古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

2回目の『ヒーローショー』

 『ヒーローショー』が単純にあまりに凄すぎる映画であることのみならず、その割にお客さんがさっぱり入っていなくて、更には見た人の評価が真っ二つに別れて、肯定否定が3:7くらいで否定側に傾いているのもビックリで、1回目見てからというものすっかり頭の中がどっぷり『ヒーローショー』で、こんなの初めてじゃないかな。ここまで来ると事件ではないかと、世の中は新総理の誕生やワールドカップが話題だと言うのに、オレみたいに『ヒーローショー』にとりつかれた日々を送っている人も結構な人数いるんじゃないでしょうか。人に会えば『ヒーローショー』を勧め、見た人とは話したくて仕方がなくて、うちに帰ればネットで感想を漁る毎日です。否定の意見ですら面白くて仕方がないんですよ。

 実際問題、こんなの気持ち悪いじゃないですか、それから他の映画も見ているわけで、東京に行って『クロッシング』見たり、週末の予習のために『ソナチネ』見たりして、すごい映画だなと思ったり改めて面白かったりしていても気が付くと『ヒーローショー』の事を考えているんです。凄かったなあ、ああ凄かったあ、なんてね。

 それで二回見たら改めて気づく事があったのであれこれ書いてみたいと思います。とにかく2回目見たらちょっと落ち着きました。ネタバレするぞこの野郎!



井筒監督のインタビューよかった。

 すごくゾッとしたのは、主人公のユウキがリンチに会っている現場で完全にビビっているのに、表情が笑顔だったところです。もちろん笑っているわけではなく、他に表情を選びようがないくらいビビっているというか、友愛ですよという表情でもあるかもしれない。とにかくそんな顔であることがあまりにリアルで、容赦なくみっともなく恥ずかしいと思いました。

 東京軍対勝浦軍では3人対5人だった。しかも東京はユウキが部外者に近い。そのユウキも分け前が2万円に「先月の家賃代にもならない」と不満を漏らし、ユウキは元相方の剛志を穴に蹴り入れるので、完全にイノセントなわけではないのです。実のところ、リンチ殺人だけど、誰が殺したかと言うとユンボのオペレーターのパットンさんです。そこもなんか凄いですよね。

 「ぶっ殺すぞ!」と言っているうちに引っ込みが付かなくなって本当に殺人事件に至ってしまうというのが、恐ろしいです。オレがあの現場にいてリンチを止める事ができるかと言えばすごく難しいとしか言いようがないです。特に空手もやっていなかった学生時代とか20代だったらせいぜい「ジュース買って来るけど、みんな何がいい?」とか言って現場から逃げるくらいじゃないかな。

 殺人事件が起こるまでが本当にスリリングで眩暈がするんですが、その後ジャルジャルの二人の話になります。そこから二人の人生が交錯して脅し脅される関係ながらも不思議な感じになっていきます。お互いに人生を背負っていて、これがまた面白く、切なく苦しいわけです。ストーリーの構成が凄い、こんなの見た事がありません。事件の後の方がこの物語の肝であったのかと思いました。

 先日映像作家の納戸正明さんとお会いした際に教えてもらったところですが、市長の息子兄弟の兄が、一旦実家に帰って事件についてあれこれ悩んでいながら、母親に選挙の手伝いに来いと言われて嫌だとか言っている間に、弟がずっとテーブルの上に置きっぱなしになっていた寿司をパクッと食べます。前の晩からずっと活動していてお腹が空いていたんですね、でも深刻に悩んでいる兄の前では食べづらかったので、その隙に食べたんですよ。この当事者意識のなさ! その表現の凄さ!

 結局、「オレすげえ、オレはうまくやれる、なぜならオレはすげえから」という感じの意識で世の中を渡ろうとしてた連中が散々な目に会います。絶対調子乗るのよそう。

 2回目は特に勝浦軍の下っ端のギャル男・ヒロトをしっかり見ようと心がけました。初回で本当に面白かったけど、全く中心人物じゃないので相当見落としがあるはずと踏んでいたからです。1回目は時々、ノボル(寝取った男)とツトム(出会いサイト社長の弟)とヒロトの見分けが付かなかったです。
・待ち合わせに女を連れてきたのは、彼女が女遊びを疑っていたからで「ほら女なんかいないだろ」と説明。
・勇気の彼女がバツ一と聞いて、Fカップの女を紹介しようとする。そのFカップは自分の彼女の勤め先であるジャスコの同僚。
・「お前はオレとタイマンだ!」とユウキが一番弱そうと踏んだ上で吹っかける。
・ユンボのオペレーターに30万ゆすられて「肝臓とか」と提案、ノボルが乗っかるがあっさり却下される。
・レンジャーのコスプレで海に行ってナンパ。
・レンジャーのコスプレで市長候補に花火を撃って交通事故で重態。事故のニュースを見た拓也の父に「ふざけた事件だな」と言われる。
 こんなクソバカが軽い乗りで殺人を犯すのは極めてリアルであると思いました。

他に気づいた事
・鬼丸弟は顔が怖い割りに声が高くてセリフ回しが可愛らしい。
・主人公のユウキが唯一強く出た相手はバイト先の上司。

 ちょっと前に韓国映画で非常に評価の高い『息もできない』を見て、今日、中島監督の新作の『告白』という映画も見たんだけど、どっちも『ヒーローショー』に通じるテーマがありました。ちょっと比較しながら考えてみたいと思ったんだけど、疲れたのでまた後日にします。