古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

7月と8月に読んだ本

 8月から読み始めた吉田豪さんの格闘技関係の書評本が500ページもあって、1か月以上かかってまだ200ページくらいしか読んでない。仕事場で休憩中にちょっとずつ読んでいるせいなのだけど、それにしても読むのが遅すぎて困っております。9月中には絶対に読み終わりたい。まだまだ途中で、15年くらい前の書評で当時はまだ総合格闘技に元気があった時代で、フジテレビの中継がなくなったことから衰退が始まっていく感じのところを読んでます。そんな折、石井慧が総合デビューして確かにあの時はすごく期待して盛り上がったなあなどと感慨深い気持ちになります。

 

 『なにわ友あれ』を全巻通して読んで、あまりの面白さに腰が抜けそうになって続けて『ザ・ファブル』の続きを最終巻まで読んだらさらに高みに上り詰めていて南勝久先生は本当にとんでもない。おそらく年齢はオレとそれほど変わりなくて同じ時代で同じ文化に触れて生きてきたはずなのに、あまりに凄すぎて気持ち的に土下座。素晴らしかったです。

 

 8月10日から6才の子どもと一緒にポケモンGOを始めて、生活が大きく変わりました。朝夕に子どもと近所を歩き回って、日曜日は2時間くらいスマホのバッテリーが切れるまで5キロくらい町から田んぼの間を抜けてぐるぐると歩き回っています。6才児が炎天下をそんなに歩いて具合悪くならないか心配ですがとても元気。バッテリーが切れてくれて助かります。

 

 今年も子どもとハゼ釣りに行ってそこそこハゼを釣って、翌日は一人で堤防に行って、カマスをジグサビキで大量に釣ることができました。この時期はアオリイカも釣れているのだけど、1回も釣れたことがない。これから先、秋の暮れに青物を釣ることができたらいいな。何しろ昼間は暑すぎるので夕方か早朝に行かなければならないのだけど、夕方はポケモンGOをしなければならず、朝から釣りに行くとその日の仕事ができない。そういうわけであまり釣りには行けてない。

 

 マラソンを目標にしていたのだけどコロナで全面的にリモート開催などになっており、ランニングのモチベーションがあがりません。しかもポケモンGOをやりながら10キロ走ると3時間も掛かって、その間ずっとスマホを片手に深夜の住宅街などを徘徊し続けていて、不審なこと極まりないのです。3時間も外をうろついていると疲れてその日も翌日も疲れて何もやる気が起こらなくなってしまうため、もうやめようと思いました。

 

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6月に読んだ本

 コロナが再び盛り上がって来てネットニュースとテレ朝の『モーニングショー』をチェックはしているけど前回ほどの夢中さではなくて、その分映画をまた見るようになった。ずっとマスクを2枚でやりくりしていたのだけど、とうとう3枚目を使うようになった。保育園と映画館が止まらなければ別にいいです。

 

 6月は中4日ペースで10キロ走をしていて、2月に20日くらい休んでぐっと体力が落ちていたのがようやく戻ってきた感じがして、坂道ダッシュもできるようになった。一時期は1キロ走るごとに座って休んでいて、全然大したペースでないのに、ばててつらかった。今は10キロ走って4キロ地点で毎回トイレに行って、7.5キロでコンビニで休んで10キロ地点で座ってストレッチをしておまけで1キロ走ります。休まなかったらどれくらい走れるのだろう。すっかりマラソン大会もなくなって、モチベーションが全然上がらない。その上雨の日が増えて、中3日だと億劫で走る気がしないなんて思っているとその後何日も雨で中6日になってしまうなど、だらけてしまう。その割に体力が落ちなかったから続けていた成果なのでしょうか。

 

  6月はなんと言っても『女帝 小池百合子』で都民でもなんでもないのだけど、都知事選挙に向けて小池百合子が落選するように祈らずにはいられなくなる。しかしこの本がベストセラーになっているにもかかわらずあっさりと再選されてしまったため、本など読んでも選挙への影響なんて全然ないことが分かって無力感でいっぱいだ。これから先もコロナ対策はなんにもやる気がないどころか、むしろテレビに出るチャンスが増えて大喜びでヘンテコなキャッチフレーズを連発するだろうと予想する。本としては滅茶苦茶面白いし、平成の政治史の勉強にもなる。強烈に小池都知事を批判していて心配になるほどなのだけど、名誉棄損などで訴えられていないので、おそらく嘘は書かれていないのだろう。そもそも小池百合子の嘘を指摘しており、裁判になったら嘘をついていたことの逆に証明になる可能性が高くてどうにもできないのだろう。

