古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

マンガ家は自主映画を撮りたがっている

 この年の瀬の忙しい時期に上京していつもお世話になっている阿佐ヶ谷よるのひるねで、ショートムービーを作るイベントを開催しておりました。今回のイベントはオレが、にいがた映画塾でやっている実習コースというワークショップ的なものをほぼそのままのやり方で、参加者をマンガ家や歌人に声を掛けてやってみました。マンガ家3人(羽生生純さん、鈴木詩子、オレ)、歌人(枡野浩一さん)、よるひるの門田さんの5人でした。共通点はオレが新潟で撮ったショートムービーを見てくださっていた事で、どんな感じかなんとなくでも把握してくれているんじゃないかなということでお声を掛けました。

 そして今回のきっかけとなったのは、羽生生さんがオレの上映会の後で、サンヨーのXactiというオレが使っていたビデオカメラを購入したという一言でした。もしや、マンガ家はみんな映画を作りたがっているのではないかという仮説が前からあったんですが、かなり確信に近づきました。のちに、羽生生さんは実際に学生時代に自主映画を作っていたとのことだったので関係なかったかもしれません。でもそんな一流のマンガ家さんに影響を及ぼしたのかもしれないと思うと震えるほど嬉しかったんですよ。


 Xactiなんて、本格的に自主映画を作ろうという人は見向きもしないカメラです。お父さんが子供の成長や運動会を記録するためのムービーカメラなんですよ。値段も2〜3万で買えます。オレはいろいろあってムカついて、むしろこういうので面白い映像作品を作ってこそじゃないかとずっと長年活動しています。でも確かに音声などの録音に弱かったり不都合が実際にあります。なので長くても5分くらいのショートムービーがちょうどいいサイズで、そんなのを14〜5本作っていました。長くても1時間くらいで1本撮影します。

 今回のイベントでは3日間で2本撮影しました。みんな取り敢えず来てみたけど、何を撮ったらいいのか分からないと、そんな人が大半で、だったらそこからやっていきましょうと、オレが見本で『目回し相撲』という本当にくだらない3分弱くらいのを40分くらいで撮影して、大体どんな段取りか実際の撮影現場を体験していただくところから始めました。「今日はいいかな」なんて言っていた人にもオレがゴリ押す形で撮影してもらって、するとやっぱりみんなクリエイターだから、かなり面白いのを無理やりひねり出すんですよ。

 初日はそんな形の撮影実習と、3日目に撮る作品の撮影実習でした。宿題でその日撮ったものを編集していただきました。かなり無茶ですよね。でも1〜2分の動画は荒編集だけなら30分もあればできてしまうんですよ。

 2日目は初日の作品の合評会をしました。何しろ初めての人もいるし、その場で無理やりひねり出したような作品にケチをつけるのも酷な話ですが、とにかく撮影をちょっとでもやって編集を経る事が重要だとオレは考えています。それをやると次回から編集を想定して撮影することができるんですよ。映像や編集で嘘がつけることが身をもって体験できます。それで、こうするともっといいですよねというような話をみんなで共有します。そして3日目の撮影企画のディスカッションや段取りを決めたりしました。

 3日目は初日から考えていた作品の撮影実習です。新潟では2〜3人ずつの班に分かれてお互い協力しながら一日で全員の作品を撮影したり、2日に分けて撮影したりしていたんですけど、今回は1つの班で5本撮ったので滅茶苦茶たいへんでした。オレが一番最初に撮って、羽生生さんのが最後になってなんだかヘロヘロの状態で本当に申し訳なかったです。室内だったからお日様に左右されないからと後にしてしまいました。すみません。でも河井克夫さんが突然現れて出演してくださったりで、いい事もありました。お互いがお互いの作品に出演しているのでみんな出演者がまる被りなんですよ。

 それで無事撮影は終わって、1月の末には上映会をしたいなと計画しております。ぜひ見に来てください!トークショーつきです。

 新潟で一般のみなさんとやっても相当面白いんだけど、今回は作品内容が当たり前だけど格段に面白く、ディスカッションのレスポンスも素晴らしく背中が震えました。限りなく無に近いところから有を生み出すような創作の喜びを目一杯味わっている感覚がありました。家で一人でマンガを描いても絶対に味わえない共同作業の喜びでもあったんですよ。他の売れっ子のマンガ家さんはスタッフがいるから違うのかな。

 マンガ家はみんな自主映画をつくりたがっているという仮説を前から立てていたんだけど、そうなんじゃないかと思いました。2日目はたまたま一緒に昼食を採っていた地下沢中也さんを誘ったら最後まで見学していて、3日目は一緒に食事していた石川キンテツさんを誘ったら最後までつきあってくださって雑用やチョイ役の出演までしていただきました。後から見に来た河井克夫さんも最後までいて出演してくださっていたし、みんな楽しそうにしていてくれていたような気がする。マンガ家だけじゃなくてライターも自主映画を作りたがっているかもしれない。

 役者さんは『青春★金属バット』に出演してくださっていた井上亮平さんが1日目、3日目は劇団情熱天使の荒巻まりのさんにお願いしました。当日にならないと分からない役にもかかわらず大変熱心に演じてくださって、演技力だけでなく対応力も素晴らしかったです。またお願いしたい!次回はもっと謝礼をお払いしたいです。今回は安くて済みませんでした!

 今回はあんまり人が多いと大変だと思ったのもあって内々で声を掛けたのですが、次回は10人くらいで開催できたらいいなと思います。盛り上がりそうな気がするんですよね。