古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

『私の優しくない先輩』2回目見たよ!

 初回が衝撃的だったので、興奮してブログを書いた『私の優しくない先輩』ですが、果たして本当に大騒ぎするほどの傑作だったのか、確かにヤフーの映画レビューなどでも好意的な評判が目立っていましたが、もしかしたら先日の記事は大間違いでしたとお詫びしないといけないかもしれない。そんな不安を抱えながら、ちょっと厳しく見てやろうとTジョイ万代の1番スクリーンに向かいました。今回は1800円という普段支払う料金の1.5倍の通常料金で見たので、自ずと5割り増しで厳しさが増すというものです。

 驚くべき事に、1番スクリーンというTジョイ万代が誇る巨大な会場で、お客はオレ一人!この映画全然ヒットしていないの?オレが普段からレイトや割引の日でばかり見ているから、通常料金の回ってそもそもこんなものなの? 厳しすぎる圧倒的現実をいきなり突きつけられました。そういえばツイッターでも、二人だったとかそんなツイートを見ていたんでした。

 内容は、厳しく見ていたつもりだったのですが1回目より涙が多く出て、全身の力が抜けるほど感動してしまいました。ここから先はネタバレありあり進行でお送りいたします!

 一回目は川島海荷ちゃんの面白い表情やしぐさにばかり注目していたんですが、2回目は脇役が本当によかったなとしみじみ味わい深かったです。奇抜な表現が目立ちますが、やっぱりそれらは面白く、奇抜でない場面も手堅く描いておりました。ほぼ全ての場面に、少しでも面白くしてやろうという旺盛なサービス精神がにじんでいます。

 お父さん目線に立つと、はんにゃの金田の行動は、体の弱い娘に何を無理させてくれるんだと非常に気になるところでした。でんぐり返しをさせようと投げ飛ばすとか、深刻に心臓が悪いのにたこ焼き屋?やめてくれないか!と強く思いました。しかし、単に体をいたわっていくらか余命を伸ばすよりも、ちょっとくらい無理をしても精一杯生命を輝かせて世界と向き合う方を望む気持ちも分からなくもないかな。しかし、金田なんかに任せず高田延彦本人がやるんじゃないかな。よっぽど金田を信用する何かがあったのだろうか。

 でも金田が本当にいいんですよ。フワフワと夢想している海荷ちゃんに現実を突きつけます。見事なすごいでんぐり返しもよかった。告白を失敗した後の説教が優しすぎて泣けてしまうのに、名前を聞かれ「お前はヤマネコだ!」と答え「そんな名前の人間はいません」と冷静に返されるところに、笑ってしまい感情の持って行き場に困りました。バカみたいなやり取りの中に真実と優しさが満ち溢れているんですよ。

 一回目はストーリーに没頭して見ていたので全く気づかなかったですが、感想で指摘されていた長回しがかなり頑張っていました。体育館での説教や、お祭りの神社の場面や、その後の金田の場面もほぼワンカットだったんじゃないでしょうか。

 誰かが指摘していたんですが、夢想している時はハリボテの地球で、現実と向き合った後は写実的な地球になっていて、本当だ!と思いました。

○よかった点
・一日中「ムリムリムリムリ」とつぶやいて過ごす海荷ちゃん、かわいい。
・携帯を無視しているとバイブで振動しながら海荷ちゃんの布団に侵入、いけない想像をしてしまう。
・愛治くんを見かけたときのピヨピヨするところ、かわいい。
・友達の喜久子ちゃん、どんどん表情がかわいくなる。
・喜久子ちゃんの飼い犬の名前がトリカブト
・海荷ちゃん、本格的に性格が悪い描写、ひどい。でもその踏み込みがいい。
・クライマックスがお祭り
・難病以外は本当になんでもない話
・走馬灯の中での海荷ちゃんのすごいマット運動
・踊りの振り付けが夏まゆみ先生、すごくいい。
・エンディングが名曲『MajiでKoiする5秒前』、海荷ちゃんが一所懸命踊っていてかわいい。

 「人間はくせえんだ!」と金田が海荷ちゃんの匂いを嗅ぐけど、海荷ちゃんはいい匂いがするに決まっています。臭い方が映画として収まりがいいわけですが、そんな事を言ったら現実に海荷ちゃんみたいな女子がいたら本格的に気持ち悪いと思うんですよ。外見もあんまり可愛くなくて、服装もセンスがなくて変な服を着てしまうタイプです。体形や肌の色も病んでいる風なはずです。金田もあんなにツルツルしていなくて、本格的に臭くて毛深い応援団みたいな男ですよ。脳でそうやって補正して見たとしてもやっぱり人と人が正面からぶつかっているのは感動してしまうんじゃないかな。本格的に描いたら『プレシャス』みたいになってしまう。

 ラスト、海荷ちゃんの告白に感動したまま『MajiでKoiする5秒前』のミュージカルみたいな場面になります。お客がオレ一人だったので、普段はそんなことしないんですが、声を出して笑ったりちょっと嗚咽したりして見ていて、歌が始ったら、そのままテンションがあがってちょっと口ずさんで、更に小さくフリコピまでしてました。よかった……ああよかった、と半べそ気味で席を立とうとしたら、最後列におじさんとおばさんが並んで座っているじゃないですか! 傍若無人な態度で見てしまいごめんなさい!そして恥ずかしい! 早歩きで逃げ帰りました。

 もしかしてこの映画全然ヒットしてないの?新潟では大外しじゃないでしょうか。1番スクリーンは『アリエッティ』上映すべきだよ。