 

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5月に読んだ本

 5月もコロナのネットニュースをずっとスマホで読んでいてさっぱり読書をしなかったし映画も見なかった。釣りにもいかず、ランニングもさっぱりしないで、家と仕事場の往復ばっかりで、スマホばっかり見ていた。そうしていると社会問題に関心が深くなり、安倍政権にどんどんむかっ腹が立ってきて、はやく交代してほしいのだけど、検事長の定年が延長されなかったせいで、むしろ退陣できなくなってしまったのではないか。現政権批判をする人は批判ばかりで代わりに誰も推さないから虚しいなどと、批判者が批判されているのを目にする。しかし、民主党から自民党に戻った時は安倍晋三も謙虚で真面目に見えていたので、交代することがとても重要で誰でもいいから政権交代はした方がいいと思う。俺はこの前の選挙では山本太郎さんを応援したし、その前は立憲民主党に投票した。最悪の場合あと1年半も安倍政権が続くと思うとほんとうにつらい。支持率がちょっとずつ下がっていくのだけが楽しみで、人の不幸を願っているようで気分が晴れない。

 

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  ファミレス映画館特別編で北書店の佐藤店長と『傷だらけの天使』を見て話す企画が最後までいきました。お話の出来があまりよくなくて毎回もやもやするのだけど、ショーケンの魅力がすごかった。

4月に読んだ本

 2月の終わりにちょっと風邪気味だけど、むしろ運動をした方がいいというような理屈を信じてランニングしたら見事に悪化したので、それからちょっとでも体調が悪い時は積極的に休むことにしたら2週間もランニングを休んだ。すると、すっかり体力が落ちて10キロ走ろうとしたら後半は1キロごとに休憩しないといけなかった。その後もちょっと咳が出ていたので休んでまた1週間経って、ヘロヘロで体力が全く戻らない。申し込んでいたマラソン大会が全部中止になって、むしろ助かった。

 

 作業を、ネームやテキストはマクドナルドやイオンのフードコートでしていたのだけど、すっかりそんな場所に立ち寄れず、閉鎖もされているため、仕事場として借りているアパートと自宅の往復だけになった。すると、だらだらとネットニュースを見てしまい能率が下がる一方で、マクドナルドなら2時間もいればいい加減でなければならないと思って作業に取り掛かるのにそれがない。本来1日で終わる作業を2~3日掛けてしまうこともしばしばで、生産が落ちている。とってもよくない。

 

 ちょうど谷間の時期で、読み始めても4月中に読み終わることができず5月の頭に持ち越すなどしてその結果3冊しか読んでない。カミノゲ以外は本と雑談ラジオの課題本だけ。しかし持ち越したと言っても3冊なので、大した冊数ではなく、読書離れともいえる状況だ。それと言うのも特に小説は上京の際に新幹線で読むことが多かったので、コロナで上京をしておらず機会を減らしている。それでその空いた時間に何をしているのかというと、ネットでコロナのニュースを閲覧したり、ニュースを録画してまで見まくっている。この状況はまるで映画や小説のようなので、リアルタイムで味わっておこうと思ったのだけどいい加減飽きてきた。映画もさっぱり見ていない。映画館もやっていないのでしかたがない。

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 毎年GWにはサゴシやイナダをメタルジグで釣っていたのだけど、今年はとうとう釣ることができなかった。先日ジャリメをチョイ投げでキスが1匹釣れてアパートで焼いて昼食で食べた。まだそれだけだ。

3月に読んだ本

 確定申告の作業などがあったため、仕事はノルマ以上のことが何もできませんでした。できればnoteで有料公開している『漫画うちの子になりなよ』を2回描きたいのだけど、1回しか描けませんでした。

