古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

最近読んだ本

 仕事が特にないのでネームをやっていたんですが、ネームをやる前にちょっと本を読むと脳のチューニングできる感じがあるんですよ。いつもは、マンガ雑誌を一冊読んで、活字の雑誌を読んで、書籍を何か読んでそれからネームをするという単に逃避の末にやっと仕事にたどりつくような具合で、実に効率が悪い。でもテレビやネットをしていると永遠に仕事にたどりつけないんです。分かっていただきたい!

 なので読書のペースはとてもゆっくりで買って読んでない本が山となっております。普通に読むのが遅いってのもあるんですけどね。

『お前なんかもう死んでいる プロ一発屋に学ぶ50の法則』有吉弘行
 本屋さんで手に取ってパラパラとめくって、つい読み込んでしまったら買わないといけないオレルールがあるんですよ。それで思わずぐいぐいと読まされてしまった元猿岩石の有吉弘之さんのお金について語った本です。「金はつかえば自分に入ってくるなんて、大嘘、金はつかえばつかうほどなくなる」「自分へのご褒美なんていらない、貯めておけ」「嫌われ者は人気がなくなると、嫌われている分あっという間に落ちる」などなど、実に腑に落ちる、虚飾のない金言ばかりで背中が寒くすらなります。
 でもちょっと気になる点があって、7千万円の貯金が最終的に100万円にまで減ってしまったとあります。しかし、有吉さんの文章から言っても、そんなにお金を使っているとはとても思えないんですよ。超売れていた時期から家賃は9万円のままで、他にお金を使ったというエピソードもないです。有吉さんはまだ2千万円くらいは定期か国債か何かで資産を保有しているんじゃないかな。たとえそうだとしてもそっとしておいてあげましょう。
 それにしてもタイトルがかっこいい。

『ルポ 貧困大陸アメリカ?』堤未果
 アメリカは日本よりもずっと民主主義が進んでいて自由で平等にチャンスが転がっていて、iphoneipadをいじって楽しそうにしてるんでしょ?なんてイメージがあったんですが、そんなのは大間違いであるようです。オバマ大統領の国民皆保険の公約は民間の保険会社との併用ですっかり骨抜きにされて、中流の人たちが一度大病に掛かったらそれこそ破産しないといけないくらいお金を掛けないと充分な受けられないんですよ。日本はまだまだそんなに企業が大手を振って金儲けに走っていない、いい国だと思いました。
 更に恐ろしいのは民営の刑務所で、ニューヨーク州では受刑者は毎日食費やトイレットペーパーの使用料などが課金されて、労役をやっても時給40円とかなので、出所する頃には借金まみれになってしまい、更正も何もあったもんじゃないとのことです。しかも、そのインドや中国以下の人件費が重宝されて、他の民間企業の仕事を奪ってもいるんですよ。北朝鮮の強制収容所みたいな扱われ方をしているんだそうです。超先進国には奴隷制度がまかり通っているんです。日本はそこまでじゃなくてよかったです。アメリカの刑務所は更正が一番の目的で懲罰なんてとんでもない、受刑者は筋トレしたりけっこう楽しくやっているイメージがありましたよね。マサ斉藤は刑務所に服役してパンパンの体になって監獄固めという技まで発明して出所してました。プロテインはタダだったって言ってましたよ。州によってはそういうところもあるかもしれないですが、古い話なのかもしれないです。
 アメリカはキリスト教を信仰する人が多いから弱者を救済するシステムが徹底していると思っていたらそうでもないようです。日本の方がまだ安心して貧困生活できますよ。

『未来改造のススメ』岡田斗司夫小飼弾
 どうやら電子出版の時代が本格的に到来しそうで、出版界の端くれとしてのオレも含めてみんな戦々恐々としているわけですが、そんな社会の変化に何かヒントにならなかと思って読んでみました。どうやらみんなこれから先、貧乏になっていくのは確実なようです。「100年前の金持ちより今の貧乏人の方がいい暮らしをしている」(岡田さん)との発言もあるように、それは受け入れて対応していくより仕方がないと思えるようになりました。
 これから仕事はどんどんなくなっていくのは確実なようで、これまでいくら田中康夫さんが主張してもとんでもないと思っていたベーシックインカムも、もしかしたらアリかなと思えるようになりました。そして岡田さんが提唱する評価経済社会というのも実はあんまりピンと来ないのですが、お金稼ぎがままならない以上そこを目指すより仕方がないと思いました。
 オレの仕事で具体的に言うと、原稿料がもらえるもらえないにかかわらず、原稿を描いて、なんならタダで発表しようという方針だと解釈しました。実際最近仕事がさっぱりないですから、遊んでいるわけにもいかず、何か原稿を描こうと思っていたところで、でも締め切りとかないとやる気を出すのがとても大変。そうは言っても映画作っている人に比べたらコストは自分の人件費くらいだし発表も楽だし、断然有利なんですよ。頑張ろう。ブログの更新ももっと頑張ろう。

SPA!黄金伝説』ツルシカズヒコ
 オレも夢中で読んだSPA!のツルシ編集長時代の舞台裏が、ツルシさんの回顧録という形で本になりました。何より気になっていたのは宅八郎さんと小林よしのりさんの雑誌内での対立で、小林さんが『ゴーマニズム宣言』の連載を辞めてしまい、宅さんも連載を終え、ツルシさんも退陣されてしまった事です。宅さんが小林さんに公開討論を迫り、小林さんは「あんなの相手にしていられない」と門前払いをして、宅さんは「誰の挑戦でも受けると言っておきながらなんだ」と怒っていたのが記憶に鮮明です。小林さんが、ドル箱連載のオレを守らないとはこんな雑誌でやってられないと辞めちゃったんですよね。それに対してツルシ編集長は、いろいろな立場や主張を載せるのが雑誌なのだと一貫していました。オレは小林さんのマンガも、ツルシさんの編集方針も好きだったので仲良くして欲しかったです。
 大ヒット連載である『ゴーマニズム宣言』を打ち切るなんて、さぞ苦しい決断だっただろうと思っていました。ところが、この本の中で、ツルシさんは小林さんの人間性や考え方がそもそも全然好きじゃなかったようで、批判されていたので魂消ました。
 今や出版不況と言われ、中でも特に雑誌が力を失っていく最中ですが、この88年から95年までという時代では、週刊誌一冊の製作コストが5千万円で、それが全部広告収入でまかなわれて、広告と販売合わせると年間50億円の売り上げがあったとのことでした。そんな時代にオレはまったく無名のマンガ家で一読者として居たわけですが、なんか四コマかカットの仕事でも営業に行ってればよかったなあ。