古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

自主規制社会

 どうにも面白くないんですよ。そりゃあモンスターハンターやったり映画みたりすれば面白いですが、例えば先日もお伝えしたように、テレビつけるじゃないですか、すると通行人の顔にボカシが掛かっていて得体の知れない人物として見させられるんですよ。表情も分からない。怒っていても悲しんでいても笑っていても分からない。多分無表情だと思います。画面の真ん中に立っている芸能人の顔しか分からないんですよ。景色全体にモザイクが掛かっているなんてこともありますよ。オレはそういうの見るとムカムカするのですぐ消すなりチャンネルを換えるなりパソコンをつけるなりします。そのまま寝るなんてこともあります。

 これが一体何かと言えばその正体は自主規制というものなんですよ。

 別に被害というわけでもないですがオレも自主規制の影響を受けることがあります。マンガ表現で、高校生がセックスをしている場面は絵として露骨なのはダメとか、イスラムの文化やテロリストを刺激するようなのはダメとか、大手出版社では顕著にあります。被害といえないくらいの問題だからこそ自主規制であり、だからこそなんとなくで曖昧な線引きが行われて自主的に規制してしまうんですよ。それが更なる自主規制を呼んであんなみっともないテレビ画面みたいになってるんじゃないですか! 

 そんな自主規制が蔓延しているせいで景気もことさらに悪くしているとオレは断言します。そんな腰の引けた、びっくりしたアメリカザリガニみたいな表現に金なんか誰が払うかよ!

 もはや国民総自主規制みたいな社会になってやしませんか? 一体人はなぜ自主規制してしまうのか、自主規制のせいでどんな弊害があるのか、どうすればこの息苦しい自主規制社会を打破できるのか、知恵をできるだけ絞って考えてみたいと思います。

 そうは言ってもオレが考えた程度では高が知れているので、テーマとして面白かったら賢い人にインタビューして書籍展開してみたいです。新書にするといいと思うんですが、オレよりはるかに相応しい人がいるに決まっているので、原案を差し上げますのでアイディア料ください! オレは、封印作品をたくさん調べていらっしゃる安藤健二さんに書いていただくのがいいと思います。あと著作権とかに詳しい人など。

 「いや〜それちょっと権利的にまずくないっスか〜」なんてニヤニヤしながら人が面白いことやろうとしていることにブレーキをかけたがる輩が非常に多くないですか? なんだよ権利的ってよ、お前はJASRACの回し者か。JASRACの著作権捜査官みたいなスーツの男が現れて後ろ手に手錠をかけられて逮捕されちゃうとでも思っているのかよ。ネットでも「通報しました」なんて嫌味もとても目にします。そういう空気が非常に重たいんです。

 マンガでちょっとくらい似た感じで絵を描いてもなんにも問題ありません。勝手に雑誌名や作品名、単行本の表紙などをマンガの背景や小物に描いても怒られないどころかむしろ喜ばれたことしかありません!

 いつからか映画でも実在のマンガ雑誌などが登場しなくなって、実在のマンガ雑誌に似せた架空のマンガ雑誌が扱われるようになりました。なんですか?どこかで誰か怒られたりお金を請求されたりした事件でもあったんですか? もしそういった事例がなかったらこれは完全な自主規制ですよ!

 音楽はけっこうそこがしっかり管理されているので、マンガでも歌詞を描いたらいくらいくらとJASRACに使用料を支払います。でも払えばいいんですよ。何も後ろめたいことはありません。しかしそこから先は別問題で、実際にオレが描いたマンガで発生したお金が作詞家に行くのかと言えば実にグレイで、行ってない可能性がずいぶん指摘されております。

 自主規制をしなければいけない空気を発生させていて誰が得をしているかと言えばそんな管理団体だったりもするんですよ。もしくは官僚とか、国民が勝手に自主規制してくれるもんだから一方でやりたい放題している連中がいる、ふざけるな!