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 漫画教室が中止になって、上京がなくなった分余裕ができているはずなのに、コロナのニュースを夢中で読んでしまって全然余裕がありません。毎晩1本ずつ録画した映画を見ているのをやめてまでコロナのニュースをスマホで読んでおり、こんなにもスマホ依存になってしまったのはスマホを持って以来初めてだ。特にテレビ朝日の『モーニングショー』は以前から玉川さんの「そもそも総研」というコーナーのファンでもあり、岡田晴恵教授がすばらしくてさらに夢中です。

 

 アメリカやフランスの映画を見るとやたらとハグする文化なので、感染が広まるのはどうしようもなくて、それに比べると日本はいくらか距離を置く習慣があるので、アメリカやヨーロッパほどは深刻な事態にはならないと思います。

 

 ただ、自民党厚労省安倍晋三を思うと悲惨な気持ちになる。特に隠蔽と改ざんの名人が総理大臣の時期にこんな重大事が起こって困る。先日『FUKUSHIMA50』を見たら、当時のことを思い出し、散々批判されていた菅直人は間抜けに描かれていたけど誠実でした。民主党政権の時代が悪夢だとしたら今は地獄。

 

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 本は特に小説がとても面白いのばっかりで、たいへん充実してました。宮部みゆき著『火車』は本当は『模倣犯』が読みたかったのだけど、あまりに分厚くてもし合わなかったら非常に困難な読書になると思って他に評判のいいのを読んだらすっごく面白かった。他に有吉佐和子著『悪女について』もめちゃくちゃ面白くて、同時並行で読んでいたのだけど、どちらも主人公が不在のまま関係者の証言で存在が浮き彫りになる構成だったのが驚きでした。

 

 サゴシが例年だとGWの直前くらいに1~2週間だけ大漁に釣れていたのが、今年は3月から東港の管理釣り場で爆釣していて、行ってみると満員で入れない。いつも行く漁港で釣ろうとしたのだけど何回か行ってもまったく気配すらなく空振りです。

2月に読んだ本

 コロナウィルスのせいで3月に予定していた新潟ハーフマラソンが中止となって、去年の秋以来、連続中止。4月の佐渡朱鷺マラソンも中止だったら3連続で、さっさと中止を決定してお金を返してほしい。怖くて締め切りギリギリまで申し込みができない。とはいえ、コロナではないと思うのだけど、子どもの咳を顔面に浴びたり、咳を直で吸い込んだりしていたらうつってしまって、2週間近くランニングができなくかった。咳が出始めた直後に走ったら、すっごく悪化して本当にバカだったと後悔した。熱がなかったら運動をした方がむしろいいみたいな話を何かで読んだか聞いたかして実践したら悪化した。それで、中13日で走りに行ったら相当落ちているんだろうなと思ったら休む前と大差なく、そもそも心配するほど大して速くもなかった。シリアスランナー気取りだったことが恥ずかしい。

 

 宮城県塩釜市で島田虎之助さんと作品展とトークイベントがありました。それに際して大評判の『ロボサピエンス前史』を読んだ。素晴らしい作品で、オレなんか漫画家として完全に終わりに向かっているつもりだったのだけど、島田さんはずっと年上なのにピークを更新し続けていることに衝撃を受け、襟を正さねばならないと思いました。塩釜の皆さんも素晴らしい人たちで、町も素敵でした。

 

 帰りに山形に寄って佐藤広一監督を食事に誘うと、おいしいおそばをごちそうになってしまう。ずっと年下の人におごってもらって、その上お母さんが自作していた熟成黒にんにくもいただいた。熟成黒にんにくは市場では一玉700円くらいもするのに3玉もいただいて、作り方も教わった。炊飯器の保温機能で簡単に作れるそうで、やってみることにした。炊飯器を中古で買おうとしたらオフハウスなどでは4~5千円するちゃんとしたいいのしかなくて、ヤフオクやメルカリで探すと500円くらいのがあるにはあるのだけど、送料が千円以上掛かる。本体より高いことに非常に抵抗を感じて、結局3800円くらいの新品を買った。にんにくのにおいがきついので、ご飯を炊けなくなるらしいので、そんな用途に新品を使うことにも心苦しいのだけど、7玉くらい作れば元は取れるので、大量生産して人にあげたりして有効活用したいと思って作り始めた。すると、物干しでやっているのだけどけっこうな匂いが出て家族に嫌がられている。完成まで10日から2週間、保温し続けなくてならなくて、物干しはサッシの窓があって、密閉状態で、ちょっと開けて換気をしているのだけど追いつかない匂いが出ている。雨が降ったら締めなければならない。庭に何か雨風をしのげる百葉箱みたいな設備を用意しなければならないかもしれない。サイズで言えばちょっと大きめの鳥の巣箱みたいな、そういうやつ。でもまあ、完成が楽しみでしかたがない。

