古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

圧巻!!!『半島を出よ』面白い!!!

 村上龍先生の『半島を出よ』を読み終わりました。この本は出た当時から時間が出来次第読もうと心に決めていて、やっと読むことができました。上下巻で900ページ以上あり、オレは本を読むのが極めて遅いですからね、測って見たら1ページ2分掛かってました。ざっと計算すると1800分30時間掛かりました。期間は2週間くらいでした。でもそれでも充分過ぎるほどに面白くて、読み終わった今、うっすら虚脱状態であります。

 ここから先は遠慮なくネタバレで作文していきますので、未読の人は絶対に読まないで下さい!!

 構成が面倒なので、感想を思いつくまま羅列します。

 『半島を出よ』は、これまた抜群に面白かった『昭和歌謡大全集』の続編に位置づけられた作品だったのでした。各章ごとにいろいろなグループからの誰かに視点が移り、主人公は章ごとに異なる構成でした。主役グループであるイシハラは、その『昭和歌謡大全集』で調布を壊滅させた人で、オレの中のイメージが窪塚洋介に固定されて、ちょっと嫌だった。

 『昭和歌謡大全集』もとにかく最高なのですが、オレは忘れっぽいですから、あんまり覚えてない。あんまり関係ないかもしれないけど、こっちを読んでからの方が気にならなくていいかもしれないですね。

 福岡を北朝鮮が送り込んだテロリストが占拠して、日本政府は全くの腰抜けで、九州を閉鎖する。福岡の人たちは支配されてしまうのだが、どうにかその現実を受け入れて、生活を営んでいく。福岡のはずれに住む、イシハラのグループは世間になじめないはぐれ者集団で、武器を密輸して溜め込んでいたり、爆弾製造のプロ級の人がいたりで、彼らが北朝鮮テロリストに立ち向かうというドラマでした。

 村上先生は、以前の作品は、価値観を強烈に提示して、それ以外を完全に否定するという文章が見られて、そこが気持ちよかったり、受け入れがたかったりしたのだが、この小説では、いろいろな側面から評価するようになっていて、大人の表現になっていた。

 はぐれ者集団のイシハラ達は、あいさつをろくに交わさないことが美徳のように描かれているが、オレはそれがどうにも馴染めない。だって、挨拶して返してもらえないと損した気分になるじゃないですか。オレは古臭いのかな。

 出版が去年の3月で、当時はまだ北朝鮮が核実験を行っておらず、日本経済も回復してなかったのだろうか。この小説の世界の2011年は、日本がとことんまで失墜していて世界中に軽蔑されている。しかし北朝鮮は核実験のせいで、世界からますます孤立して、日本は経済が回復傾向にあり、小説ほどひどい状況にはならなそうである。オレは北朝鮮の崩壊が人生の大きな楽しみの一つだ。リアルタイムの人生で、隣国が崩壊するなんてダイナミックな現実を身近に体験できるなんてすごいことだ。今から楽しみで仕方が無い。核実験をもっとやって武力制裁を加えた方がいいのではないだろうか。ソフトランディングもいいけどちょっとガッカリだ。もし崩壊したらなるべく早めに絶対に見学に行こう。でも北朝鮮兵士は怖そうだ。

 この長い小説には、政府の会議などで、やたらと何人も役人の名前と肩書きがずら〜っと出てくる場面があり、他のグループにも同じような場面がある。ページの半分以上それで埋まってしまうこともある。全然把握できない。風景描写も長大で、オレには退屈でイメージもあまり湧かない。そういうのも把握して理解した上で読めたらもっと面白いのだろうか。

 あとがきで、村上先生は、このスケールのでかい物語が手におえるのだろうかと不安を抱きながらとにかく書き進めたとあった。なんと立派な男らしい仕事だろう。それに比べてオレはというと、なるべく背伸びを極力しない方向で、そこにオリジナリティを見出そうと、スケールを縮めるように努力している。かわぐちかいじ先生といい村上先生といい、なんてかっこいい仕事をするのだ。オレは情けないな〜。ちょっとでも手に負えないと苦しくなってしまう。オレのマンガには夢やロマンがないのはそれが大きな原因だ。

 とにかく、こんな凄まじい小説が読めて幸せでした。こんな凄い作品を書いて村上先生が死んでしまわないか心配だ。