古泉智浩の『読書とお知らせ』

マンガ家の古泉智浩です。ココログより引越ししました。

SF二連発

 映画『トゥモローワールド』と小説『タイタンの妖女』を見たり読んだりしました。いつものようにここから先は完全にネタバレですよ。

 映画『トゥモローワールド』は18年間子供が生まれないという超少子化社会を描いた近未来のイギリスを舞台にしたお話でした。安っぽいSFなのかなと面白いのかどうか半信半疑で、『父親たちの星条旗』かどっちにしようか迷いつつ見に行ったのですがこれが!超骨太なSFアクション映画でした!! 面白かった!

 そんな近未来世界ではイギリス以外の国が崩壊して、イギリスに大量の難民が押し寄せて来ているのに、移民を受け入れない政策を採っていて、テロが頻発していた。そんなある日、移民の中に妊婦がいたのでさあ大変という物語でした。

 主人公(クライヴ・オーウェン)が元テロリストの役人で、実に無愛想で、何の面白みもない男なのにも関わらず、よれよれな感じがこれがなかなかどうしてかっこよくて、色気があって素敵なんですよ。むすっとしてて行動に面白みもないのに魅力的って、こんな事は実際問題認めたくないことです。『ブレードランナー』のハリソンフォードに佇まいが似ています。生まれ持ったかっこよさって言うことなんでしょうか。

 アクション場面がすごい勢いでワンカットの長回しで撮影されていて圧倒されます。とにかく最後まで先が全然読めなくて、時計を一切見ることなく見終わりました。印象は大違いですが『グエムル』に匹敵するくらい面白かったです。『グエムル』以来でパンフレット買っちゃいました。

 この完成度の高い世界観をすごいスケールできっちりと構築して、見事な構成でドラマを仕上げたアルフォンソ・キュアロン監督には是非とも村上龍先生の『半島を出よ』を映画化して欲しいです。

トゥモローワールド公式サイト


 爆笑問題の太田光さんが一番面白い小説として上げて、所属事務所の名前にまでしたカート・ヴォネガット・ジュニアの『タイタンの妖女』を読みました。時間ができたらいつか読もうとずっと前から心に決めていてやっと念願叶って読んだわけですが、これがさっぱり面白くなくてがっかりしました。

 SFというよりファンタジーで適当な思いつきの世界で物語が展開します。全部が全部観念の中で構築したものという感じがして、読んでいる間ずっと世界に入り込めないような、疎外感を味わっていました。登場人物を全然好きになれなくて困りました。唯一好きなのは、主人公の父親の投資で大もうけした人だけでしたが、出番は回想の中だけですぐに死んでしまいました。後はどうでもいい面白くない連中がぐずぐずやっているだけという印象でした。結末はちょっとしんみりしましたが、それより読み終わる事の嬉しさの方が何倍も上でした。

 太田さんが大推薦するだけあって期待が大きすぎたのかもしれないですが、とにかくがっかりでした。これならアメリカ人作家という以外全然関係ないですがチャールズ・ブコウスキーの方が千倍面白いです。『ポストオフィス』はブコウスキーが仕事中の喫煙で郵便物が燃えてアメリカの郵便局の仕分け室が禁煙になったエピソードなど面白さたっぷりです。「おい、お前の郵便が燃えてるぞ」「うわーっ!」。