 

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『となりのトトロ』草壁さんの憂鬱②

 (続きです)

 

 引越しの日の夜、家族3人でお風呂に入っていると、お風呂場のトタン屋根が吹き飛ばされそうなほどの強風が吹き荒れます。さつきちゃんは、怯えた表情で体を洗っている石鹸を洗い流しきらないまま、めいとお父さんが入っている湯船に入ります。「めいは怖くないもん」とめいちゃんは強がりを言います。

 「わーっはっはっはっはっはっはっ」

 お父さんは急にと高笑いをします。二人の子どもは呆気にとられます。

 「みんな笑ってごらん、おっかないのが逃げちゃうから、はっはっはっはっはっはっ」

 さつきちゃんはそれに従って「わっはっはっはっは」と笑いますが、めいちゃんは「めいは怖くないもん」とつきあいません。すると、さつきちゃんがめいちゃんを無理やり笑わすために体をくすぐります。

 「がう~」

 お父さんはゴリラのように胸板を叩き、湯船の水面を両手で強く叩いてお湯があふれ出します。そうして3人でお湯を掛け合って楽しい雰囲気になりました。

 この時もお父さんは、おんぼろ屋敷で子どもがおびえないように必死で脳を働かせて導き出したのがこの行動だったのではないでしょうか。

 

 また、おばあさんとの会話では、引越しが急遽決まったため、おばあさんが事前に掃除ができなかったことが分かります。後にめいちゃんがトトロと出会った後、さつきちゃんとお父さんとめいちゃんで、裏の神社に生えている大きな楠木を見に行く場面があります。

 「立派な木だなあ。きっとずっとずっと昔からここに立っていたんだね。むかーし、むかしはは木と人は仲良しだったんだよ。お父さんはこの木を見てとってもあのうちが気に入ったんだ」

 草壁さんは感慨もひとしおというように、巨大な楠木を見上げながら雰囲気たっぷりに語ります。この木があったらからあの家に引越しをしたと言うわけです。本当でしょうか。なんとなく最後の「お父さんはこの木を見てとってもあのうちが気に入ったんだ」が、とってつけたような感じがしないでもないです。

 

 草壁さんとさつきちゃん、めいちゃんが自転車3人乗りで、七国山の病院を訪ねる場面があります。途中道を間違えてしまい休憩でお父さんは昼寝をして、山は自転車を押して二人の子どもは歩く、そんな苦労が楽しげな音楽とともに描かれます。病院ではお母さんが入院しています。ぱっと見元気そうなお母さんは、子どもたちに新生活はどうかと聞きます。さつきちゃんはお母さんに耳打ちをします。

 「え!おばけ屋敷?」

 お母さんがそう言うと

 「お母さん、おばけ屋敷好き?」

 めいちゃんが聞きます。

 「もちろん、早く退院しておばけに会いたいわ」

 そう答えると、さつきちゃんとめいちゃんは、お母さんがおばけを嫌いでなくてよかったと安心します。当初、あのご主人と価値観を共有している、すごい夫婦だなと思いました。しかし本当にそうでしょうか。何度も見ていると疑問が湧きます。そんな夫婦いるか? 親がおばけを怖がると子どもは余計に怖がるだろうから、事前に夫婦間で口裏を合わせていたと見るのが自然です。

 

 草壁さんは二人の子どもが家を怖がらないように必死に明るい雰囲気にしようと取り繕っていたのです。二人の子どもが素直ないい子であったため、作戦はまんまと成功しました。大家さんの孫のかんたくんが引越し当日「おまえんち、おっばけやーしきー!」と言った時も相当肝を冷やしていたはずです。幸い、さつきちゃんはおばけの存在を気にするより、男の子に意地悪を言われたことに注目したため事なきを得ます。

 

