古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

『1976年のアントニオ猪木』と『ALI』

 随分前に評判になった柳澤健さんの『1976年のアントニオ猪木』という本が大変面白かったです。この本では1976年にアントニオ猪木モハメド・アリをはじめとして三人の選手と真剣勝負で試合を行った事が紹介されています。一体なぜ猪木はそんな危険な試合をする必要があったのか、またなぜ相手選手はそんな試合を受けたり仕掛けたりしたのかが大変面白く語られております。なかでも一番の注目は当時ボクシング世界ヘビー級王者であったモハメド・アリとの試合です。この試合が日本のプロレスや格闘技の全てを変えてしまうきっかけとなっていたことは、後の歴史で知る事になります。また、モハメド・アリが実はプロレスが大好きで、彼のマイクパフォーマンスこそプロレスの模倣であったという衝撃的な事実が明らかになります。亀田兄弟のヤンキーぶりやタメ口もアリのマイクからの影響だとオレは思います。

 この本がとても面白かったので以前から見たかったけど2時間40分もあって嫌だったマイケル・マン監督作品『ALI』をこの機会に見てみました。モハメド・アリの伝記映画で、ウィル・スミスが頑張ってアリに似せた演技をしています。頑張っても顔がどうしようもなくあんまり似ていない、目が離れすぎじゃないかな、なので見ていてちょっと困りました。例えばコロッケ主演で『五木ひろゆき物語』なんてのがあったらちょっと見たいかな。

 映画はとても面白かったです。『1976年のアントニオ猪木』を読んだ後に見ると、この取り巻き連中が新日本の新間とかに飲み食いや遊びの金を全部出させていたのかなどなど感慨深いところが多々ありました。とにかく試合の場面が燃えます。文句があるとすれば特訓の場面がほとんどなかったことです。ボクシング映画よりも人物伝的な側面を描いていたからなのかな、普通ボクシング映画だったら、クライマックスの試合に向けて特訓したり作戦を構築したりしてどうなるのかハラハラさせるじゃないですか、そういの一切なしでした。

 アリは徴兵を拒否して裁判に掛けられて、タイトルも剥奪されてボクシング界から干されてしまいます。それでブランクができてしまった後、復帰してザイールのキンシャサジョージ・フォアマンに挑戦します。ところがピークを過ぎていたのかすごい不調でやっとの思いで勝ちます。猪木と戦った頃にはすっかり蝶のように舞えなくなっていたのかなと思いました。

 アリは世界挑戦をするのにキンシャサに行ってこれから試合を控えているってのに奥さんにはすごく不機嫌にされて、ボクシングの世界王者でスーパースターでも奥さんにはあんなのかと知って愕然としました。なんで世の奥さんはあんなふうに平気で人に向かってイライラをぶつけたりできるんだ? それで自分の立場が良くなるとでも思っているんだとしたら逆効果しかないよとオレは声を大にして言いたいです。どんどん嫌われて終わりだよ。たとえムカついても、どう言ったら自分に有利になるのか考えて発言した方がいいと思います。お互い不愉快な思いをしたくて生きているわけじゃないじゃないですか。特に不平不満を言う時にこそ知恵を働かせて言葉を選ぶべきです。

 アリのドキュメンタリー映画『モハメド・アリ かけがえのない日々』も見たのですが、見たのが随分前なので内容をすっかり忘れてしまいました。キンシャサの試合を見れて面白かったような気がします。