古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

傑作ダメ男映画『マイアミブルース』

 『映画秘宝』2006年8月号で、『マイアミブルース』について文章とイラストを掲載したいただきました。字数を気にしないで書いたらけっこうな分量になってしまった下描きを、編集部の許諾をいただいたのでアップしようと思います。

1990年アメリカ
監督ジョージ・アーミテージ
主演アレック・ボールドウィン

 心に残るダメ男映画がある。自らの欲望に振り回され、結局のところ惨めに破滅するという全く晴れがましいことの一切ない、そんな男を描いた映画が本当に
大好きだ。『マイアミブルース』という作品を紹介したい。この映画は東京に住んでいた時、木曜日のフジで偶然見た。たまたまチャンネルを合わせるとクライ
マックスの場面で、女が男を車で待っている場面だった。サイドミラーに映る女の不安そうな表情と赤いスーパーカーと澄んだ空の色がとても印象的で、「オレ
はこの映画が好きかもしれない」と直感し、見るのを止めた。テレビ雑誌でタイトルを調べ改めてレンタルで見た。近所のレンタル屋には全然置いてなくて、新
宿の蔦屋で見つけることができた。


 主人公のジュニア(アレック・ボールドウィン)は各地を転々としながら窃盗や強盗で身を立てていた。マイアミで純情な売春婦(ジェニファージェイソン
リー)と出会い二人は結婚の約束をして堅気になろうと決意する。しかし結局はニセ警官となりケチな犯罪を繰り返し生計を立てるのであった……。ストーリー
的にはそんなに目立つところもないのだが、心の琴線に触れる場面がたっぷりで、特にオレが夜中のテレビで見た彼女とスーパーカーで古道具屋に行くくだり
は、『タクシードライバー』のクライマックスと同じくらい完璧な構成!


 ジュニアはいよいよ警察からの包囲も厳しくなって来た折、彼女に運転させて古道具屋に出かける。強盗に行ったのだ。車で待たせてた彼女を気にしながら金
を要求すると、店の女主人に鉈で左手の指を三本切られてしまう。女主人を撃ち、金と指を片手でかき集め、宝石のついた指輪をはめて彼女が待つ車に向かうと
老刑事(フレッド・ウォード)がやってくる。車に乗ろうとすると「もう悪い事しないって言ったじゃない!」と彼女はジュニアを乗せずに車を出してしまう。
街中の古道具屋の前で老刑事と撃ち合いになる。お互い弾が全然当たらないリアルで締まらない銃撃戦を経て、自宅になんとか逃げ帰り半べそで酒を飲んで指の
痛さを散らしていると、そこに老刑事がやって来る……。


 この『マイアミブルース』という大して興味も引かず、面白くもなさそうで、普通だったらまず見ようとも思わないタイトル! そこには、センスのよさをひけらかす事を潔しとしないというような意図すら感じさせるものがある。センスのいいのが見たければガイリッチーの映画でも見といてくれとも言わんばかりである。画面に映る、衣装や音楽も全然かっこよくなかった。

 とにかくオレはこの映画見て大変感動し、この映画を当時同じアパートに住んでいた連中に、とにかく素晴らしいから見てくれと言って無理矢理見せた。ところが連中と来たら「面白かったけど普通
だった」というような気の抜けた感想であった。今も時折、街のレンタル屋さんにひっそりと置いてある事があるので、みなさん探してみて下さい。そして感想
を教えて下さい。


 他にダメ男映画ではニコラスケイジの『リービングラスベガス』、ゲイリーオールドマンの『蜘蛛女』も大変素晴らしいダメ男っぷりが堪能できるので、ぜひご覧下さい。またお勧めのダメ男映画がありましたら、ぜひともご紹介下さい。