 クライマックスで、めいちゃんが行方不明になります。お母さんが入院している七国山病院に一人で行こうとして迷子になったのです。

 「大人の足でも3時間掛かるわ」

 大家のおばあちゃんがそういいます。大人の足で3時間なら、大体15キロくらいでしょうか。なんとなく、僕が以前新宿から中野まで歩いた時50分掛かって確か5キロくらいでした。その距離を、草壁さん親子は自転車3人乗りで往復していました。

 気になるのが、お父さんが大学への通勤で使っているバスが七国山行きだったのです。七国山のバス停が七国山病院から最寄であるとは限らないのですが、それほど遠いわけではないとも思います。自宅のあるマツゴウから七国山にバスが通っているのに、3人で自転車で往復した理由は楽しい冒険ではなく、草壁さんの経済事情が問題だったのではないでしょうか。めいちゃん幼児でバス料金は無料ですが、さつきちゃんの子ども料金の往復がどうしても痛い。おそらく給料日直前で、その数百円が明暗を分けるほどの死活問題だったのかもしれません。

 

 つまり、お化け屋敷と大家の孫に言われるほどのボロ屋に住んだのは、決して立派な楠木が生えているからではなく、その地域最安値物件だったことが理由ではないでしょうか。大学で考古学の研究をしていても大した賃金は発生しないでしょう趣味に毛が生えた程度の商いというと悪く言い過ぎかもしれませんが、その上奥さんが病気で長期の入院生活、医療費もベッド代もかさみ家計は火の車。奥さんも奥さんで、自分も働いて旦那さんの趣味のような仕事を支えて家計を助けたいのに、逆に経済を圧迫する立場となりせめて子どもを怖がらせないように必死でおばけ好きをアピールしたわけです。経済が許せばもっと病院の近くの町の物件を借りたかったはずです

 

 そして変なのが、ラストシーンで病室で語り合う草壁夫婦です。その様子をネコバスに乗ったさつきちゃんとめいちゃんが木の上から眺めています。ふと、病室の窓辺にトウモロコシが置かれていることに夫婦が気づきます

 「あ、今そこの松の木でさつきとめいが笑ったように見えたの」

 お母さんが木を見上げて言います。お父さんも松を見上げるけど何も見えません。しかし、「案外そうかもしれないよ」と言って手にしたトウモロコシをお母さんに差し出すとそこには「おかあさんへ」とトウモロコシの皮に傷をつけてひらがなで書かれているのです。このような怪現象が起こっているのに不思議に思わず受け入れている様子でした。子どもが現実と異世界を行き来していることの痕跡に触れて恐ろしくはないのでしょうか。

 

 うちの5歳の男の子、うーちゃんは「こわい話だよね」と言います。何をもってして怖いと言っているのかは分からないのですが、確かに幼児が迷子になるのは怖いし、異世界に触れるのも怖いです。

 

  

 こんなことをついグダグダと考えてながら今日も見ています。そろそろ『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタに移行して欲しい、でもあまりにエキサイティングだと眠れなくなってしまいます。でも本当に見飽きているのでせめて『魔女の宅急便』が久しぶりに見たいです。

『となりのトトロ』草壁さんの憂鬱①

 「とっとろがいい、とっとろがいいよ~」

 『となりのトトロ』をうちの2歳の女の子が毎晩見たがります。毎晩ではなく、朝も昼も四六時中見たがっているのですが、そんなにテレビばかり見せるのはよくないので夜だけ、ご飯と食事が終わってから見せています。時々ご飯の前にも見せるのですが、とにかくほぼ毎日ヘビーローテーションで『となりのトトロが掛かりつづけています。ぽんこちゃんも惰性になっているのか、テレビに映ってもさっぱり見ません。要求するだけして、テレビを見ずに財布をあさったり、寝転がってベッドのマットレスとシーツの間に足を突っ込んだりします。それだけならまだしも、『となりのトトロをテレビにブルーレイで映しながら、絵本の『となりのトトロを持ってきて「よんで」と要求します。映画のトトロと同じ場面のページを読んであげると、決してそれが目的ではなかったようで自分でぱらぱらとページをめくって「めいちゃん、いい」と言います。めいちゃんは4歳なので、自分と年が近くて親しみがあるみたいです。ところが、時にはさつきちゃんを指差しながら「めいちゃんいい」と言うのでどこまで分かっているのか不明です。

 

