいないと言われる状況のその例外ではなく、経済的にはとても苦労されているようでした。15年ぶりって、その数字に魂消るわけですが、長く生きているとこんなこともあって面白いなあと思いました。死ななくてよかったです!