 民主党に政権交代したのでJASRACにもメスが入ると非常に期待しておりました。ところがな〜んにもそんなの一切ないわけです。がっかりしますよ。

 AVは性器にモザイクが掛かります。本当はAV業者はモザイクなんて掛けたくないんですよ。編集する人も面倒だし手間が掛かってその分コストも上がります。そうやってモザイク処理をしないと警察に逮捕されてしまうからです。見る人は、むしろ想像がかき立てられていいなんて人もいます。オレはネットでよく無修正動画を見るのですが、性器が映る場面にいく前に射精してしまうことがよくあります。それはそれでいいのですが、テレビのバラエティでの通行人のボカシや景色全体のモザイクは別に逮捕されるわけでもなんでもないのにやっているこの不思議! だったらもうスタジオで全部やってりゃいいだろ。昔はまるまる流されていたんですよ。

 話は変わりますが、日本人はそもそも遠慮深く、赤信号で自動車の往来が全くなくてもしっかり青になるのを待っているなんて人多いんじゃないでしょうか。東北地震の際にも混乱がないことが世界中から高く評価されていました。しかしその反面、瞬発力のなさも指摘すべきだと思います。津波から自動車で逃げる際にも渋滞で片側交互通行を守って右側を逆走することもなく、波にさらわれてしまった人が数多くいたのではないかと推測します。避難所でも保健所の指導だか決まりがあって、炊き出しで煮物とか作るのは衛生的に許可されないのを守って、お湯を沸かすことしかできず、カップラーメンしか食べられなかったという話もありました。こんな時に守る決まりってなんだよ、指導する方も指導する方だし、守るほうも人が好すぎでしょう。栄養不足の方がよっぽど問題じゃないか。何が人にとって利益なのか順番を考えた方がいいですよ。

 この自主規制ムードがどんどん規制側を喜ばせてもいるんですよ。何度も書いているかもしれないですが、オレが大学生くらいまで原付バイクはノーヘルで乗っても怒られなかったんですよ。自動車のシートベルトも決まりじゃなかった。それがヘルメット被る決まりになって、シートベルトも閉めなくてはならなくなり、最近では後部座席もベルトしろとか言い出しているんですよ。実際事故で死んだり怪我するのも困りますが、やろうがやるまいが勝手に決める事もできないんですよ。

 自主規制社会はオレは全然歓迎しておりません。このままどんどん進むと密告管理社会みたいになります。ちょっとそんな感じになって来ています。顕著な例では喫煙の問題です。オレはタバコは吸わないですが、喫煙者はとても気の毒な状況です。喫煙=犯罪みたいな雰囲気ですよ。喫煙は違法行為でもなんでもないんです。あと、バイクも相当気の毒な感じですよね。路上駐輪がほぼアウトなのでバイクに乗るメリットなんて全然ないですよ。

 こういった自主規制社会を打破するにはどうすればいいのか考えているんですが、まあ、グレーの部分は自粛せずに積極的にやりましょう。DVDのコピーだって別に個人で楽しむ分には何にも違法でもなんでもないんです。「金がないからやっております」と堂々と言えばいいんですよ。売るのはダメです。オレはコピーなんてしないですよ。WOWOWで録って見ているんです。見た先から消していきます。そして、「非実在青少年問題」みたいなふざけた決まりにも大声で胃を唱えましょう。音楽だって別に商売じゃなかったら勝手にどんどん使ってみたらいいんじゃないでしょうか。ネットで何か動画作ってそれにくっつけて流すとかして、それで怒られてみてもいいと思います。作家が嫌がっていたらやめたらいいじゃないですか。今ならすぐにコメントや何かで連絡できるんですよ。「権利的にまずくないっスか?」みたいな連中には、「お前は誰に成り代わって言ってんだ!うるせえバカ!」と文句を言いましょう。アメリカのいいところを見習って、魂の自由を尊重し合う社会にしたいものです!