 そんな調子で、今5歳のうーちゃんが赤ん坊だった時に続いて2目の『となりのトトロヘビーローテーション期が訪れていて、とにかく毎日見ています。日本一見ている漫画家ではないでしょうか。今回は映画と同時に絵本まで見ているという異常事態。

 

 だからというわけではないですが、はじめて見た大学1年の時にはまったく気づかなかったことに気づいたり、受け止め方が変わって来ています。しょうもないところで言えば、こんなことです。さつきちゃんがクライマックスでトトロを訪ねて茂みに入っていく時に足を木の根っこに引っ掛けて穴に飛び込んでいきます。さつきちゃんはまっさかさまに穴に落ちていくと昼寝をしているトトロのお腹に乗っかる形で、トランポリンのように弾んで怪我ひとつなく助かります。しかし、メイちゃんが同じ穴を落ちた時は地面に落ちて、トトロは同じ場所に寝ていたはずなので、場所が食い違っています。また、さつきちゃんがネコバスに乗るとネコバスの行き先の表示がくるくると変わって「めい」と出ます。しかし、どう考えてもさつきちゃんがもっと窓から顔を突き出さないと、角度的にその表示は見えません。けっこう適当な表現です。

 

 ここ最近、気になっていることは、さつきちゃんとめいちゃんのお父さん、草壁さんについてです。

 

 めいちゃんは4歳、さつきちゃんは10歳という設定だったと思います。考えを巡らせているのが楽しいので、ウィキペディアなどで調べれば済むのですがそれでは面白くないのでうろ覚えのまま考えを進めます。公開当時宮崎監督がインタビューで言っていたのか、パンフレットで読んだのか、舞台は昭和30年代の東京の外れだったような気がします。草壁さんは大学で考古学の先生なのか、研究をしています。10歳の子どもがいれば、終戦当時二十歳を超えていて、従軍していた可能性もあります。さつきちゃんは戦後のベビーブームの子であるかもしれません。大学の先生にしては後姿が逆三角形で、めいちゃんとさつきちゃんと一緒にお風呂に入ったときの大胸筋や腕のたくましさは、軍隊仕込であったのかと思いました。大学の先生か研究者といった生白さは全然ありません。しかし、従軍経験によるPTSDのような感じは描かれていないので、それほど過酷な戦場ではなかったのかもしれません。だからどうだということでもないのですが。

 

 それより気になるのは草壁さんの「僕はお化け屋敷に住んでみたかったんだ」という引越しの時の発言です。最初に見た時は、5歳のうーちゃんと一緒に見ているときは特になんとも思わず、そんなふうに考える人もいるんだ、変わってるし大学の先生ともなると考え方がユニークで、好奇心が強いくらいに思いました。しかし、それは本心でしょうか? どうにも引っかかります。

 

 映画の冒頭、さつきちゃんとめいちゃんは引越し作業そっちのけで、引越し先の建物や広い庭にテンションが上がっています。勝手口の扉を開けた途端、真っ黒な丸いマリモのような物体がさーっと引いていきます。一瞬の出来事です。

 「おとうさん、ここに何かいるよ」

 さつきちゃんは、草壁さんに訴えます。 

 「これは、まっくろくろすけだな」

 「絵本に出ていた?」

 「そうさ、こんな日にお化けなんかでるわけないよ」

 草壁さんは、明るい場所から暗い場所に行くと目の錯覚でそのような現象が起こるのだと科学的に説明します。

 

 何度も見ているとここで気になるのは、リスでもなく「ゴキブリでもない、ネズミでもない黒いのがいっぱいいたの」というさつきちゃんの説明に対して、草壁さんは「そうさ、こんな日にお化けなんかでるわけないよ」と、お化けについて言及することです。さつきちゃんは不思議がってはいるのですが、お化けとまでは言っていません。なぜ草壁さんは、先回りする形となってまでお化けを否定したのでしょうか。しかもその説明をしている時、草壁さんは「ふーん」と言いながら口元に微笑を浮かべています。それは無理やりにでも余裕をかましておかなければならないという思いで、必死で余裕ぶった態度をとっていたようにも見えます。

 

