古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

シネコン死亡遊戯

 近所のユナイテッドは月曜日はメンズデーで一日中1本千円で映画が見られます。今年の初めに伊集院光さんが『深夜の馬鹿力』で、朝から映画を連続して夜まで見たという話をされていました。時間の都合で趣味でもなんでもない映画を無理やり見ているのがとても面白くて、友達と真似してみようと以前から言ってました。ちょうどそんなに熱烈に見たいわけでもないけど、ちょっと気になる映画が何本も上映されている時期なのでやってみることにしました。

 初回が9時45分からで、オレは時間を勘違いして9時過ぎに行くと、開場が9時半なのに10人くらいの男が入り口をうろうろしていました。なんと、メンズデーには男達が朝から映画を待ちきれずに駆けつけていると、こういった文化があったのかとちょっと衝撃でした。

 今回上映している映画でもすでに見たのは『空気人形』で、他にとりあえず見たいなと思ったのは『路上のソリスト』で、抑えておきたいなと思ったのは『カイジ』『カムイ外伝』『ワイルドスピードMAX』でした。『ヴィヨンの妻』『ココアヴァンシャネル』はどうしようかなと、『20世紀少年最終章』『BALLAD名もなき恋の歌』『あなたは私の婿になる』はあんまり見たくなかったです。

 そうは言ってもレイトまで行っても5本が限度です。今回はあんまりネタバレないですよ。

・9時45分『ワイルドスピードMAX』
 このシリーズは1本目を見たきりで、それもあんまり面白くなかったけど、でもまあそんなに退屈はしないだろうし、安全パイだと思って初回に選びました。カーアクションはとても激しくド迫力なんですが、オレもドライバーの端くれとして粗暴運転はあまり好きじゃないです。たまに新潟のバイパスを爆走するGT-Rなんてのもいて、本当に嫌なんですよね。事故なんてもらったらたまったもんじゃないです。お話は以前と同じく潜入捜査ものでした。無理やりカーレースに話を持っていく感がありました。主人公が冒頭でタンクローリーを強奪するんですが、そんな犯罪者なのにさっぱり悪そうでなく、本格的な映画の中での悪者もさっぱり悪そうでなく、潜入捜査する刑事が、刑事なのに法律を破ってばかりいるというので、結果的に刑事が一番悪い印象がありました。犯罪組織がやっている悪事は麻薬の売買と公道レースで、確かに迷惑なんだけど、泣いている被害者も出ないので悪い印象がさっぱりなかったです。そいつらは、きわどい水着の女をやたらとはべらかせて「酒も女もここではタダだ」と振る舞うので、むしろいいなあ、オレにもおこぼれいただけないでしょうかと思った。悪者組織の手下は非常に忠誠心が高く、散々な目に会うまできちんと任務に懸命で、モヒカンや刺青の印象と違い非常に生真面目な連中でした。カーレースの場面もだんだん飽きて、音がうるさくて嫌でした。カーレース以外の場面は退屈きわまりなかったです。

 いったん休憩でお昼にカツ丼を食べました。ブロガーであるカトキチさんを呼び出して合流しました。

・13時『カイジ』
 主人公カイジ役の藤原竜也さんが、自分の気持ちや考えを全部独り言で話すという冒頭の場面で、映画に対して大変不安を覚えたのですが、話が進むにしたがってどんどん引き込まれて2時間があっという間でした。オレは原作マンガをヤンマガでずっと読んでいるんです。でも最初の限定ジャンケンなんて10年以上前に読んだきりなので細かいところは忘れてますが、ジャンケンで使ったカードの各カードの残り枚数が掲示されていたはずで、そこから割り出す戦術が見せ場だったのですが、そういった細かい心理戦はバッサリ削除されてました。地下作業場での、班長とのチンコロもなく、ティッシュの箱を使ったクジのギャンブルもなかったです。ついでに利根川の焼き土下座もなかったです。その分テンポよく進んでました。何よりよかったのは藤原竜也さんの熱いお芝居です。地下でビールの美味しさに感動するお芝居がとにかく面白く、原作以上でした。限定ジャンケンでの山本太郎さんが、最高の場面で一人ボケ突っ込みを見事に決めていたのも素晴らしかったです。利根川役の香川照之さんも、とにかく熱かったです。帝愛の会長の出番が遅く、地下で流通している紙幣のペリカに印刷されている顔が会長であるというギャグが伝わってなかったと思いました。細かいところでもったいないと思う場面はあったのですが、すごく面白かったです。熱心な原作ファンも見ていただいて大丈夫です。

・15時45分『路上のソリスト
 この映画は実話が原作で、ちょっと前に東京に行ったときに『CBSドキュメント』でこの話をしていました。ジュリアーノ音楽院を出たのにホームレスで、路上で演奏している男がいると、記者とホームレスはすっかり仲良しになって交流しているといった内容でした。その番組で映画になると言っていたので楽しみにしていました。主演のジェイミー・フォックスは『レイ』というレイ・チャールズの伝記映画が素晴らしかった記憶もあり、今回一番の期待作品でした。ところが、これがお話自体が、記者がホームレスと知り合い彼をどうにかしようとするってだけと言えばだけなので、お話の起伏に乏しく、とても退屈でした。ホームレスの男は精神を病んでいて、そのお芝居は迫真で見事でしたが、なにしろお話が面白くないのでつらいばっかりでした。音楽映画なので、素晴らしい音楽が立派な音響で聴けるのも楽しみだったんですが、ベートーベンの中でもあんまり馴染みのない曲だったせいか、さっぱり感動しませんでした。

 『路上のソリスト』が終わると夕方の6時でした。9時間もそこにいるのかとうんざりした気分になりました。『路上のソリスト』にはずいぶんライフを削られ、その次にちょうどいい映画が『あなたは私の婿になる』『私の中のあなた』『女の子ものがたり』『20世紀少年最終章』『BALLAD名もなき恋の歌』と、非常にハードな選択肢しかなく、それか『カイジ』をもう一回見るかしかない状況で継続を断念しました。死亡遊戯になぞらえて言えば3階で負けでした。とにかく『カイジ』が面白くてよかったです。

 今日見た映画は、犯罪と負け組と精神病の映画でした。予告でやたらと『わたし出すわ』で小雪が貧乏人にお金を上げると、『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない 』でつらい会社で働いている小池徹平を見たわけです。小雪にお金がもらえれば藤原竜也小池徹平も助かるのになと、なんだかごちゃごちゃしました。こういのも世相なんですね。

 ワーナーが金曜日が二人デイで二人で行けば一人千円で見られるので、ワーナーで挑戦したいです。