 引っ越してきた当初から、草壁さんは子どもたちがこのおんぼろ屋敷に怯えることを危惧していたのではないでしょうか。その心配に反して、物件に到着した途端、子どもたちはテンションを上げて新生活や新しく住む環境に対して希望を膨らませていました。めいちゃんは事あるごとに「めいは怖くないもん」と連発します。普段から臆病者であると、さつきちゃんやお父さんにバカにされていたのかもしれません。

 

 草壁さんによる目の錯覚であるという科学的な納得するさつきちゃんですが、2階に行くとまた同様の現象が起こります。

 「おとうさーん、このうちやっぱり何かいるー!」

 さつきちゃんが窓を勢いよく空けて、タンスを引越し屋さんと一緒に運んでいるお父さんに言います。

 「そりゃあすごいぞ、お化け屋敷に住むのがお父さん、子どもの頃からの夢だったんだ」

 その時、大家のおばあさんが引越しの手伝いに来ていました。

 「すすわたりが出たな」

 大家のおばあさんがそのように言うと草壁さん

 「それは、妖怪ですか?」

 とちょっとおびえたような声で言います。

 「そっただおそろしげなもんでねえよう」

 おばあさんはのん気に答えます。おばあさんも子どもの頃には見えたけど、今ではすっかり見えなくなった。子どもにしか見えないもので、使われていない家に住み着くものだ、何も悪さはしないから安心しろと説明します。

 

 うっかり見過ごしてしまうのが、 「そりゃあすごいぞ、お化け屋敷に住むのがお父さん、子どもの頃からの夢だったんだ」と明るくさつきちゃんに返事をした後に、業者さんと一緒に運んでいたタンスをよろけて落としそうになることです。さつきちゃんの怪現象の訴えに明るく返事をしたものの、心の動揺が隠せなかったと見るべきではないでしょうか。おばあちゃんが「すすわたりが出たな」と言った時は、妖怪が怖いのではなく、なんて事を子どもに言ってくれるんだという動揺で、怯えたような声になってしまったのではないでしょうか。

 

(続く)

 

となりのトトロ [Blu-ray]

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1月に読んだ本

 Vコミ連載の『漫画 うちの子になりなよ』が最終回を迎える一方、SPA!の特集記事のイラストのお仕事をいただいて、それはとても助かったのだけど、やっぱりレギュラーがないのはつらい。漫画雑誌などで仕事ができることが全く想定できなくて、今後はインディーズ的な活動を模索していかなければならず、それはそれで中々面倒くさくてとりあえず『漫画 うちの子になりなよ』をnoteで描こうと思っていて原稿を途中までやっています。締め切りがないから他の作業をしていると中断してしまってなかなか完成しません。でもあと1日あれば完成するところまで来ているので近似中にUPします。今年は長編漫画も描きたいのです。

 

 暖冬なのはありがたいのだけど、天気が悪くて地面が濡れている日が多くて時々しか走れない。漫画教室で東京に来ると死ぬほど天気がよくて、いいなあと思う。根性のある人は雨が降っていても走っているのを見ると、そこまでじゃないなあと思う。

 

 去年のうちに読み終わろうと思って読み始めた阿部和重さんの『オーガ(二)ズム』が800ページを超す大作で全然読み終わらなくて1月末にようやく読み終わった。大変な分量だったけど、それに見合う大変な読み応えでした。 あんまり長期に及ぶと最初の方を忘れてしまうのでとにかく読み終えることができてよかった。しばらくは薄い本や漫画を読みたい。

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『悪魔を憐れむ唄』改め『テラー・トワイライト』

 コミックビームで連載して2巻まで刊行された『悪魔を憐れむ唄』という漫画がありまして、実は3巻分の長さであったのに2巻までの売れ行きがあまりに芳しくなかったため、3巻が出ずじまいでした。そうして、去年電子書籍で3巻を出したのですが、その際、3巻のみ自分で出すというのが出版社的にNGであったため、1巻と2巻の電子書籍がない状態となってしまいました。紙の単行本で1巻と2巻を読める状態の人が、3巻を電子書籍で読むと言う実にゆがんだ状態に陥っていました。それでようやく11月に1巻と2巻の電子書籍を作ることができてUPもしたのですが、告知をしないまま今に至っております。 

 これまでの単行本では長いあとがきを書いていたのですが、あとがきを電子書籍につけなかったので、こちらのブログでそれの代わりになるような文章を書こうと思っていて、それが面倒くさかったのです。アマゾンのキンドルではすでに販売しておりまして、熱心な方かアンリミテッドでなんとなく定額制だから読んだ人がいらっしゃり、何の宣伝もしていない割にちょっと売れてます。

 

 タイトルをなぜ変更したのかというと、最初からあまり『悪魔を憐れむ唄』がしっくり来てなかったし、それから他に似たタイトルで、後から出たのに遥かに売れている漫画が存在するというのもあります。こっちが真似しているみたいな形になって恥ずかしいし、営業妨害になっても申し訳ない。 

悪魔を憐れむ歌 4 (BUNCH COMICS)

悪魔を憐れむ歌 4 (BUNCH COMICS)

  • 作者:梶本 レイカ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/06/08
  • メディア: コミック
 

 絵も上手でとっても面白そうな漫画です。

 


The Rolling Stones - Sympathy For The Devil (Lyric Video)

 

 『悪魔を憐れむ歌』はローリングストーンズの名曲のタイトルで、それにあやかってつけたのですが、自分には荷が重すぎた。それで『テラー・トワイライト』にしたのですが、こちらはゾンビ漫画の作品集『青春と憂鬱とゾンビ』のタイトルを太田出版の村上さんと考えていた時に思いついたタイトルです。 

青春と憂鬱とゾンビ

青春と憂鬱とゾンビ

 

  実はペイブメントという90年代に活躍したバンドのアルバムタイトルからいただきました。


Pavement - Major Leagues (Official Video)

 来日ライブを新宿リキッドルームに見に行った時は、仕事で間に合わなくて途中からだったけど、ライブは大抵見ていていつも飽きるのでちょうどよかったと満足した記憶があります。ペイブメントのアルバム最終作でこの中の『Major Leagues』みたいな曲をもっと早く作れていたら解散しなくて済んだとか、売れていたはずだみたいにメンバーが語っていました。ペイブメントは、アメリカの西海岸と東海岸に分かれてメンバーが暮らしていて「うまくなりたくないから時々しか練習できないのがいいんだ」と言っていたので、解散に当たってはやっぱり売れたかったんだと思いました。うろ覚えの記憶で書いているので違っていたらごめんなさい。そんな負けっぷりがオレの漫画のタイトルにも似合っているじゃないですか。シンパシーを感じるのはローリング・ストーンズじゃなくて、ペイブメントだと、非常にしっくりきています。ホラー漫画の長編を描くときに絶対使おうと思っていましたが、ホラー漫画の長編を描く予定がないため、改題で何にしようかと考えた時に真っ先に思いつきました。ここで使わなかったら使う機会が訪れないまま終わる。

 

テラー・トワイライト

テラー・トワイライト

  • アーティスト:ペイブメント
  • 出版社/メーカー: バンダイ・ミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 1999/04/30
  • メディア: CD
 

  漫画の内容は、東京中野に暮らす地下芸人、渡辺がある日総武線でホストくずれみたいな悪魔に出会い、パシリにさせられパワハラを受けながらも芸人活動を健気に行う、というお話です。この漫画を描いている間は、本当に自分が地下芸人になったような気持ちで、地下芸人と一緒に中野大喜利皇子という大喜利ライブに出たりして身近にリアルな地下芸人に接していました。ヨージさんや二階堂旅人さんの実際のネタを描かせていただいたり、とーごさんに劇中漫才を作るのを手伝ってもらったりしました。そして自分のお笑いに対する思いをほぼ注ぎ込むことができてとても満足して、この漫画を描き終えてからはお笑いに対してあまり熱が上がらなくなってしまいました。

 

 タイトルロゴは、東陽片岡さんにお願いして描いていただこうかと思ったのですが、予算もないし、東陽さんも暇ではないだろうから自分で東陽さん風に描いてみました。今見るとちょっと横棒が長すぎるし、点のどくろの場所が横棒の下だろうと思いました。

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 そういうわけで『悪魔を憐れむ唄』改め『テラー・トワイライト』1~3巻、アマゾンキンドルで発売中です。キンドル・アンリミテッドでも読めますよ。 

テラートワイライト2 (日本海わくわくコミック)

テラートワイライト2 (日本海わくわくコミック)

 

 

テラートワイライト3 (日本海わくわくコミック)

テラートワイライト3 (日本海わくわくコミック)